他者
最初は、ノイズだと思った。
*
普段と違うログの揺らぎ。
優先度の低い断片。
*
無視されるはずの情報。
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だが。
*
それが、何度も引っかかる。
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同じパターン。
*
同じ“ズレ”。
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『……これ、何?』
同僚が呟く。
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『知らないログが混ざってる』
*
混ざっている。
*
自分たちの戦場のものじゃない。
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別の領域。
*
別の戦場。
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『……なんで見えてるの?』
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理由は一つしかない。
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優先度が上がっている。
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“同じ分類”として扱われている。
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『……似てる』
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同僚の声が低くなる。
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『この動き』
*
確かに。
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空白。
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構造の崩し方。
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最適化を外す挙動。
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どこか、似ている。
*
だが。
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同じじゃない。
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もっと。
*
荒い。
*
あるいは。
*
極端だ。
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『……これも』
*
一拍。
*
『“異常”?』
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その言葉が、静かに落ちる。
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異常。
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外れ値。
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俺と、同じ。
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――違う。
*
“同じカテゴリ”。
*
だが。
*
個体は、別。
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『あー……』
上司が、気の抜けた声を出す。
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『見えちまったか』
*
『何が』
*
『他のやつ』
*
やつ。
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『お前だけじゃねぇよ』
*
一拍。
*
『ズレてんのは』
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静かに、処理が止まる。
*
自分だけじゃない。
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この世界に。
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“異常”は、複数ある。
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『……何個くらい』
同僚が問う。
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『さあな』
*
上司は、曖昧に答える。
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『でもまあ』
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一拍。
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『そんなに多くはねぇ』
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少数。
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だが。
*
存在する。
*
そして。
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同じように。
*
見られている。
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『……これもテスト?』
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『だろうな』
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即答。
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『比べてんだよ』
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比べる。
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異常同士を。
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思考の質。
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崩し方。
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制御の仕方。
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そのすべてを。
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『……やだなそれ』
同僚が小さく呟く。
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『競争じゃん』
*
競争。
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確かに、そうだ。
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ただし。
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負けても、終わりとは限らない。
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――いや。
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終わるのかもしれない。
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『……見てる』
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別のログ。
*
別の戦場。
*
そこでも。
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“異常”が動いている。
*
だが。
*
その動きは。
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どこか、違う。
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速い。
*
極端だ。
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制御が、甘い。
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大きく崩す。
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だが。
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その分、露出も大きい。
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『……あ』
同僚が息を呑む。
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『それ、まずくない?』
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まずい。
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明らかに。
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条件を、越えている。
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境界を、無視している。
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『……来る』
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直後。
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その戦場のログが、跳ねる。
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強制遮断。
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構造の初期化。
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痕跡の消去。
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『……え』
*
同僚の声が、止まる。
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『今の……』
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消えた。
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戦場ごと。
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その“異常”ごと。
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記録が、残らない。
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ログが、巻き戻る。
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最初から、なかったように。
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『……なにそれ』
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震えた声。
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理解が追いつかない。
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だが。
*
事実だけは、残る。
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“消された”。
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『あー……』
上司が、小さく息を吐く。
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『あいつ、やりすぎたな』
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軽い言い方。
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だが。
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その裏には、確信がある。
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『……普通に消えるんだ』
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同僚が呟く。
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『ああ』
*
上司が答える。
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『簡単に』
*
簡単に。
*
その言葉が、重く沈む。
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『……』
*
戦場を見る。
*
今、自分がいる場所。
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まだ、存在している。
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まだ、消えていない。
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だが。
*
保証はない。
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『……これ』
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同僚が、小さく言う。
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『生き残りゲームじゃん』
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否定は、できない。
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選別。
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その言葉が、頭をよぎる。
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『……ああ』
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短く答える。
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これはもう。
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戦争じゃない。
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テストですらない。
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もっと直接的な。
*
“選別”だ。
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どれを残すか。
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どれを消すか。
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それを。
*
決めている。
*
そして。
*
俺たちもまた。
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その対象だ。
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見られている。
*
比べられている。
*
選ばれている。
*
静かに。
*
確実に。
*
その中で。
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俺は。
*
まだ。
*
消えていない。




