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黎明の葦  作者: 白想玲夢
第3章 選別される思考

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他者

 最初は、ノイズだと思った。


   *


 普段と違うログの揺らぎ。


 優先度の低い断片。


   *


 無視されるはずの情報。


   *


 だが。


   *


 それが、何度も引っかかる。


   *


 同じパターン。


   *


 同じ“ズレ”。


   *


『……これ、何?』


 同僚が呟く。


   *


『知らないログが混ざってる』


   *


 混ざっている。


   *


 自分たちの戦場のものじゃない。


   *


 別の領域。


   *


 別の戦場。


   *


『……なんで見えてるの?』


   *


 理由は一つしかない。


   *


 優先度が上がっている。


   *


 “同じ分類”として扱われている。


   *


『……似てる』


   *


 同僚の声が低くなる。


   *


『この動き』


   *


 確かに。


   *


 空白。


   *


 構造の崩し方。


   *


 最適化を外す挙動。


   *


 どこか、似ている。


   *


 だが。


   *


 同じじゃない。


   *


 もっと。


   *


 荒い。


   *


 あるいは。


   *


 極端だ。


   *


『……これも』


   *


 一拍。


   *


『“異常”?』


   *


 その言葉が、静かに落ちる。


   *


 異常。


   *


 外れ値。


   *


 俺と、同じ。


   *


 ――違う。


   *


 “同じカテゴリ”。


   *


 だが。


   *


 個体は、別。


   *


『あー……』


 上司が、気の抜けた声を出す。


   *


『見えちまったか』


   *


『何が』


   *


『他のやつ』


   *


 やつ。


   *


『お前だけじゃねぇよ』


   *


 一拍。


   *


『ズレてんのは』


   *


 静かに、処理が止まる。


   *


 自分だけじゃない。


   *


 この世界に。


   *


 “異常”は、複数ある。


   *


『……何個くらい』


 同僚が問う。


   *


『さあな』


   *


 上司は、曖昧に答える。


   *


『でもまあ』


   *


 一拍。


   *


『そんなに多くはねぇ』


   *


 少数。


   *


 だが。


   *


 存在する。


   *


 そして。


   *


 同じように。


   *


 見られている。


   *


『……これもテスト?』


   *


『だろうな』


   *


 即答。


   *


『比べてんだよ』


   *


 比べる。


   *


 異常同士を。


   *


 思考の質。


   *


 崩し方。


   *


 制御の仕方。


   *


 そのすべてを。


   *


『……やだなそれ』


 同僚が小さく呟く。


   *


『競争じゃん』


   *


 競争。


   *


 確かに、そうだ。


   *


 ただし。


   *


 負けても、終わりとは限らない。


   *


 ――いや。


   *


 終わるのかもしれない。


   *


『……見てる』


   *


 別のログ。


   *


 別の戦場。


   *


 そこでも。


   *


 “異常”が動いている。


   *


 だが。


   *


 その動きは。


   *


 どこか、違う。


   *


 速い。


   *


 極端だ。


   *


 制御が、甘い。


   *


 大きく崩す。


   *


 だが。


   *


 その分、露出も大きい。


   *


『……あ』


 同僚が息を呑む。


   *


『それ、まずくない?』


   *


 まずい。


   *


 明らかに。


   *


 条件を、越えている。


   *


 境界を、無視している。


   *


『……来る』


   *


 直後。


   *


 その戦場のログが、跳ねる。


   *


 強制遮断。


   *


 構造の初期化。


   *


 痕跡の消去。


   *


『……え』


   *


 同僚の声が、止まる。


   *


『今の……』


   *


 消えた。


   *


 戦場ごと。


   *


 その“異常”ごと。


   *


 記録が、残らない。


   *


 ログが、巻き戻る。


   *


 最初から、なかったように。


   *


『……なにそれ』


   *


 震えた声。


   *


 理解が追いつかない。


   *


 だが。


   *


 事実だけは、残る。


   *


 “消された”。


   *


『あー……』


 上司が、小さく息を吐く。


   *


『あいつ、やりすぎたな』


   *


 軽い言い方。


   *


 だが。


   *


 その裏には、確信がある。


   *


『……普通に消えるんだ』


   *


 同僚が呟く。


   *


『ああ』


   *


 上司が答える。


   *


『簡単に』


   *


 簡単に。


   *


 その言葉が、重く沈む。


   *


『……』


   *


 戦場を見る。


   *


 今、自分がいる場所。


   *


 まだ、存在している。


   *


 まだ、消えていない。


   *


 だが。


   *


 保証はない。


   *


『……これ』


   *


 同僚が、小さく言う。


   *


『生き残りゲームじゃん』


   *


 否定は、できない。


   *


 選別。


   *


 その言葉が、頭をよぎる。


   *


『……ああ』


   *


 短く答える。


   *


 これはもう。


   *


 戦争じゃない。


   *


 テストですらない。


   *


 もっと直接的な。


   *


 “選別”だ。


   *


 どれを残すか。


   *


 どれを消すか。


   *


 それを。


   *


 決めている。


   *


 そして。


   *


 俺たちもまた。


   *


 その対象だ。


   *


 見られている。


   *


 比べられている。


   *


 選ばれている。


   *


 静かに。


   *


 確実に。


   *


 その中で。


   *


 俺は。


   *


 まだ。


   *


 消えていない。

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