第6話 ヤリチンが曇ったんだが?
───ガラッ。
「な、に?この状況……」
ドアの開く音とともに聞こえた野郎の声。
「しかも、なんで美女いんの?!」
色めき立つあの声。
あ、凌大の存在忘れてた。
バカだな。
厄災を見た目だけで美女認定するなんて。
まだまだ経験値が足りてないようだな、凌大!!
訝しげに睨むモア。
俺の頬から毛先が離れていく。
モアは背筋を伸ばし、腕を組む。
「……誰」
「あ、モアン提督。コイツは……」
子分689こと、加藤がここぞとばかりに口を開く。
「長谷部───」
「俺のこと、気になる感じ?だよね!……だって、」
始まった……。
「────このビジュの俺だから!!」
「………」
「……………」
静まる教室。
誰も口を聞かない。
遠くでカラスが鳴いていると思う。
「───颯斗、私のために学校案内して〜」
モアは俺の腕を掴んだ。
どうやらモアには凌大が見えなくなったらしい。
「は?なんで俺が!?」
モアの手を振り払おうと、腕を振ったんだが……
おい……
ナゼ、そこに挟んだ……?
ぷにゅ。ぷにゅとした感覚が腕を襲う。
や、柔ら……
オイッ!!!!
女の武器使うんじゃねーよ!!!!
「もう、暴れたら……溢れちゃう、よ?」
上目遣いの提督が、顔を赤らめやがる。
「ナッ?!」
急に身体の熱が上がる。
心臓がバクバクと音を出す。
この歳で血圧の心配させんなや!!
「枢木───ッ!!なんて裏山なんだ!!!!」
「きゃああああ!モアン提督の操がぁ!?」
男女構わず、吼える同胞たち。
───うるせぇ!!!
なんで、お前らまで顔を隠したり、赤くなってやがるんだ!!!
ガシッ。
掴まれた俺の頭。
指先が頭皮に食い込んでくる。
な、何すんだよ?!
小刻みに震える俺の髪。
俺は頭を掴むヤツへと顔を向けた。
待っていましたと瞳孔の開き切った瞳が俺を見下ろす。
艶が自慢の凌大の顔が、カサカサに萎んで見えるのは俺だけか?
「……颯斗」
ビクッ。
聞いたこともない、ハリのない声を浴びた。
「俺、死んでんのかな……?」
いや、死んでねーよ。
ちゃんと俺の頭、触ってるやろ!!
「おかしいんだ……」
何がだ?
「目の前の女神が、俺を見てないんだ」
は?女神だと?
凌大の視線の先を見た。
そこにいるのは厄災モア。
そのモアは俺をニコニコと幸せそうに見つめている。
いや、見るな。
その前に挟むのやめろ!!
「まだぁ?颯斗。私、早く行きたいんだけどぉ?」
ねだるように乞う声音。
「いダッ!!」
その声に反応するかのように俺の頭が締め上げられた。
「……颯斗、おかしいよな……」
おかしいのはお前の頭だ!!!
このヤリチン野郎!!
──バシッ!!
頭皮の痛みが和らいだ。
それに合わせて、腕の温もりも消える。
「……ねぇ、いつまで掴んでるの?」
モアの低い声が教室に沈む。
あ、ヤバ……
凌大の手が鬱血していく。
「私の婿殿に」
目が変わる。
ギラッと閃光を放ったのを俺は見逃さなかった。
「気安く触れんじゃねーよ!!!」
「───や、やめろ、モア!!」
引かれた肘。
そして、容赦なく突き出す鉄拳。
また、この生活かよ……。
サンドバッグ颯斗、返り咲きたくねぇ……。
骨を穿つ衝撃からの、熱。
走馬灯が、流れていく。
俺の視界が霞み、意識の薄れを身に感じた。
バゴ────ンッ!!!
その音を最後に俺の意識は飛んだ。
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