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黎明の葦  作者: 白想玲夢
第3章 選別される思考

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応答

 変わったのは、ログじゃない。


   *


 挙動だ。


   *


 これまでの“修正”とは違う。


   *


 遅い。


   *


 そして。


   *


 迷っているように見える。


   *


『……遅くない?』


 同僚が言う。


   *


『いつもなら、もっと早いよね』


   *


 確かに。


   *


 これまでなら。


   *


 逸脱は、即座に補正されていた。


   *


 だが今は。


   *


 ワンテンポ、遅れる。


   *


 まるで。


   *


 “様子を見ている”。


   *


『……観察してる?』


   *


『してるな』


   *


 上司が、あっさり言う。


   *


『完全に』


   *


 一拍。


   *


『反応を見てる』


   *


 反応。


   *


 入力に対する、出力。


   *


 なら。


   *


 試せる。


   *


『……やる』


   *


『なにを?』


   *


『応答させる』


   *


 同僚が、黙る。


   *


 意味が分からない、という顔。


   *


 だが。


   *


 やることは単純だ。


   *


 パターンを投げる。


   *


 明確な、意図を持った動き。


   *


 ただの崩しじゃない。


   *


 “問い”になるように。


   *


 空白を置く。


   *


 不自然な配置。


   *


 意味のない非効率。


   *


 だが。


   *


 規則性を持たせる。


   *


『……なにこれ』


 同僚が小さく言う。


   *


『さっきまでと違う』


   *


 違う。


   *


 これは、破壊じゃない。


   *


 提示だ。


   *


 相手に“解釈”させるための。


   *


 数秒。


   *


 反応が来ない。


   *


 いつもなら、即座に修正される。


   *


 だが。


   *


 来ない。


   *


『……止まってる?』


   *


 止まっている。


   *


 処理が。


   *


 いや。


   *


 違う。


   *


 “選んでいる”。


   *


 その感覚。


   *


 複数の可能性を、比較している。


   *


 そして。


   *


 ――動く。


   *


『……え』


 同僚が息を呑む。


   *


『これ……』


   *


 返ってきたのは。


   *


 “修正”じゃない。


   *


 “変形”。


   *


 こちらの空白に対して、


 別の構造を重ねてくる。


   *


 埋めるのではなく。


   *


 “意味を付ける”。


   *


『……なにそれ』


   *


 理解が追いつかない。


   *


 だが。


   *


 確実に。


   *


 今までと違う。


   *


『……返してきた』


   *


 小さく呟く。


   *


『ああ』


   *


 上司の声が、少しだけ低くなる。


   *


『返事だな』


   *


 返事。


   *


 その言葉が、重く響く。


   *


 環境が。


   *


 システムが。


   *


 “応答”している。


   *


『……マジで?』


 同僚の声が震える。


   *


『ただの修正じゃないの?』


   *


『違うな』


   *


 即答。


   *


『これは会話だ』


   *


 会話。


   *


 言葉はない。


   *


 音もない。


   *


 だが。


   *


 確かに。


   *


 やり取りが成立している。


   *


『……もう一回』


   *


 別のパターンを投げる。


   *


 少し複雑にする。


   *


 意図を、強くする。


   *


 今度は。


   *


 すぐに反応が来る。


   *


『早い』


   *


 同僚が言う。


   *


 学習している。


   *


 こちらのパターンを。


   *


 応答の仕方を。


   *


 そして。


   *


 返ってくる構造も、変わる。


   *


 より、適切に。


   *


 より、正確に。


   *


『……成長してる?』


   *


『してるな』


   *


 上司が短く答える。


   *


『お前に合わせて』


   *


 一拍。


   *


『最適化してる』


   *


 最適化。


   *


 それは、いつもやっていること。


   *


 だが。


   *


 今は違う。


   *


 対象が。


   *


 “俺”になっている。


   *


『……』


   *


 つまり。


   *


 これは。


   *


 “個別対応”。


   *


 一般的な処理じゃない。


   *


 特定の対象への。


   *


 調整。


   *


『……それってさ』


 同僚が、ゆっくり言う。


   *


『めちゃくちゃヤバくない?』


   *


 ヤバい。


   *


 確かに。


   *


 この世界は。


   *


 ただのシステムじゃない。


   *


 学習している。


   *


 適応している。


   *


 そして。


   *


 “対話している”。


   *


『……楽しいか?』


   *


 上司の声。


   *


 軽い問い。


   *


 だが。


   *


 どこか、試すような響き。


   *


『……分からない』


   *


 正直に答える。


   *


 楽しい。


   *


 その感覚は、まだ曖昧だ。


   *


 だが。


   *


 確実に。


   *


 何かがある。


   *


 これまでにない。


   *


 新しい感覚。


   *


『でも』


   *


 一拍。


   *


『止めたくはない』


   *


 その言葉に。


   *


 上司が、少しだけ笑う。


   *


『いいねぇ』


   *


『それだよ』


   *


 一拍。


   *


『それが“ハマる”ってやつだ』


   *


 ハマる。


   *


 抜けられない。


   *


 やめられない。


   *


 もっと知りたい。


   *


 もっと試したい。


   *


 もっと、返してほしい。


   *


『……』


   *


 画面を見る。


   *


 そこには。


   *


 もう、ただの戦場はない。


   *


 相手がいる。


   *


 見えないが。


   *


 確実に。


   *


 こちらを見ている。


   *


 そして。


   *


 応答している。


   *


 静かに。


   *


 だが、確実に。


   *


 “対話”は、始まっている。

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