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10-13 南郡へ

「お待ちして、おりました」

「よくやってくれた、おかげで奴らに止め刺すんが楽になった」

 拱手する檀道済だんどうさいァ、たどたどしい言葉使いこそ変わんねェ。っが、まとってる空気が違う。諸葛長民しょかつちょうみんの言葉を借りりゃ、きっとそいつァ今まで心の奥深くにしまい込んでたもんだったんだろう。

 たァ言え、そうそう変わるわけでもあるめェ。労いもそこそこ、すぐさま本題に入る。

「で、奴らはどっちに逃げた?」

「南に。またじょの旗が、西に」

「そうかよ」

 思わず、寄奴ァ舌打ちする。

 五斗米道ごとべいどうどもがおとなしく巣穴に逃げ帰ろうとしてくれんなら、もろもろ面倒もねェ。このまま南下して、踏み潰してやりゃあいい。っが、やっぱりそんなんを許してくれるほど、天の上のどなたさまァ優しかねェらしい。

「長民!」

 寄奴きどが振り返ると、諸葛長民ァ五斗米道どもがブッ散らかした残骸を遠目に見繕ってた。どんだけおこぼれにあずかれるか、を考えてたみてェだ。

 その背中が、びいんと伸びる。

「ほ、っわ、っえ? ふざけんな、いきなり呼ぶんじゃねえよ!」

「うるせぇ莫迦バカ! 仕事が先だ!」

 そいつを言われりゃ、諸葛長民にしたって逆らいようがねェ。これみよがしに舌打ちすると、寄奴に近付いてくる。

「何だよいきなり、檀道済のことか? 言っとくが、あいつの変わり振りゃただ事じゃねえ。俺にどうこうできるような――」

「知らねえよ。お前と道済を南郡なんぐんにやる。劉毅りゅうきが守ってんだ、万が一もねえだろうが、と言ってほっとくわけにも行かねえからな。そのついでに、見極めてこい」

 言って、檀道済を顎で指す。

 雰囲気こそ変わったが、その顔つきゃいつもどおり、しみったれたまんまだ。

 諸葛長民も、寄奴と檀道済を代わる代わるに見たあと、ため息を漏らしながら頭を掻く。

「わーったよ、ついでに徐道覆じょどうふくの首取ってくりゃいいんだな?」

「生け捕りがありがてえがな、あのひとがおめおめ捕まるとも思えねえ」

 ――劉裕、わしに仕えぬか?

 急に思い出すんなァ、淝水ひすいのあと、ひとりで広陵こうりょうに出向いたときのこと。だいぶんな昔だ、思えば、あいつも「五斗米道で暴れないか」って誘いだったんだろう。

 なるほど、確かにそいつも面白かったんかもしれねェ。たァ言え、もう寄奴ァそこにゃいねェ。

「長民、道済。二隻五千を預ける。奴らのケツにしっかりと火をつけてこい」

「応!」

 ふたりァ拱手のあと、船に向かってった。

 そいつを見送ったあと、今度ァ胡藩こはんを呼ぶ。胡藩ァ諸葛長民らの背中を見送りながら、はぁ、って嘆息を漏らす。

「話にゃ聞いてたがよ。大分いかちいな」

「だろうさ。己も面食らってら」

「つっても大将、びびったまんまじゃいられねえよな? ったく、難儀なこったぜ」

「やめろお前、あんま見抜いてくんじゃねえよ

 おもくそ大げさにため息をつきゃ、胡藩ァヘラヘラ笑って寄奴の肩を叩いてくる。

 ったく、見透かされてんなァ、ある意味楽じゃあるけどよ。どだい寄奴に化かし合いなんざ向かねェんだ。それこそ徐赤特じょせきとくみてぇなクソを、ぶった切る。そんだけで動くのが性に合ってる。

 なら、こっから先ゃ寄奴におあつらえ向きの話だ。

「この感じなら、お前が言ってた竹里ちくりにも早ええうちに着けそうだな。なら、そこでどう戦やいい?」

「そうさな」

 胡藩ァそう言うと、南のかたにじっと目をやる。

 寄奴も合わせてみたが、まァ目にとまるんなァ贛水かんすいと、そいつを包み込む陸地としか言いようがねェ景色だ。

「四日後だ。この空模様なら、あの辺で大きな西風が吹く。分かってりゃ対処もできるが、まぁだいたいの船は東岸に流されて、中にゃ風だけで座礁させられたりもする。ならこっちゃ、下手に噛み合おうとしねえで、東岸に戦力を集めときゃいい。そうすりゃ、あとは入れ喰いよ」

 胡藩が何を見て、そう言ってきたのか。もちろん寄奴にわかるはずもねェ。

 たァ言え、寄奴だって京口けいこうでの風読みならそれなりのもんだ。そいつができなきゃもろもろ食いっぱぐれるしな。

 だからこそ、ここに余計な口を挟む必要もねェ。

「分かった。なら、東岸はお前にくれてやる」

「マジか? 言っとくが、かなりごっそり行くぜ?」

「それでいい。楽に越したこともねえ」

 楽ってェか、な。

 少しでもこっちが削られねェなら、そいつに限るってもんだ。なにせこの戦いで天下統一、ってわけにもいかねェ。まだまだ敵ァごまんといる。どれひとつにしたって、ちっとでも甘く見りゃ、即、首を持ってれる。

 なら、どれだけこっちが削られねェまま、相手を削りきれるか。その手立てァ、いくらあっても足りねェ。

 そんな寄奴の考えを、どんだけ見透かしたか。

「言っとくがよ、ずいぶんな大盤振る舞いになるぜ」

 胡藩ァにやりと笑うわけだが、寄奴にしてみりゃ、そんなんどうだっていい。

「宝ぁ宝のまんまだが、士卒ぁやりようによっちゃ石くれにも、宝以上の宝にもなる。どっちが持ち合わせてて面白えのか、って話だ」

 そんなもんかね、胡藩ァ寄奴の言葉にいまいちピンときてねェみてェだった。

 ま、奴がどう考えようが、どっちでもいい。胡藩が胡藩なりの考えで動くのを、どう寄奴がうまく使えるか。そこでしかねェわけだからな。

 食うか、食われるか。

 相手が敵だろうが味方だろうが、上役、配下だろうが、そいつァ変わらねェ。ようは、寄奴が食われなきゃいい。そんなもんだ。

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