葛藤
「誰にも見られず秘密厳守出来るピッタリの場所が……」
「ムリ!」
疾風の如く来夢は却下した。我が身の危険を察知してか椅子から立ち上がる。これ以上この子と話をしていればヤバい事になる。
ヤバい時は逃げるに限る。この時初めて来夢は今まで自分が捕まえてきた犯人たちの気持ちがわかるような気がした。
とは言えわかってはならないとも同時に思う。
「ダメですか?」
「あぁ、悪がいてそれを懲らしめるのがヒーローだからな」
咄嗟に捻りだした来夢。とにかくこの場だけは収めなければならない。
「――そうですか……。変身のポーズとか考えていたのになぁ……。何種類かパターンがあってどれか1つでも採用して欲しかったのに
」
栞はカバンからノートを取り出した。ヒーローオタクらしくどれも詳細なメモ書きが施された図解である。
パンツを見て変身する身分として言うのも何だが来夢からするとこの変身ポーズをやらされるのも小っ恥ずかしい限りである。
兎に角今日限り関わり合いたくないその一心で来夢は止める栞を振り切って店の外へ出た。
追いかけてきた栞の言葉が来夢の背中に浴びせられる。
「じゃあ悪者入ればいいんですね?そうすれば変身してくれますね?連れてくるんで成敗したらこのポーズのどれか採用してくださいね、約束ですよ」
栞は踵を返すと来夢と反対方向に走っていった。一瞬、来夢は何だか理解出来なかったがヤバい事に気づいて栞の後を追った。
何を仕出かすかは想像に難くない。
栞は犯罪者かトラブルを来夢の前に持ってくるつもりだ。そうすれば変身して解決せざるを得ない。
そうなる前に栞を止めないと、来夢は栞の姿を探す。路地裏に滑り込む栞の後ろ姿を確認する。
この辺は暗く昼間でも人目につきにくい路地裏が存在している。犯罪に巻き込まれる者も少なくない。
来夢の嫌な予感は的中した。不良グループと思しき連中に取り囲まれる栞。来夢が到着すると栞は手を掴まれ羽交い締めにされていた。
「月原君!」
変身を促される。が、出来るわけがない。トリガーが発動されていないからだ。このままでは月原来夢の姿のまま目の前の五人組と渡り合わねばならない。
来夢の体力ならギリギリやれるかも知れないがやはり変身後の爆発的な身体能力と比べると心許ない。それに負けてしまえば栞の身が危うい。それだけは避けねばならない。
かと言って下卑た笑いとメンチ切っている連中と対峙している最中に人質のスカートの中を覗きにいくわけにもいかない。
第一、そんな行動に出た場合神経を疑われる。
「へへっ、ビビってねえでかかって来いよ。彼女の前で格好つけやがって。ボコボコにしてからたっぷりテメエの前で可愛がってやんよ」
栞の身体を撫でまわす。悲鳴を上げる栞。
「その手をはなせ」
と言いつつも流れ的にスカートをどうにかと思う来夢。いや、それはいけないと悩む来夢が頭の中でせめぎ合う。




