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10-09 石頭攻防

 どんな武器がやべェのかについちゃ、いろいろ語る奴らもあるだろう。

 っが、オレァこう申し上げてェとこだ。使うやつの苦労と威力とが、明らかに見合ってねェやつ、ってな。

 もともとだって、矢を引き絞る労苦を省いたとこに強みがあった。っが、そいつに負けねェ守りを相手方が備えたってんで、無駄に強さばっかが求められてった。

 そしたら「狙うべきところを狙う」みてェな芸当ァ諦めるっかねェ。なんでもいいから、ぶち当てるべきとこに、ぶち当てる。そういう方にばっか考えが進む。

 張綱ちょうこうの編み出した神弩しんどァ、その辺をまさしくあざ笑う感じの代物だった。

 より強く、敵の守りをぶち破る。

 そいつァ見果てぬ夢だが、そいつを求めりゃ、いやでも強さは引き上げられてくもんだ。

 張綱のやべェとこァ、そいつをある程度受け入れたとこにある。

 どんだけ強くなれるか。

 どんだけ緻密になれるか。

 そいつが相容れねェもんだとばかし思ってた己らァ、「両者をどう釣り合わせるか」みてェなとこにゃ、まるで考えが及ばなかった。過ぎたるは及ばざるが如し、ってしょっちゅう蕭文寿しょうぶんじゅ様に叱られてたはずなんだけどな。

「神弩、こんの方角に合わせ! 射!」

 太鼓の音と、諸葛長民しょかつちょうみんの号令。そいつに合わせて神弩が飛びゃ、船腹あたりに矢を集められた一艘の土手っ腹に穴が空き、水が流れ込む。奴さんらにしたってビビるしかねェだろうよ。「船の外に穴を開けりゃ沈む」なんざ、言われなくてもわかってる。戦船なら当然そのあたりに備えてるもんだ。

 だってェのに、神弩ァ易々と奴らの備えをぶち破る。石頭せきとう城に攻め寄せようっていう船団の勢いが、みるみる間に削げてくのがわかる。

「メチャクチャなもん持ち込みやがったな! こんなん、戦そのものが変わっちまうぞ!」

 諸葛長民ァ、たァ言えさほど浮かれるわけでもねェ。戦果を上げてんのが手前ェか神弩かって辺りについちゃ、きっちり計算できるやつだ。

「勝てれば、だ! 支度しろ、白石はくせきに向かうんだろうが!」

「くそ、手前! もう少し酔わせろ!」

莫迦バカじゃねえのか、暇なときにやれ!」

 諸葛長民ァ、殺意の流れを読む。

 そいつがホントか嘘かはわかんねェが、いくつもの戦場で、確かに寄奴ァ助けられた。そう認めるしかねェだけの仕事を、やつァ決めてきた。

 そんな諸葛長民が言った。奴らが本命に見てるんなァ、查浦さほ。つまるとこ、寄奴きど徐道覆じょどうふくと丁丁発止をキメた川港だ。建康けんこうから見りゃ南西、いくつかある直結港ン中でもいっちゃんデカく、数に物を言わす奴らなら、確かに押しつぶすように攻め込める。

 だからこそ寄奴ァ、北に動く。

 ただし、南にきっちり罠を用意した上で、だ。徐逵之じょきしの率いるムロン突騎が十分に勢いに乗れるだけの広さのある場所に、奴らを誘い込まにゃなんねェ。その為にも、喜び勇んで突っ込んできていただかにゃ、困る。

 罠だと気づかれねェ程度の柵を外に立て、そこそこに守って逃げ出す奴らにゃ、東のほうにある広場におびき出すように。そこを、狩り場にする。

「長民、白石の方にゃどんくれえ流れてる?」

「そこそこだな。まぁ、あえて加勢する必要もねえだろ」

「どんくれえ引き連れれば、うまく釣れると思う?」

 寄奴がきくと、諸葛長民ァきょとんとしたツラになる。

「おいマジかよ、頭でも打ったか? そんな殊勝に聞くタマかよお前」

下邳かひで言ったろうが、手前がいなきゃ詰むってよ。まさかここまでギリギリにされるたぁ思ってもみなかったが」

 舌打ちする寄奴に向け、諸葛長民ァからかうように言う。

「そうだな。建康をグラグラに煮詰めて、孟昶もうちょうまで殺して、だ。これで負けでもすりゃ、何度殺されたって文句も言えねえやな」

 痛烈に、痛てェとこ突いてきやがる。

 ありったけの眼力で睨みつけてみたとこで、屁でもねェみてェなよそおいだ。そりゃそうだ、この上なく諸葛長民に預けちまってる。

 寄奴ァ長々とため息をつく。

「――あぁ、あがくっかねえんだ、詰まるとこよ」

 五斗米道ごとべいどうどもを查浦に流し込むための、化かし合い。諸葛長民の見立てが悪りィ方にすっ転びゃ、查浦どこじゃねェ。白石で袋叩きにされて、終めェにすらなりかねねェ。

 ったく、ずいぶんな大博打ばっかだ。

 寄奴がそいつをひとりごちるときにゃ、もうその性根も据わりきってた。


 白皙に到着すりゃ、守りを仕切ってた王仲徳おうちゅうとくが寄奴ンとこに駆け寄ってきた。

「将軍! このような場に、いかがなされたのです!」

「あぁ、奴らを引っ掛けにな」

 見りゃ、思ったとおり。白石の守りにほつれたところも見受けらんねェ。さすがは王仲徳の仕切り、ってとこか。

 南のほうから、二、三隻の船が上ってくる。見るからに精気のねェ奴らが乗り込んでんのがわかった。どうやら諸葛長民の見立て通りらしい、そいつを見、寄奴ァ緩みかけた気持ちを引き締め、王仲徳に言う。

「仲徳。やれんな?」

「ご安心ください」

「任せたぜ」

 王仲徳の胸甲をコツンと叩き、寄奴ァ白石の兵らに向けて、言う。

「手前ら、餌がのこのこやってきたぞ! いいか、仲徳の指揮なら間違いねえ! お前らん中にゃ家族を殺されたやつだっているだろう、存分に暴れろ、恨みを晴らせ!」

 わざわざ端っこの戦場にまで出向いてきた総大将どの、じきじきのげきだ。こいつで奮い上がんねェやつなんざいねェ。

かたじけなく思います、しからば、先んじて勝利をひとつ、積んでまいります」

 拱手きょうしゆして、王仲徳が戦場に向かってく。そいつを見送ったあと、寄奴ァ諸葛長民に振り返る。

 ちょうど諸葛長民ァ、何らかの知らせを受け取ったとこだった。

 そいつを見て、あからさまにやつのツラが、曇る。

劉裕りゅうゆう。やらかしてくれたぜ。南で一箇所、防塁が崩れやがった――徐赤特じょせきとくんとこだ」

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