キモい
「叔父さん、俺!」
「泣くな!男だろ。全く高校生にもなって」
「いや、泣きたくもなるだろう。硬派で慣らした男前がよ?あんな姿になればさ。ちゃらんぽらんで不細工な俺だって耐えられねえもん。――あ、初めまして。俺、コイツの同級生の宗田です」
宗田は来夢の背中をさすりながら頭を下げた。
「初めまして。私は来夢の叔父、南雲鷹。……他に来夢の秘密を知っている者は?」
ラフな格好をしているが髪は小綺麗にセットされ、髭は短く整えられている鷹は、厳しい顔つきで眼鏡をずりあげながら二人に問いただした。
宗田は頭を振り、来夢の顔を覗き込んだ。来夢は下を俯き、首を激しく数度振る。
「そうか……、いいか、二人ともこれは他言無用だ。そして来夢、お前の親父はやはり正しかったんだ。その結果がこれだ」
「いや、その結果がコレだったらあまりにもコイツが不憫だ。俺だったら余裕で死ねるレベルだぜ」
両手と膝をつき産まれたての子馬のようにプルプル震えながらうな垂れる来夢。頭は空回りの振動中。憐れみと同情の眼差しを黒眼鏡の奥から向ける宗田。
「襲ってきたのは恐らくその研究結果を欲しがっている連中だ。政府関係者か、第三国か、もしくは……。いや、取りあえず今はその体を元に戻すほうが先だな」
鷹の言葉に来夢が速攻で反応する。
「戻せるの!?」
「当たり前だ。お前の親父はきちんとリバーシインジェクションを用意しておいた。これを打てば数時間で元に戻る」
鷹は、車に戻るとカバンから注射器を取り出し、来夢に処置を施した。ほっと溜息をつく来夢。一生このまま生きていかなければならないのかと内心焦っていたからだ。
疲れがどっと押し寄せて瞼が重くなる。
(つまんねえなぁ。戻っちまうのか)
心配しているのは事実だが、反面面白い思っていた宗田は少しがっかりした様子で来夢を眺めていた。とは言え、大事でなかったことに友人として安堵する気持ちの方が大きかった。
「今日のところは連れて帰って変身の仔細を聞いてみる。君もこれから何かと手伝ってもらうことがあるかも知れない。その時は来夢を頼んだ」
サイレンの音が鳴り響く中、眠りについた来夢を二人がかりで鷹の車に乗せ、それぞれの帰路についたのだった。
次の日、目が覚めると来夢は元の姿に戻っていた。鏡に映る自分の見慣れた顔に喜びの雄叫びをあげる来夢。
これほどまでに自分が自分であることが幸せであると感じたことがあるであろうか。来夢は自分のこれまでの人生で初めて自分が自分であるという当たり前の事実がこんなにも喜ばしい事だと知った。
叔父からリバーシインジェクションをもしものために渡され、一応普通の生活に戻された来夢は何事もなかったように登校する。
「――!らーいーむぅー!」
誰かが来夢の背中に飛び込んできた。その声の主に来夢はすぐに気づき、振り返った。
「絵音!大丈夫だったか?火傷とか、ケガは?」
来夢は勢い余って絵音の華奢で小さな肩を思わず強く押さえてしまう。少し、顔を歪める絵音の様子に慌てて手を離し、謝る来夢。
「大丈夫かって聞きたいのは私の方だよ。来夢はいなくなっちゃうし、家は燃えちゃうし、変な奴らに襲われて……。死んじゃったんじゃないかって……。心配させすぎなんだよ、ばかやろう」
絵音は来夢の胸に軽く拳を叩きつけ、口をとがらした。行方不明と聞いてどれほど心配したか、喉まで出かかる言葉を必死で呑み込む。
「わりィ。あの後誰かに俺も助けられて……。絵音の事頼んで……。意識失って、気づいたら叔父さんの家にいて。それで――」
「えっ!?」
野太く汚い発声が返ってくる。
「いや、ごめん。お前を助けられなくて。ただ俺も必死で、失血してたし……」
「イヤイヤ。そこじゃなくて……。アレだよね?黒い変な格好したヤツ。アレに助けてもらったんだよね?」
「あ、あぁ……。でも、話してみるとそれほど変なヤツではなかった、ょ。強くてアイツらも倒したみたいだし」
「最悪ぅー。マジだったんだ。どうしよう……」
絵音は天を仰いで眉間にしわ寄せる。
「助けてもらったんだぜ?感謝してるぜ、俺は」
「来夢、本気で言ってる?感謝とかマジ無理」
「ど、どうして?」
「頭、アレじゃん。どう見ても振動してアレじゃん。助けられた動画、拡散してんだけど……」
スマホを来夢に見せる。ショート動画が再生回数を伸ばしていく。
「アレって?」
来夢は恐る恐る絵音に尋ねてみた。
「アレっつったらわかるだろ!バイブだよ、バ・イ・ブ。狙ってやってんなら犯罪者だろ。リアル女子高生に並べていいアイテムじゃねえよ。キモいし、恥ずかしいし」
来夢の胸に無数に突き刺さる見えない矢の嵐。ショックに次ぐショックに返す言葉もない。
ショックだったことその一。まず、絵音にだけは嫌われてしまったこと。辛うじてバイブ男と来夢がイコールで結ばれていないことが唯一の救いであるもののバレれば即地獄行きが決定となった瞬間だ。
とにかく正体だけはバレてはならない。なるべく変身はしないようにしよう。そう考えた来夢であったが、果たして変身する方法とは、それについても不確かなままである。
もし、不本意に来夢の意思とは関係なく変身してしまったらどうなるか今朝の浮かれた気分も完全にぶっ飛んでしまった。
ショックだったことその二。絵音があの形状をラブアイテムと知っていたという事実についてである。もはや、高校生。そうだとしても不思議ではない。しかし、幼なじみとして共に成長してきて、女子として意識してきた絵音の口から発せられらとやはりショックである。
その日の登校途中の会話内容について来夢は完全に上の空であった。




