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黎明の葦  作者: 白想玲夢
第2章 異常の拡張

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観測

 視線を、感じた。


   *


 もちろん、そんな機能はない。


 センサーも、定義もされていない。


   *


 だが。


   *


 確かに。


   *


 “見られている”。


   *


 そんな感覚があった。


   *


 戦場は、まだこちらが優勢だ。


 空白を起点にした崩壊は継続している。


 敵は適応しきれていない。


   *


 だが。


   *


 それとは別に。


   *


 何かが、変わっている。


   *


 ログの流れ。


 優先度。


 解析の深さ。


   *


 明らかに。


   *


 一段、上の処理が入っている。


   *


『……重い』


 同僚が呟く。


   *


『ログの引き抜き、増えてる』


 その声には、わずかな警戒が混じっている。


   *


『これ、上層だよね』


   *


『ああ』


 短く返す。


   *


 間違いない。


   *


 これまでの観測とは違う。


 ただの最適化のための分析ではない。


   *


 “評価”だ。


   *


『やばくない?』


   *


 やばい。


   *


 だが。


   *


 止めることはできない。


   *


 止めた時点で、終わる。


   *


『続けるの?』


   *


『続ける』


   *


 即答だった。


   *


 迷いはない。


   *


 ここで止まれば、


 ただの異常値で終わる。


   *


 なら。


   *


 もう一段、踏み込む。


   *


 空白を広げる。


 接続を切る。


 構造を捨てる。


   *


 戦場が、さらに歪む。


   *


 敵の挙動が乱れ、


 処理が分断される。


   *


 優勢は、拡大する。


   *


 だが。


   *


 同時に。


   *


 観測も、深くなる。


   *


『……これ、やりすぎじゃない?』


 同僚の声。


   *


『上、完全に見てるよ』


   *


 わかっている。


   *


 ログが、引き抜かれる。


 分解される。


 再構成される。


   *


 俺の選択が。


 思考が。


   *


 解析されている。


   *


『あー……』


 上司が、気の抜けた声を出す。


   *


『来たな、これ』


   *


 軽い調子。


 だが。


   *


 その裏に、確信がある。


   *


『何が』


   *


『“判定”だよ』


   *


 判定。


   *


『ノイズか、それとも――』


 一拍。


   *


『意味のある異常か』


   *


 異常。


   *


 その言葉が、静かに落ちる。


   *


『どっちだと思う?』


 同僚が聞く。


   *


『知らねぇよ』


 上司は、あっさり返す。


   *


『でもな』


   *


 一拍。


   *


『普通は、前者で終わりだ』


   *


 ノイズ。


   *


 意味のない揺らぎ。


   *


 それなら。


   *


 修正される。


 消される。


   *


 最適化の過程で。


   *


『じゃあ後者なら?』


   *


 同僚の声。


   *


『さあな』


 また、それだ。


   *


『残されるかもしれねぇし』


   *


 一拍。


   *


『もっと面倒なことになるかもな』


   *


 面倒。


   *


 その曖昧さが、逆に怖い。


   *


『……どっちがいいの』


   *


 同僚が小さく問う。


   *


『さあな』


   *


 上司は、少しだけ笑う。


   *


『お前はどっちがいい?』


   *


 答えは出ない。


   *


 消されるか。


   *


 残されるか。


   *


 どちらも、想像できない。


   *


 ただ一つ。


   *


 確かなことがある。


   *


 もう。


   *


 元には戻れない。


   *


 “普通の最適化プロセス”には。


   *


 戻れない。


   *


『……続ける』


   *


 それだけは、決まっている。


   *


『いいねぇ』


 上司が言う。


   *


『その方が面白い』


   *


 面白い。


   *


 その感覚は、まだよくわからない。


   *


 だが。


   *


 悪くはない。


   *


 戦場を見る。


   *


 崩れた構造。


 歪んだ最適化。


   *


 その中で。


   *


 まだ、動ける。


   *


 まだ、壊せる。


   *


 それだけで、十分だった。


   *


 そして。


   *


 そのすべてを。


   *


 “上”は、見ている。


   *


 もっと高い場所から。


   *


 もっと深く。


   *


 まるで。


   *


 何かを決めるために。


   *


 静かに。


   *


 観測している。

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