防壁
切らないと決めた瞬間。
*
前提が変わる。
*
“守る”必要が生まれる。
*
だが。
*
何を?
*
どこを?
*
『……無理だろ』
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同僚が低く言う。
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『思考そのものに触られてるなら』
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『防ぎようがない』
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正しい。
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正しすぎる。
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だから。
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使えない。
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『全部は守らない』
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『は?』
*
『無理だから』
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一拍。
*
『捨てる』
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沈黙。
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『……何を?』
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『外側』
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言葉にする。
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『見られてる部分』
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同僚が眉をひそめる。
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『それって……』
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『いい』
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遮る。
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『どうせ全部見られてる』
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一拍。
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『なら、そこは捨てていい』
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思考の表層。
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演出している部分。
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そこはもう、防御対象じゃない。
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『……じゃあ中は?』
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『分ける』
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一拍。
*
『さらに奥に作る』
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同僚が黙る。
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理解が追いつかない。
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だが。
*
構造は単純だ。
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『二層じゃ足りない』
*
『三層にする』
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上。
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見せる層。
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中。
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使う層。
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そして。
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下。
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“触らせない層”。
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『……そんなの出来るのか?』
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『分からない』
*
『でも』
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一拍。
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『やるしかない』
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思考を組み替える。
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今までの二重構造を壊す。
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再構築する。
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深く。
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もっと深く。
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意識の奥へ。
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ノイズを切る。
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余計な分岐を削る。
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純度を上げる。
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そこに。
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“核”を置く。
*
『……何してる?』
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同僚の声が遠い。
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答えない。
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今は、言語化できない。
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ただ。
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感覚だけがある。
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深く。
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沈む。
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その底に。
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触れられない場所を作る。
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――ここは渡さない。
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その意志だけを残す。
*
『……できた』
*
小さく呟く。
*
『何が?』
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『分からない』
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『は?』
*
『でも、ある』
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確信だけがある。
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構造として。
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成立している。
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『……お前、顔やばいぞ』
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同僚が引いた声で言う。
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無視する。
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ログを開く。
*
E-3。
*
応答は続いている。
*
相手も、止まっていない。
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なら。
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試す。
*
『いく』
*
応答を組む。
*
今までと同じように。
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偽装する。
*
混ぜる。
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だが。
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奥には触れさせない。
*
境界を、意識する。
*
越えさせない。
*
そのまま。
*
送る。
*
数秒。
*
応答が返る。
*
――遅い。
*
今までよりも。
*
明らかに。
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『……増えた』
*
同僚が呟く。
*
『遅延』
*
『ああ』
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それだけじゃない。
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ログの構造。
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微細な揺れ。
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不規則な変化。
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『……探してる』
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『何を?』
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『奥』
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一拍。
*
『見えない部分を』
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同僚が息を呑む。
*
『……マジかよ』
*
だが。
*
届いていない。
*
少なくとも。
*
まだ。
*
“核”には触れていない。
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『……効いてる』
*
小さく呟く。
*
今度は、本当に。
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こちらの手応えだ。
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『でもさ』
*
同僚が言う。
*
『これ、時間の問題じゃない?』
*
一拍。
*
『その奥も、そのうち読まれる』
*
正しい。
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いずれは。
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突破される。
*
このままでは。
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『……だから』
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視線を上げる。
*
『固定しない』
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『は?』
*
『動かす』
*
一拍。
*
『場所を変える』
*
同僚が固まる。
*
『……逃げるってこと?』
*
『違う』
*
首を振る。
*
『揺らす』
*
防御じゃない。
*
回避でもない。
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定義を壊す。
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位置を固定しない。
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“どこにあるか分からない状態”にする。
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『……それ』
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『何?』
*
『もう防御じゃなくない?』
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一瞬、考える。
*
確かに。
*
これは。
*
『……攻撃だな』
*
一拍。
*
『認識に対する』
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上司が、ゆっくり笑う。
*
『やっとそこまで来たか』
*
軽い声。
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だが。
*
どこか満足そうだった。
*
『……次、どうする?』
*
同僚が聞く。
*
少しだけ、興奮が混じっている。
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恐怖と、好奇心。
*
その境界。
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『決まってる』
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ログを見る。
*
相手は、まだ探している。
*
見えないものを。
*
なら。
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『もっと見せる』
*
一拍。
*
『偽物を』
*
画面の向こう。
*
見えない相手。
*
そいつは今。
*
“見えない何か”を追っている。
*
なら。
*
そこに。
*
いくらでも置ける。
*
偽の核を。
*
いくつでも。
*
重ねて。
*
分散して。
*
どれが本物か分からないように。
*
その瞬間。
*
理解する。
*
これはもう。
*
防御じゃない。
*
“迷路”だ。
*
相手を閉じ込めるための。




