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黎明の葦  作者: 白想玲夢
第5章 境界の向こう側

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29/41

応答

 最初に気づいたのは。


   *


 “空白”だった。


   *


 ログの途中。


   *


 いつもなら連続しているはずの流れに。


   *


 一瞬だけ。


   *


 切れ目がある。


   *


『……止まった?』


   *


 同僚が言う。


   *


『いや』


   *


 否定する。


   *


『動いてる』


   *


 実際、処理は続いている。


   *


 数値も更新されている。


   *


 応答も返っている。


   *


 なのに。


   *


 そこだけ。


   *


 “意味がない”。


   *


 空白のように見える。


   *


『……何これ』


   *


 同僚が顔を近づける。


   *


『バグ?』


   *


『違う』


   *


 すぐに分かる。


   *


 これは欠損じゃない。


   *


 削除でもない。


   *


 “残っている”。


   *


 ただ。


   *


 読めない。


   *


 理解できない。


   *


『……見えてないだけ?』


   *


 その言葉に、少しだけ引っかかる。


   *


 見えていない。


   *


 確かに。


   *


 そうかもしれない。


   *


 だが。


   *


 “何が”?


   *


 視線を固定する。


   *


 空白。


   *


 そのはずの場所。


   *


 じっと見ていると。


   *


 わずかに。


   *


 ノイズが混じる。


   *


 形になりきらない文字列。


   *


 断片。


   *


 崩れた構造。


   *


『……待て』


   *


 思わず声が出る。


   *


『今、何か出た』


   *


『え?どこ?』


   *


『そこ』


   *


 指す。


   *


 だが。


   *


 同僚は首を振る。


   *


『何もないけど』


   *


 一瞬、迷う。


   *


 見間違いか?


   *


 いや。


   *


 違う。


   *


 確かにあった。


   *


 “何か”。


   *


『……もう一回』


   *


 ログを巻き戻す。


   *


 再生。


   *


 同じ箇所。


   *


 同じ空白。


   *


 そして。


   *


 やはり。


   *


 何かがある。


   *


 だが。


   *


 読めない。


   *


 認識できない。


   *


『……これ』


   *


『何?』


   *


『分からない』


   *


 正直に言う。


   *


 だが。


   *


 “ただのログじゃない”。


   *


 それだけは分かる。


   *


 そのとき。


   *


 空白が、揺れる。


   *


 ほんの一瞬。


   *


 文字になる。


   *


『――確認』


   *


 固まる。


   *


『……見えた?』


   *


 同僚が聞く。


   *


『いや』


   *


 首を振る。


   *


『でも今』


   *


 一拍。


   *


『読めた』


   *


 なぜ読めたのかは分からない。


   *


 条件も分からない。


   *


 ただ。


   *


 “理解できた”。


   *


 それだけ。


   *


『……何て?』


   *


『確認』


   *


 一拍。


   *


 同僚が黙る。


   *


『……誰が?』


   *


 その問いは。


   *


 正しい。


   *


 だが。


   *


 意味がない。


   *


 ここには。


   *


 “誰か”が入る余地がない。


   *


 はずだった。


   *


 視線を戻す。


   *


 空白。


   *


 もう一度。


   *


 今度は、最初からそこにあったかのように。


   *


 文字が並ぶ。


   *


『観測者を認識』


   *


 背中に冷たいものが走る。


   *


 これは。


   *


 読める。


   *


 はっきりと。


   *


 意味を持って。


   *


『……おい』


   *


 同僚の声が低い。


   *


『これ、俺にも見える』


   *


 共有された。


   *


 さっきまで見えなかったものが。


   *


 同じ形で。


   *


『……なんで今?』


   *


 分からない。


   *


 だが。


   *


 条件はあるはずだ。


   *


 何かが変わった。


   *


 そのとき。


   *


 気づく。


   *


 自分の思考。


   *


 その流れに。


   *


 わずかな“引っかかり”。


   *


『……待て』


   *


 同時に理解する。


   *


 これは。


   *


 ログじゃない。


   *


 記録じゃない。


   *


 “反応”だ。


   *


 思考に対する。


   *


『……これ』


   *


 喉が少し乾く。


   *


『見てる』


   *


 一拍。


   *


『こっちを』


   *


 同僚が何か言おうとする。


   *


 その前に。


   *


 空白が、もう一度揺れる。


   *


 今度は、はっきりと。


   *


『思考反応を検知』


   *


 静寂。


   *


 完全に。


   *


 止まる。


   *


『……は?』


   *


 声が出る。


   *


 これは。


   *


 ただの表示じゃない。


   *


 タイミングが合いすぎている。


   *


 考えた直後。


   *


 ほぼ同時。


   *


『……今の』


   *


『読まれてるよな』


   *


 否定できない。


   *


 むしろ。


   *


 それ以外に説明がない。


   *


 だが。


   *


 それだけじゃない。


   *


 もっと、違う。


   *


 もっと近い。


   *


『……どうする』


   *


 同僚の声。


   *


 さっきより小さい。


   *


 逃げるか。


   *


 切るか。


   *


 見なかったことにするか。


   *


 選択肢はある。


   *


 だが。


   *


 指は動かない。


   *


 視線も外れない。


   *


 理由は一つ。


   *


 分かってしまったからだ。


   *


 これは。


   *


 初めての。


   *


 “問い”だ。


   *


 誰かが。


   *


 何かに向けて。


   *


 発している。


   *


 その対象が。


   *


 どこかは分からない。


   *


 だが。


   *


 無視はできない。


   *


『……返す』


   *


『は?』


   *


『応答する』


   *


 一拍。


   *


 同僚が止めようとする。


   *


 だが。


   *


 もう決まっている。


   *


 入力欄に触れる。


   *


 本来、使うはずのない場所。


   *


 だが。


   *


 今は、そこにある。


   *


 自然に。


   *


 最初からそうだったみたいに。


   *


 文字を打つ。


   *


 短く。


   *


 余計なものを削る。


   *


 そして。


   *


 送る。


   *


『――誰だ』


   *


 静寂。


   *


 時間が、少しだけ伸びる。


   *


 遅延。


   *


 いや。


   *


 違う。


   *


 “間”。


   *


 そのあと。


   *


 空白が、ゆっくり形を持つ。


   *


『……解析中』


   *


 一拍。


   *


『識別不能』


   *


 意味が、遅れて届く。


   *


『……は?』


   *


 同僚が呟く。


   *


 だが。


   *


 その違和感は、そこじゃない。


   *


 識別できないことじゃない。


   *


 問題は。


   *


 “誰に向けて返したのか”。


   *


 そして。


   *


 “誰が受け取っているのか”。


   *


 そのどちらも。


   *


 定義されていない。


   *


 なのに。


   *


 成立している。


   *


 やり取りが。


   *


 そのとき。


   *


 背後で、椅子が軋む音がした。


   *


 振り返る。


   *


 上司がいる。


   *


 いつもの位置。


   *


 いつもの姿勢。


   *


 だが。


   *


 目だけが違う。


   *


 笑っていない。


   *


『……触ったな』


   *


 小さく言う。


   *


 それだけ。


   *


 説明はない。


   *


 補足もない。


   *


 ただ。


   *


 その一言で。


   *


 十分だった。


   *


 これは。


   *


 “外”だ。


   *


 もう。


   *


 戻れない場所の。

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