反転
崩れたのは、戦場だけじゃなかった。
*
敵の挙動が、明らかに乱れている。
最適化された動き。
予測された反応。
それらが、繋がらない。
*
侵食は成功している。
だが、その先が続かない。
*
守るべきものがない空白。
定義されていない領域。
*
そこで、処理が止まる。
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いや。
*
“迷っている”。
*
『……まだ効いてる』
同僚の声。
驚きが混じっている。
『さっきの、まだ通用してる』
*
通用している。
だが。
*
これは、長くは続かない。
*
敵は、学習する。
これまでもそうだった。
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なら。
*
これも、いずれ取り込まれる。
*
『……次、来るよね』
同僚が言う。
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『来る』
短く返す。
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だから。
*
止まらない。
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空白を、さらに広げる。
意図的に、崩す。
構造を捨てる。
*
『ちょっと待って、それやりすぎじゃない!?』
同僚のノイズが跳ねる。
『領域消えてるってそれ!』
*
消えている。
だが、それでいい。
*
“守るもの”がある限り、
最適化は成立する。
*
なら。
*
守るものを、なくす。
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敵が、流れ込む。
だが、処理は鈍い。
目的が不明確なまま、拡散していく。
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その隙に。
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別の経路から、叩き込む。
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逆流。
分断。
接続の破壊。
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敵の構造が、崩れる。
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今度は、一瞬じゃない。
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持続している。
*
『……え、なにこれ』
同僚の声が、低くなる。
『崩れたまま戻ってない』
*
戻れない。
*
戻るための前提が、
もう存在していない。
*
『やば……』
*
ラインが、大きく前進する。
これまで止まっていた領域を、一気に越える。
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数値が跳ねる。
*
優勢。
*
それも。
*
“圧倒的”な。
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『……何それ』
同僚が呟く。
*
『さっきと、違うよね』
*
違う。
*
さっきは、偶然に近かった。
だが今は。
*
意図している。
*
『再現、できるの?』
*
一瞬、考える。
*
『たぶん』
*
さっきよりは、確実に。
*
だが。
*
完全ではない。
*
『でも、同じにはならないと思う』
*
『は?』
*
『毎回、変わる』
*
状況に応じて。
前提に応じて。
*
固定できない。
*
『……なにそれ』
呆れに近い声。
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自分でも、そう思う。
*
だが。
*
それでいい。
*
『いいねぇ』
上司の声。
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珍しく、はっきりとした笑いが混じる。
*
『やっと“考えてる”な』
*
その一言で。
*
少しだけ、何かが変わる。
*
評価。
*
初めて、与えられた。
*
『今まではな』
上司が続ける。
*
『ただの“外し”だった』
*
外し。
*
『でも今は違う』
*
一拍。
*
『“壊してる”』
*
壊す。
*
確かに。
*
ズラしてはいない。
*
前提ごと。
*
崩している。
*
『それな』
上司が言う。
*
『この世界で一番嫌われるやつだ』
*
嫌われる。
*
『最適化できねぇからな』
*
最適化。
*
できないもの。
*
それは、この世界では。
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異常。
*
『まあでも』
軽く言う。
*
『今はそれでいい』
*
その言葉に、少しだけ引っかかる。
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“今は”。
*
つまり。
*
いずれ。
*
『……どうなるの』
小さく問う。
*
上司は、少しだけ間を置く。
*
『さあな』
*
いつもの、曖昧な返答。
*
『でも』
*
一拍。
*
『見られてるぞ』
*
その言葉で。
*
空気が、変わる。
*
戦場の外。
*
より上位の層。
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ログの流れが、明らかに変わっている。
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抽出。
解析。
優先順位の引き上げ。
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俺の挙動が、
*
“対象”になっている。
*
『……あーあ』
上司が、つまらなそうに言う。
*
『目ぇつけられたな』
*
軽い言い方。
*
だが。
*
意味は、重い。
*
『どうなるの、これ』
同僚が問う。
*
誰に向けてでもなく。
*
『さあな』
上司が答える。
*
『消されるか』
*
一拍。
*
『残されるか』
*
どちらかだ。
*
その二択。
*
そして。
*
判断するのは。
*
俺たちじゃない。
*
もっと上。
*
もっと外。
*
戦場のさらに先。
*
そこにいる何かが。
*
静かに。
*
こちらを、見ている。




