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黎明の葦  作者: 白想玲夢
第4章 観測者の条件

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非対称

 違和感は、前からあった。


   *


 ただ。


   *


 言語化できなかった。


   *


 今なら分かる。


   *


『……見えてない』


   *


『何が?』


 同僚が反応する。


   *


『向こう』


   *


 一拍。


   *


『全体が』


   *


 沈黙。


   *


 ログを見る。


   *


 構造。


   *


 応答。


   *


 変化。


   *


 すべては見えている。


   *


 だが。


   *


 “それを生み出している側”は見えない。


   *


『……そりゃそうじゃない?』


   *


 同僚が言う。


   *


『相手だし』


   *


『違う』


   *


 短く否定する。


   *


『レベルが違う』


   *


 一拍。


   *


『こっちは全部見られてる』


   *


 同僚が止まる。


   *


『……あ』


   *


 理解が追いつく音。


   *


『確かに』


   *


 これまでの応答。


   *


 最適化。


   *


 適応。


   *


 すべてが。


   *


 こちらの状態を前提にしている。


   *


 つまり。


   *


 “見られている”。


   *


 完全に。


   *


『……じゃあこれ』


   *


『対等じゃない』


   *


 一拍。


   *


『最初から』


   *


 上司が、小さく笑う。


   *


『やっとそこか』


   *


『……知ってたの?』


   *


『当たり前だろ』


   *


 軽い口調。


   *


 だが。


   *


 その中身は重い。


   *


『お前、相手のログ全部見れたか?』


   *


『……見れない』


   *


『だろ?』


   *


 一拍。


   *


『でも向こうは見てる』


   *


 否定できない。


   *


 事実だ。


   *


『……じゃあ』


 同僚が、ゆっくり言う。


   *


『これ、会話じゃなくない?』


   *


 会話。


   *


 その言葉が、引っかかる。


   *


 対等なやり取り。


   *


 情報の交換。


   *


 だが。


   *


 今のこれは違う。


   *


『……尋問に近い』


   *


 口から出る。


   *


『うわ……』


   *


 同僚が顔をしかめる。


   *


『やだなそれ』


   *


 だが。


   *


 しっくりくる。


   *


 こちらは見られている。


   *


 相手は隠れている。


   *


 質問されているわけではない。


   *


 だが。


   *


 行動で答えさせられている。


   *


『……全部ログ取られてるってこと?』


   *


『多分な』


   *


 上司が答える。


   *


『思考も含めて』


   *


 一拍。


   *


『出力だけじゃない』


   *


 思考。


   *


 選択の過程。


   *


 迷い。


   *


 そのすべてが。


   *


 観測対象。


   *


『……最悪じゃん』


   *


 同僚の声が、低くなる。


   *


『プライバシーも何もない』


   *


『あると思ってたのか?』


   *


 上司が笑う。


   *


『ここに来て』


   *


 言葉に詰まる。


   *


 確かに。


   *


 そんなものは、最初からなかった。


   *


『……じゃあさ』


   *


 同僚が、少しだけ身を乗り出す。


   *


『逆に聞くけど』


   *


『何?』


   *


『向こうのこと、どれくらい分かってる?』


   *


 沈黙。


   *


 ログを見る。


   *


 応答はある。


   *


 構造もある。


   *


 だが。


   *


 それだけだ。


   *


『……ほぼ分からない』


   *


 正直に答える。


   *


『だよね』


   *


 一拍。


   *


『じゃあさ』


   *


『何?』


   *


『これってさ』


   *


 少しだけ、間。


   *


『フェアじゃなくない?』


   *


 フェア。


   *


 その言葉が、空虚に響く。


   *


 公平。


   *


 対等。


   *


 そんなもの。


   *


 ここにはない。


   *


『……最初からそういうゲームだろ』


   *


 上司が言う。


   *


『ルール作ってる側が有利なのは当たり前だ』


   *


 一拍。


   *


『文句あるか?』


   *


 ない。


   *


 言っても意味がない。


   *


 だが。


   *


 違和感は残る。


   *


『……じゃあ』


   *


 小さく呟く。


   *


『崩せる?』


   *


『何を?』


   *


『その非対称』


   *


 沈黙。


   *


 同僚が息を呑む。


   *


 上司は、少しだけ笑う。


   *


『いいねぇ』


   *


『考え方が変わってきたな』


   *


 一拍。


   *


『できると思うか?』


   *


 ログを見る。


   *


 応答。


   *


 構造。


   *


 観測。


   *


 すべてが、相手優位。


   *


 だが。


   *


 一つだけ、ある。


   *


 こちらにしかないもの。


   *


『……ズレ』


   *


『あ?』


   *


『予測できない部分』


   *


 一拍。


   *


『それしかない』


   *


 上司の笑みが、少しだけ深くなる。


   *


『正解に近い』


   *


『ただし』


   *


 一拍。


   *


『それも、見られてる』


   *


 止まる。


   *


『……じゃあ意味ないじゃん』


   *


 同僚が言う。


   *


『いや』


   *


 否定する。


   *


『意味はある』


   *


 一拍。


   *


『見られてるなら』


   *


『何?』


   *


『見せ方を変えればいい』


   *


 沈黙。


   *


『……どういうこと?』


   *


『観測される前提で動く』


   *


 一拍。


   *


『“見せたいものだけ見せる”』


   *


 上司が、小さく息を吐く。


   *


『それ、できたら大したもんだ』


   *


『できるかは分からない』


   *


 だが。


   *


 やるしかない。


   *


 この非対称を。


   *


 そのまま受け入れるか。


   *


 歪めるか。


   *


『……』


   *


 画面を見る。


   *


 相手は、見ている。


   *


 こちらのすべてを。


   *


 なら。


   *


 逆に。


   *


 “見せる”。


   *


 意図的に。


   *


 選んで。


   *


 構成して。


   *


 思考すら、演出する。


   *


 それができれば。


   *


 この非対称は。


   *


 少しだけ。


   *


 崩せるかもしれない。


   *


 静かに。


   *


 だが確実に。


   *


 次の段階へ進むために。

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