電動光刑師誕生!
「来夢!一緒に逃げるぞ、私が必ず連れ出すから」
来夢を抱えようとするも非力で背の低い絵音にはどうすることもできない。体に力が入らない来夢はやるせなさに苛立ちを覚える。自分さえしっかりしていれば絵音を巻き込むこともなかったからだ。
「俺のことは放っておけ、お前だけでも助かるんだ。俺はもう動けない。出血もひどい、助からない。だからお前だけでも……」
絞り出すように言葉をひねり出す来夢に涙目で首を横に振る絵音。
「イヤだよ。来夢も一緒に助からないとイヤだよ。私のヒーローになるって約束したじゃん。今なってよ、すぐになってよ」
火の勢いが増す。咳き込む来夢。絵音は咄嗟にもってきた手提げから飲み物をだそうとするが慌てて見つからない。ふと目線を泳がすと少し離れたところに転がっていたペットボトルの蓋を開け、来夢の口に含ませた。
勢いよく出てきた液体を来夢は飲み干した。妙な味の水だったが最早どうでも良いことだった。
梁が落ちると、埃と煙が立ち上り、今度は絵音が咳き込む。今度は来夢が絵音の手提げから水のペットボトルを取り出して、布に水を含ませると絵音の口に押し当て被さるようにした。
何とか少しでも絵音を守らねば。
「死ぬのかな……。でも、来夢と一緒なら怖くない……かな?」
「諦めるな!絵音、絵音?絵音!目を開けろ絵音!」
頬を叩くが絵音は反応が鈍い。このままでは危ない。しかしどうすることもできない。
(なんて人生だ。好きな女一人守れやしない。最後までオヤジの尻拭いかよ、どこまで俺の人生邪魔すりゃ気が済むんだ。タダでさえ詰んじまった俺の人生を……)
ふと、昔の出来事が走馬灯のように蘇り、その一つ一つが来夢の心に突き刺さる。しかも今朝の宗田の言葉はトリを飾るかのように深く深く染み渡った。
(人の原動力はヨクボウ)
来夢は自嘲気味に笑った。よりよってヤツの言葉が最期に心に響くとは。
(俺だって女に興味ないわけじゃない。欲望だってあったさ。――この期に及んで、欲望かよ。俺は最低だな……。最低なら最低で宗田のような生き方の方がよっぽど潔い良い、結局中途半端なんだ俺なんて。最低なヤツは死んだ方がいい。俺は最低なんだから)
心臓の鼓動が弱く、間隔が開く。――と、次の瞬間、エンジンを吹かすかのように激しく心臓がビートを刻み始める。
(あ?何だ?)
押さえようとすればするほど全身まで脈打ち始める。筋肉が膨張し、身体が熱くなると来夢は力強く立ち上がった。
(何が起こった?)
手を見ると漆黒の硬い艶やかなグローブのような触感。触れる皮膚や胸板は筋肉隆々。頭に手をやると歪なキノコのようなフォルム。
恐る恐る来夢はガラス越しに映る自分の姿を凝視する。
「何じゃこりゃあァァァァっ!」
振動する頭は完全にアウトな大人のオモチャ。電動するコケシそのもの。
(待て待て待てっ、落ち着け。何だこの状況は……。いや、考えている暇はない。一刻も早く脱出しないと絵音の命が。考えるのはそれからだ)
来夢は絵音を抱えると家の外へと飛び出した。空を飛べると思えるほどの跳躍と家の壁を簡単に打ち破るだけの力。まさにヒーローと呼ぶに値するパワー。
なのに残念すぎる形状。しかしなりふり構っている場合ではない。
(よし、脱出できた!)
外には野次馬の人、人、人。
(えーっ……)
真っ白になる頭。実際は真っ黒で振動している頭。
「何か飛び出したぞ!」とか「いやー!」とか「何だあの化け物」とか心に刺さるワードの雨あられ。
「ママ、アレ何?」
「しっ!指差すんじゃありません。見てもダメ」
着地した来夢の心は三回ほど真っ二つにへし折られていた。それでも生きていた事だけを依り代に絵音を近くにの人に託す。
「この人を頼みます」
野次馬の中に数人いたサングラス男たちを指差す。
「おい、お前ら。この落とし前つけさせてもらうからな!」
「おいおい、知らないどころかお前が研究結果だったとはな。ここで貴様を殺して研究材料として持ち帰らせてもらうぞ」
電動光刑師。その呼び方はバイブマン。後に畏敬と嘲笑、侮蔑を込めて近い将来彼はそう呼ばれるようになるのであった。




