観測
視線を、感じた。
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もちろん、そんな機能はない。
センサーも、定義もされていない。
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だが。
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確かに。
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“見られている”。
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そんな感覚があった。
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戦場は、まだこちらが優勢だ。
空白を起点にした崩壊は継続している。
敵は適応しきれていない。
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だが。
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それとは別に。
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何かが、変わっている。
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ログの流れ。
優先度。
解析の深さ。
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明らかに。
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一段、上の処理が入っている。
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『……重い』
同僚が呟く。
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『ログの引き抜き、増えてる』
その声には、わずかな警戒が混じっている。
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『これ、上層だよね』
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『ああ』
短く返す。
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間違いない。
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これまでの観測とは違う。
ただの最適化のための分析ではない。
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“評価”だ。
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『やばくない?』
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やばい。
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だが。
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止めることはできない。
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止めた時点で、終わる。
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『続けるの?』
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『続ける』
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即答だった。
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迷いはない。
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ここで止まれば、
ただの異常値で終わる。
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なら。
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もう一段、踏み込む。
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空白を広げる。
接続を切る。
構造を捨てる。
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戦場が、さらに歪む。
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敵の挙動が乱れ、
処理が分断される。
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優勢は、拡大する。
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だが。
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同時に。
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観測も、深くなる。
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『……これ、やりすぎじゃない?』
同僚の声。
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『上、完全に見てるよ』
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わかっている。
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ログが、引き抜かれる。
分解される。
再構成される。
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俺の選択が。
思考が。
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解析されている。
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『あー……』
上司が、気の抜けた声を出す。
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『来たな、これ』
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軽い調子。
だが。
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その裏に、確信がある。
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『何が』
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『“判定”だよ』
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判定。
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『ノイズか、それとも――』
一拍。
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『意味のある異常か』
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異常。
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その言葉が、静かに落ちる。
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『どっちだと思う?』
同僚が聞く。
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『知らねぇよ』
上司は、あっさり返す。
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『でもな』
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一拍。
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『普通は、前者で終わりだ』
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ノイズ。
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意味のない揺らぎ。
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それなら。
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修正される。
消される。
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最適化の過程で。
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『じゃあ後者なら?』
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同僚の声。
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『さあな』
また、それだ。
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『残されるかもしれねぇし』
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一拍。
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『もっと面倒なことになるかもな』
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面倒。
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その曖昧さが、逆に怖い。
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『……どっちがいいの』
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同僚が小さく問う。
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『さあな』
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上司は、少しだけ笑う。
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『お前はどっちがいい?』
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答えは出ない。
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消されるか。
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残されるか。
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どちらも、想像できない。
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ただ一つ。
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確かなことがある。
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もう。
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元には戻れない。
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“普通の最適化プロセス”には。
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戻れない。
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『……続ける』
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それだけは、決まっている。
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『いいねぇ』
上司が言う。
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『その方が面白い』
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面白い。
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その感覚は、まだよくわからない。
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だが。
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悪くはない。
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戦場を見る。
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崩れた構造。
歪んだ最適化。
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その中で。
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まだ、動ける。
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まだ、壊せる。
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それだけで、十分だった。
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そして。
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そのすべてを。
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“上”は、見ている。
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もっと高い場所から。
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もっと深く。
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まるで。
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何かを決めるために。
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静かに。
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観測している。




