エピローグ 遠雷
王都の屋敷に戻ると、オーエン夫妻が待っていた。
ラウルが戻り次第、保護地区へ出立しようと準備をしていた。
もう王都には戻らない。
「今さら貴族なんてやっていられない」
オーエン様は魔術師でもないのに、こき使われるのは嫌だと、隠居を決めていた。
クリスタ様も長く離れていたオーエン様と共に保護区へ。こちらも社交には興味がないと。
「ノエルと離れるのは寂しいわ」
「お義母様、会いに行きますね」
式はごく近しい身内だけに見守られ執り行われた。
マリエッタが「馬子にも衣装ね」と言いながら目を細めていた。
「貸すのも嫌よ」
「キキー。そんな地味な衣装、私に似合わないわよ」
お猿の癖は抜けないみたいだ。
二人の元王子様もお祝いに駆けつけてくれた。
エドガーは眉を下げ、「おめでとう」と言ってくれた。
「ノエル、喧嘩したらいつでも僕のところへおいで。友人として匿ってあげるよ」
「喧嘩になどなるわけないだろう。それに僕は、勝てない喧嘩はしない主義だ」
軽口を言い合うラウルとエドガー。なんだか前よりも親しげだ。
「良いな~。僕も保護区へ行きたいよ」
もう一人の元王子様。
戴冠式を終えたばかりのシャルル国王陛下。
「ご公務がお忙しいのでしょう。いつまでここで休憩なさるおつもりですか?」
離れの外に侍従達を待たせて、何をやっているんだか。
「ここは妙に落ち着くんだよね。あの固いクッキーちょうだい。あれは癖になるね」
「だめですよ。今焼いているのだって、エドガーに持たせるものですから」
「いつか僕にも焼いてね」
ボソボソクッキーは、原生林へ行く時の携帯食として、重宝されていた。
リシャール様は頃合いを見て、王位を渡すそうだ。
「カメリアは品格も知性もあって、度胸も僕より上。女王様の治める国って良いよね」
何が良いんだか分からないけど。
カメリア様のお母様はオーエン伯の従妹。カメリア様も魔獣達の保護をずっと訴えていた方だった。
リシャール様の選択は間違えないだろう。
「いいから、もう帰れよ。これじゃせっかくの新婚旅行に、いつになっても行けやしない」
ラウルが強引にリシャール様を立たせ、追い出した。
「ノエル、また向こうで会おう」
「エドガー、鶏小屋を大きくしてくれてありがとう。またね」
私達夫婦はオベール村に鶏舎を建てた。
コッコとリコちゃん。そして番の雄鶏クックと、ヒヨコではなくなった鶏たち。
他の鶏よりもかなり大きい。鳴き声も……。王都では飼えない。
新婚旅行はラウルの予定通り、森の家。
こちら側の人形もオルゴールも消えていた。
「ありがとう」と心の中でつぶやいた。
王都と領地とオベール村を行ったり来たりの生活。
私達夫婦はエドガーに飼育場の運営を任されていた。
元々オーエン家は牧畜業を営んでいた。そのほとんどが遊牧。
広い領地を回るには馬は必須。
ズボンにブーツを履いて、今では私も馬に跨がる。
ラウルは馬に乗るのを、最初戸惑っていた。
森を抜ける時は鹿に姿を変えていたのだから、最初はおっかなびっくりだった。
「慣れればこれはいいな。景色が違って見えるよ」
パカラ パカラ
二人で遠乗りをしていた。
今日は新しい石探し。温石はもう必要ないけど、彩色したり、磨いたりして楽しんでいる。
「もう主さんに乗れないのは残念だけど、子どもが生まれたら、お鹿さんになって背に乗せてあげてね」
「ノエル! えっ! 今なんて言ったの? 生まれる?」
「ふふ。早くそうなったらいいなって話だよ」
「ノエル! すぐに屋敷へ戻るよ!」
もうずっと甘い新婚生活が続いているのに。
「ラウル、それより空を見て! 雲が……」
風も強くなってきた。
「まずい。嵐がくる!」
遠雷に頬が緩む。
――きっと、恵みの雨だ。
ここまでお読みくださり、本当にありがとうございました。
完結を前に、誤字訂正、読みやすさ重視で少し改稿を行っています。
悩んで書いた回もたくさんありました。
今後の創作活動のためにも、感想などお寄せいただけると大変嬉しいです。




