第7話 起きたら厄災がいるとか聞いてねぇ
「───颯斗」
俺を呼ぶ声が遠くで聞こえた、気がした。
重たい瞼を押し上げる。
飛び込んでくる明かりに目が眩む。
知らぬ天井。
硬いベッドの感覚と、
……甘ったるい匂いが鼻へと強行突破してくる。
俺の顔はその意味を悟り強張った。
「ふふ」
不敵な笑い声と、耳をくすぐる吐息。
おい……
そこになんで───
俺はベッドの上で無様にカエルのように跳ぶことなった。
「────なんで、一緒に寝てんだよ!!!」
仕切りのベージュ色のカーテンが揺れる。
いそいそと身体を起こした厄災モアは、素足を流れるように片足を立てた。
おい、パンツ見せつける気か?
モアは長い睫毛が遠慮がちに伏せられ、チラチラと俺を見上げてくる。
「……だって、」
指先でシーツに円を描くモアを俺は見下ろす。
「なんだよ」
俺はベッドに立ったまま、モアの口が開くのを待つ。
待つ。
───待つ。
おい。早く言え。
モジモジすんな。
グリーンの瞳が俺を真っ直ぐ見つめてくる。
その目は、曇りもない眼。
「───添い寝、」
頬が赤くなる。
「……したかったの」
……は?
俺の顎が前に出ちまった。
「キャハッ、言っちゃった!!」
口元に両手を添えながらキャピキャピする厄災。
チラッと覗く八重歯。
「いきなり、颯斗が失神するから驚いちゃったよぉ」
お前が殴ったんだよ!
「だがらね?私が看病してあげたの」
頼んでねーよ!!
お前が傍にいると俺はいつか死ぬ気がする!!
「私が添い寝したから、よく眠れたでしょ?」
いや、一気に疲れがドッと来たわ!!
キンコンカンコーン。
チャイムが鳴なる。
ここが学校だったということを思い出した。
「あ?今何限……」
───ガラッ。
誰かが入って来た。
靴音がこちらへと近寄って来る。
カーテン向こうに立つ影がボヤっと浮かぶ。
そいつの指先がカーテンを掴むと一気に引かれた。
ガ───ッ!!
「……お前」
俺は目を剥いた。
目の前に立つ男、
あのヤリチン野郎の顔が───
死んでいた。
「……あ、颯斗。大丈夫か?」
いや、それはこっちのセリフだ!
今朝のツヤツヤ顔はどこへ!?
「荷物、持って来たぞ」
ドサッとベッドの上に置かれた。
「俺が寝てる間に……何が」
俺の声が宙に漂う。
凌大もモアも口を開けない。
モアは自分の毛先を指に巻く。
「あ、の、モア……ちゃん?」
「…………」
「……モアさん?」
「────」
「女神……」
「……うるせぇな」
ビッシッとドスの効いた声がモアから零れる。
重だるい顔がだらん、と凌大へと向く。
ゴクリ。
俺の喉が鳴った。
「────下衆が、オレに話し掛けるな」
立てた膝に乗せられた腕。
モアの背後には龍が牙を剥く。
獅子を殺す視線がヤリチン野郎へと注がれる。
渾身の一撃なのは明らか。
ブルっ。
十数年ぶりの極道モアに俺の全身の毛が逆立った。
俺は憐れな男へと顔を向ける。
だが、その男から聞こえてきたのは……
ズッキューン!!!
「…………ウグッ」
凌大は胸を押え、前と屈んだ。
顔が静かに上がる。
その顔には汗が滲んでいた。
「──やばい」
俺は凌大の顔に恐怖を覚えてしまう。
「Goodきた」
凌大の瞳は歪んだ熱をモアへと向けている。
その視線も気にせず、モアは俺だけに微笑む。
「颯斗ぉ〜早く帰ろうよぉ」
金色のツインテールが揺れる。
「お前ら……まぢで趣味、悪いぞ」
俺の声はヤツらの耳には届かなかった。
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