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またまた落ちました

 ノエルとエドガーは急な階段を駆け下りていた。


「苦しい! いっ……息が……。もう! なぜ、あんな形に?」


「衝撃に強いからだよ。ノエル! 前見ろ!」


「ウギャー!」


 ノエルが段を踏み外した。


 だが、頭から真っ逆さまに落ちる寸前に、体が浮いた。


「ありがとう……あっ!」


「こら! 待て!」


 ドガールを封印した球は、コロコロと止ることなく階段を落ちていく。


 そして……壁の隙間に消えた。


 小さな穴を代わる代わるのぞき込んだ。


「この中はさすがに入れないね」


「通風口かな」


 古代人の技術は素晴らしい。


 エドガーが言えば、ノエルが呆れる。


「今はそれどころじゃないわよ」


「でもさ……」


 ノエルの手がエドガーの髪に伸びる。


「また、蜘蛛の巣だらけだよ」


「君も酷いね」


 エドガーが笑う。


 球を追いかけるうちに、気まずい空気は消えていた。


 以前より距離が近い。まるで幼なじみのような。


 お互いを見て、ふっと笑った。


 息を整えながら、穴の終点はどの辺りだろうと地図を広げる。


「地下か。それとも外か」


 エドガーが魔力糸を放つが、途中で切れた。


 通れるのは、ネズミくらいなもの。


「アメリを呼びましょう!」



 アメリは穴の前で腕をさすり、怖いと首をふる。


 真っ暗な穴からは、ヒューヒューと風の音。


「そうだ。ノアにも入ってもらう?」


「ぜひ! お供します」


 アメリは途端に目を輝かす。


 ノアは影となって穴に滑り込む。その後をリス魔獣に姿を変えたアメリが追った。


「僕たちは二人の魔力を追うよ」


 またまた、階段を下り、昇り……。


「落ちる!」


「罠だ! つかまって!」


 突然、床が消えた。


「痛っ……くない」


 落ちたはずなのに不思議とどこも痛くない。


 まるで雲に上にでも乗ったようだ。


 ノアがクッションになってくれていた。


 アメリはキョロキョロと珍しげに見回している。


 危険な感じはしない。


 罠じゃない?


 何が起きたのかしら。


 瞬間。


「ノエル! 僕の後ろに!」


 知らない魔力にエドガーは結界をはる。


「やあ。ここまで来てしまったか」


 どこかで見た顔が笑っていた。


 手にはドガールの球をわしづかんでいた。


「オーエン伯爵!」


 二人は顔を見合わせた。


 遺跡から<ここにはない場所>へ繋がっていた。


「オーエン様、ご無事で良かった」


 ノエルが最後に見たのは、王宮の大広間。


 彫像が砕かれ、大鹿が姿を現したまでしか分からなかった。


「あの時は驚かせたね」


「オーエン伯爵。僕は……」


 エドガーが目を伏せる。


 ドガールの呪いにかかったのは自分の落ち度だと。


 オーエンはエドガーの肩を叩き、何も言わなかった。


 そして、ノエルの手を取り、消えた。



 ノエルが次に立っていたのは、オーエン家の離れ。


 でもノエルの知る離れとは違う。


 家具が新しい。窓の外に見える木も若木だった。


 遅れてエドガーもやって来た。


「ここは?」


 オーエン伯が暖炉に火を着けた。


 パチパチと心地良い音がする。


「強く思いの残るものをここでは再現できる。私にとってはこれだ」


 ここにあるのは、建てられたばかりの離れ。彫像に入ってからはラウルが受け継いだ。


「あれの書いたものを読み解いているのだったね」


「はい」


 論文。


  それはどこかに発表するものではなかった。


 古代文字など、誰にも読めやしない。


 もし読めるとしたら、金目の乙女。ノエルだけ。


 本当は、止めて欲しかったのではないか。


 わざわざ論文などとしないで、秘密にしておけば良かったのだ。


「無にしようなど、一人では背負いきれない。分かち合うこともできない]


 オーエンが深いため息をつく。


「ラウルが初めてではない」


 自分を止めたのはラウル。


 生まれた子鹿を見て、思い留まった。


「魔獣の子どもは腹の中で瘴気のもとに触れ、持って生まれる」


 特に半魔獣の子は。


 クリスタは腹の子を愛しいと思いながらも、時に言い知れぬ不安が押し寄せた。


 魔獣王の子。自分とは異なる魔力が腹の中で育つのだ。


 生まれたときは少し黒茶。次第に本来の姿に変わった。


 無邪気。


 自然の浄化。


 それはこの世の中で一番尊いものに見えた。消せるはずがない。


「ノエルは今もそうだな」


 エドガーがつぶやき、小さく笑った。


「わたしだって、人に言えないようなことありますよ。これでも腹黒なんです」


「そうかな?」


 ノエルがぷっと膨れる。


「幼獣は気配で分かる。君のまわりに集まるのは、そういうことだ」


 オーエンはノエルに覚えはあるだろうと。


「それならエドガー様だって」


 保護棟で幼獣たちはずいぶんと懐いていた。


「ノエルが近くにいたからじゃないかな」


 自分では嘘もつくし、嫉妬もするような、どこにでもいる普通の娘だと思っている。


  魔獣の好む匂いというのは、人の言う匂いでないらしい。


 幼獣に嫌われるよりかはいいか。


 論文を知るなら、オーエンに聞きたいことがあった。


「あの魔法陣に足りないのは、金目の乙女の歌で間違えないのでしょうか」


「そうだな。間違ってはいない」


「正しくもない?」


「そうだ。歌うのは、ある限られた夜だけだ」


 エドガーが懐から神話の写しを出すと、オーエンは驚く。


 これは魔獣王の魔力がなければ、決して探し当てられないものだと。

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