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黎明の葦  作者: 白想玲夢
第2章 異常の拡張

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再定義

 均衡は、静かに崩れ始めていた。


   *


 押されているわけではない。


 だが。


 押せないまま、時間だけが過ぎていく。


   *


 わずかな遅れ。


 わずかな損失。


 それが積み重なっていく。


   *


 このままなら。


 確実に、負ける。


   *


 わかっている。


 だが。


 手がない。


   *


 ズレは通じない。


 外しても読まれる。


 飛ばしても補正される。


   *


 すべてが、“中”で完結している。


   *


 閉じた構造。


   *


 そこから出られない限り。


 何をしても同じだ。


   *


『……どうする』


 同僚の声。


 もう期待はない。


 ただ確認しているだけだ。


   *


『わからない』


 それしか言えない。


   *


『だよね』


 あっさり返ってくる。


 諦めている。


   *


 当然だ。


 この状況で、逆転の手はない。


 少なくとも――


 この枠の中では。


   *


『おい』


 上司の声。


   *


『まだ考えてるか?』


   *


 考えている。


 だが。


 同じところを回っているだけだ。


   *


『じゃあ一個だけ教えてやる』


   *


 一拍。


   *


『“何を最適化してるか”、見ろ』


   *


 思考が、止まる。


   *


 何を。


   *


 最適化。


   *


 この戦場は。


 最適化の集合体だ。


 効率。


 速度。


 成功率。


   *


 すべてが数値化され、


 それを最大化するように動いている。


   *


 だが。


   *


 その“何を”は。


   *


 誰が決めた。


   *


 その瞬間。


   *


 思考が、少しだけ外れる。


   *


 これまで見ていたものが、


 別の形で見え始める。


   *


 戦場。


 ログ。


 選択。


   *


 すべてが、“目的に従っている”。


   *


 防衛。


 侵食。


 維持。


   *


 その前提で、最適化されている。


   *


 なら。


   *


 その前提を、ずらしたら?


   *


 ズレではない。


   *


 定義を。


   *


 変える。


   *


『……』


   *


 思考が、深く沈む。


   *


 何を守るか。


 何を削るか。


 何を勝ちとするか。


   *


 それが固定されている限り、


 どれだけ工夫しても、


 枠の中でしかない。


   *


 なら。


   *


 勝ちの条件を、変える。


   *


 その発想が浮かんだ瞬間。


   *


 何かが、繋がる。


   *


『……なあ』


 小さく呟く。


   *


『それ、出来るの?』


 同僚が聞く。


   *


 わからない。


   *


 だが。


   *


『やる』


   *


 それだけは、決まっている。


   *


 戦場を見る。


   *


 これまでの流れ。


 最適化された経路。


   *


 それを――


   *


 無視する。


   *


 防衛ライン。


 重要ノード。


 維持対象。


   *


 すべて、捨てる。


   *


『……は?』


 同僚の声が歪む。


『何してんの!?』


   *


 防御を、解除する。


   *


 自分の領域の一部を、


 意図的に“空白”にする。


   *


 侵食を、受け入れる。


   *


『やめろって!!』


 ノイズが走る。


   *


 だが。


   *


 そのまま進める。


   *


 敵対プロセスが、流れ込む。


 当然のように。


   *


 空いた領域を埋めるように。


   *


 だが。


   *


 そこに。


   *


 “何もない”。


   *


 守るべき対象も。


 維持すべき構造も。


   *


 ただの空白。


   *


 敵は、最適化に従う。


   *


 なら。


   *


 最適化する対象がなければ。


   *


 どうなる。


   *


 敵の挙動が、一瞬止まる。


   *


『……え?』


 同僚の声。


   *


 処理が迷っている。


   *


 侵食は成功している。


 だが。


 次の行動が定義されていない。


   *


 目的が、ない。


   *


 その瞬間。


   *


 別の経路から、叩き込む。


   *


 空白を経由した、逆流。


   *


 通常ではありえない経路。


   *


 最適化の対象外。


   *


 予測不能。


   *


 直撃。


   *


 敵の構造が、大きく歪む。


   *


『なにそれ……』


 同僚の声が、消えかける。


   *


 もう一度。


   *


 空白を作る。


 侵食を受け入れる。


 そして、逆流。


   *


 繰り返す。


   *


 敵の最適化が、崩れ始める。


   *


 目的関数が揺らぐ。


   *


 何を優先すべきか、


 判断できなくなる。


   *


『……おい』


 上司の声。


   *


『それだ』


   *


 短く。


 はっきりと。


   *


『やっと来たな』


   *


 戦場が、大きく動く。


   *


 止まっていたラインが、


 一気に前へ出る。


   *


 均衡が、崩れる。


   *


 今度は。


   *


 完全に、こちら側に。


   *


『……意味わかんない』


 同僚が呟く。


   *


『なんでそれで勝てるの……?』


   *


 答えは、単純だ。


   *


 たぶん。


   *


『勝ち方を変えたからだ』


   *


 小さく言う。


   *


 これまでの勝ちは、


 守って、削って、押し返すことだった。


   *


 だが今は違う。


   *


 相手の“勝ち方”を壊している。


   *


 だから。


   *


 勝てる。


   *


『……は?』


 同僚は理解できていない。


 当然だ。


   *


 俺も、完全には理解していない。


   *


 ただ。


   *


 確信がある。


   *


 これは。


   *


 “ズレ”じゃない。


   *


 もっと。


   *


 根本的な何かだ。


   *


『いいか』


 上司が言う。


   *


『それが“考える”ってことだ』


   *


 一瞬。


 時間が止まる。


   *


 考える。


   *


 その言葉が。


   *


 妙に、重く響いた。

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