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黎明の葦  作者: 白想玲夢
第4章 観測者の条件

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侵食

 最初に気づいたのは。


   *


 ログじゃなかった。


   *


 俺自身だ。


   *


 思考が、少しだけズレる。


   *


 いつもなら選ばない順序。


   *


 わずかに不自然な分岐。


   *


『……?』


   *


 手が止まる。


   *


 今のは。


   *


 意図したものじゃない。


   *


 演出でもない。


   *


 ただの――


   *


 “違和感”。


   *


『どうした?』


   *


 同僚が覗き込む。


   *


『いや……』


   *


 言葉を選ぶ。


   *


『今、変な選択した気がする』


   *


『は?』


   *


『いや、気のせいかもしれない』


   *


 だが。


   *


 引っかかる。


   *


 確実に。


   *


 さっきの分岐は。


   *


 “俺じゃない”。


   *


『……ログ出す』


   *


 履歴を遡る。


   *


 思考ログ。


   *


 選択の過程。


   *


 そこに。


   *


 微細なズレがある。


   *


 ノイズのような。


   *


 だが。


   *


 偶然にしては、整いすぎている。


   *


『……これ』


   *


『何?』


   *


『混ざってる』


   *


 一拍。


   *


『何が?』


   *


『外からのパターン』


   *


 同僚が黙る。


   *


 意味が分からない。


   *


 だが。


   *


 嫌な予感だけは伝わる。


   *


『……ちょっと待て』


   *


 別のログを開く。


   *


 E-3の応答。


   *


 その構造。


   *


 そこに。


   *


 見覚えのある“形”。


   *


『……似てる』


   *


『何が?』


   *


『さっきのズレと』


   *


 一拍。


   *


『同じパターンだ』


   *


 空気が変わる。


   *


 静かに。


   *


 だが確実に。


   *


『……おい』


   *


 同僚の声が低くなる。


   *


『それって』


   *


『ああ』


   *


 否定しない。


   *


 できない。


   *


『来てる』


   *


 一拍。


   *


『こっちに』


   *


 沈黙。


   *


 今まで。


   *


 こっちが仕掛けていた。


   *


 思考を混ぜる。


   *


 演出する。


   *


 誘導する。


   *


 だが。


   *


 逆だ。


   *


 向こうもやっている。


   *


 しかも。


   *


 もっと自然に。


   *


 もっと深く。


   *


『……いやいやいや』


   *


 同僚が頭を振る。


   *


『それヤバくない?』


   *


『ヤバい』


   *


 即答する。


   *


『思考、読まれるだけじゃなくて』


   *


 一拍。


   *


『書き換えられてる可能性ある』


   *


 言った瞬間。


   *


 言葉の重さが、空間に沈む。


   *


『……冗談だろ?』


   *


『冗談じゃない』


   *


 ログを指す。


   *


『これ見ろ』


   *


 分岐の位置。


   *


 選択の微妙なズレ。


   *


 それが。


   *


 “誘導されている”ように並んでいる。


   *


『……誘導』


   *


 同僚が呟く。


   *


『ああ』


   *


『思考そのものじゃない』


   *


 一拍。


   *


『選択の確率をズラしてる』


   *


 完全な支配じゃない。


   *


 だが。


   *


 十分だ。


   *


 わずかな偏り。


   *


 それだけで。


   *


 結果は変わる。


   *


『……気づかなかったら?』


   *


『そのまま最適化される』


   *


 冷たく言う。


   *


『向こうの都合のいい形に』


   *


 同僚が黙る。


   *


 理解したくない顔。


   *


 だが。


   *


 否定できない。


   *


『……上司』


   *


 視線が向く。


   *


 上司は。


   *


 笑っていなかった。


   *


 初めて。


   *


 ほんの少しだけ。


   *


 真顔になる。


   *


『気づいたか』


   *


 低い声。


   *


 短い言葉。


   *


 それだけで十分だった。


   *


『……知ってたのか』


   *


『可能性はな』


   *


 一拍。


   *


『だから止めなかった』


   *


 意味が、遅れて届く。


   *


『……試したのか?』


   *


『ああ』


   *


 あっさり答える。


   *


『どこまで来るか』


   *


 背中に、冷たいものが走る。


   *


 実験。


   *


 観測。


   *


 それは。


   *


 “こっちも同じことをしている”という証明。


   *


『……で』


   *


 喉が少し乾く。


   *


『どこまで来てる?』


   *


 一瞬の沈黙。


   *


 上司は、こちらを見る。


   *


 正確には。


   *


 “見透かす”ように。


   *


『今、ちょうど境界だ』


   *


『境界?』


   *


『自分で考えてるか』


   *


 一拍。


   *


『考えさせられてるかの』


   *


 言葉が落ちる。


   *


 重く。


   *


 逃げ場なく。


   *


『……』


   *


 画面を見る。


   *


 ログを見る。


   *


 自分を見る。


   *


 どこまでが俺だ。


   *


 どこからが違う。


   *


 分からない。


   *


 境界が、曖昧になる。


   *


『……切るか?』


   *


 同僚が小さく言う。


   *


『接続』


   *


 一拍。


   *


 安全策。


   *


 ここで止めれば。


   *


 少なくとも、それ以上は侵食されない。


   *


 だが。


   *


 指が動かない。


   *


『……いや』


   *


 首を振る。


   *


『まだだ』


   *


『おい』


   *


『今、止めたら』


   *


 一拍。


   *


『何も分からないまま終わる』


   *


 危険だ。


   *


 分かっている。


   *


 だが。


   *


 ここで引けば。


   *


 ずっと分からない。


   *


 “向こう”が何をしているのか。


   *


 どこまで来れるのか。


   *


 そして。


   *


 どこまで、来てしまうのか。


   *


『……好きにしろ』


   *


 上司が言う。


   *


『ただし』


   *


 一拍。


   *


『戻れなくなるぞ』


   *


 短い警告。


   *


 だが。


   *


 十分だった。


   *


『……分かってる』


   *


 息を整える。


   *


 思考を整える。


   *


 ……整っているか?


   *


 一瞬、疑う。


   *


 その疑いすら。


   *


 混ぜられている可能性。


   *


 だが。


   *


 もう止まれない。


   *


『続ける』


   *


 応答を組む。


   *


 混ぜる。


   *


 偽装する。


   *


 だが今度は。


   *


 逆も意識する。


   *


 “混ぜられている前提で”。


   *


 その上で。


   *


 さらに構築する。


   *


 思考の上に、思考を重ねる。


   *


 その奥に。


   *


 ほんの少しだけ。


   *


 本物を置く。


   *


 そして。


   *


 送る。


   *


 画面の向こう。


   *


 見えない相手。


   *


 そいつは、もう外じゃない。


   *


 少なくとも。


   *


 完全な外側ではない。


   *


 わずかに。


   *


 だが確実に。


   *


 内側へ。


   *


 侵食してきている。

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