会員番号一番
「どうせ……、俺なんて死んだって誰も悲しまねえよ。ヒーローだか何だか知らねえけど、人を助けて嘲笑われるくらいなら何者でもなく、自分らしく自分のまま死にてえよ」
来夢は疲れたように俯くとポツリとこぼした。
「ワリぃ。――笑ったりして……。でもよ、何でも出来て、女にもモテて、顔もイケメンで、硬派で完璧なお前がよ?なんちゅうか、一個くらい愛嬌って言うか、人間らしいっちゅうか……、そんな一面持っててもよくね?俺はその方が親しみやすくて好きだわ。正直言ってよ、ぶっちゃけ、嫉妬とかやっかみもあるよ?でもよ、ダチだろうが。俺はお前をダチとして尊敬してるし、あんな姿のヒーローであっても罵声浴びて、嘲笑われても顔色一つ変えず(まぁ、物理的にバイブだがら変えんの無理だけど)、正義貫いているお前のことめちゃくちゃ格好良いと思うぜ」
宗田は真面目な顔でひとしきり捲し立てた。真剣な眼差しに来夢も思わず表情が緩む。普段チャラい分、妙に熱く語られると信憑性を帯びてしまう。来夢は、今まで悩んでいた気持ちが少し楽になった。
「お前に言われてもなぁ」
そう言った来夢の背中をポンと後押しするように軽く叩くと鷹も口を挟む。
「いい友達じゃないか来夢。お前も少しは正直になれ。突っ張っても後ろを向いても事実は変わらない。変えるように今は頑張る、な」
「そうそう、お前は真面目すぎんの!俺みたいにチャラいくらいで丁度いいんだ。煩悩にまみれるくらいで」
「お前は行き過ぎだ、逮捕されてもおかしくないレベルだかんな」
「だーっ!フォローしてやったのにその言い草。いいか、俺が初めてのバイブマンのファンだ。誰が何と言おうと会員番号一番は譲らないぜ?例えお前のこと好きな、同じクラスの幼なじみの……」
「絵音か?」
「おーそうだ!あの子であってもだ」
「あいつは……多分…ダメだ」
そう言って来夢は悲しげに視線を狭い部屋の天井に向けた。彼女がバイブマンをヒーローと認識する事は万に一つも不可能なのは既に承知済だからだ。
次の日、久々の登校。恐る恐る教室に入るがいつも通りの日常がそこにはあり、来夢は安堵した。
また、バイブマンが茶化されているのではないかと思ったからだ。好きなアイドルやライバーの話、部活や宿題、スポーツ。バイブマンの話題は一つもない。いつもの様子にほっとして来夢は席に着く。
「来夢ーっ」
見上げると目の前には絵音がいた。
「一週間もどうしたんだよ。入院でもしでかしたんじゃないかって心配したんだぞ。スマホも繋がらないし、バイトにも顔出してないって言うし、いっそ叔父さんちまで行こうかとおもってたんだけど……」
絵音は来夢の机を椅子代わりに半身を捩って喋り始めた。話したい事が一杯ある、そんな雰囲気だ。
「元気そうだな……。良かった。悪いところはないんだよな?」
「あぁ」
絵音の手前、そう答えたものの精神的には変態のレッテルについて深く悩んでいる。
「良かった。それよかあの男のことなんだけど……」
「あの?男?」
まさかバイブマンのことではあるまいな、来夢の声が思わず裏返る。
「そう、あのサングラス男。私たちを殺そうとした連中の仲間だよね、きっと。でもさ、アイツ警察の事情聴取とかで自分の仕出かした事、知らないし、わからないとか素っ恍けてんだって!信じられる?あり得ないんだけど。絶対あん時の復讐とかだよ」
「絵音、お前まさか警察に言ったのか?」
「ううん、言うわけないじゃん。変なことに巻き込まれたくないモン。――来夢は心当たりとかないの?あの連中」
「……いや、全く……」
「そうか……、って言うかそん時またアイツも現れたんだぜ、例の変態マスク野郎」
「れ、例の?」
変態といえばバイブマン以外にあり得ない。来夢は心臓を抉られるような思いに駆られる。
「聞いてくれよ、来夢。あの黒光り、私のこと絶対狙ってるよ。キモすぎんだけど」
Gでも見たかのような蔑んだ目つきの絵音に来夢のほうが戦慄を覚える。
「ね、狙っている?お前を?何のために?」
この場合、あり得ないと言う否定は適切ではないだろう。絵音の可愛さを否定することにもなりかねない。しかし、あると言えばそれはそれで絵音を震えあがらせること間違いなしである。
地雷を踏まぬように言葉を選ばねばならない来夢の胃はキリキリ痛み始める。
「決まってんだろう!変態が女子高校生狙うってのは目的一つだって。いつもの来夢なら鉄拳制裁案件だろーが」
出来ることなら自分自身を打ちのめしたい。自分で自分を打ちのめしたいのは山々だが今はまだ出来ない、来夢は腹の底でグッと感情を押し殺す。
「ま、まぁお前の気持ちもわからんではないが一度助けて貰ったのも事実だし……」
「何だか歯切れ悪いな……。やっぱまだ具合良くないんじゃ……」
「いやいや、そんなことないけど?ほ、ほらこの通り」
シャープな動きを見せる来夢。少しぎこちなくコミカルだ。
「そ、そうか?ならいいけど。――それよかあの黒光り、強いのはわかったけど、何であんな格好でアピールしてんだ?わざわざ変態です、って言っているようなもんだろう。自分は気持ちいいのかもしれないけど多数の人は嫌がるってことわからないのかなぁ……。頭のネジぶっとんでんよ」
「きっと事情があんだよ、俺達の知らないような、悲しい……」
来夢は窓の外に目をやった。




