第8話 厄災LIVEに出るつもりはないんだが?
重い。
左側が異様に……
重い!!
視線を左斜めに下げる。
そこにいるのは、厄災モア。
ニコっとグリーンの瞳が細くなる。
俺の腕に絡みつく黒い爪。
蛇の如く絡みついてるんだが!!
「こうやって、一緒に帰るの夢だったのぉ!」
じゃねーわ!!!
モアは猫のように頬を擦り寄せる。
その度に元気なモアの金髪が視界の端で跳ねた。
そんな俺たちを見守るような熱視線を送る制服多数をら目撃。中には敬礼する強者も。
言わなくても、聞かなくても分かる。
アイツらは、
────完全なるモア信者!!
こんな学校、滅んでしまぇ!!!
見渡す限りの信者からの視線に晒された俺は、心痛と頬の痛みを抱えながら下駄箱まで来たわけだが。
この女は、俺を離さねぇ。
「おい!マジ、お前、離れろって!!」
空いている右手でまとわりつく厄災を引き剥がそうとするが、ギュッと俺の腕にしがみつく。
フワッと浮いたモアの身体。
「なぜ、そうなる!?」
俺の口は馬鹿みたいに開いたままだった。
滑稽な姿が鏡に映る。
「ヤダもん。離れないもん」
おい。
この状態でもんもん言うな。
しかも、少し涙目なのもやめろ。
「……ハァ。とにかく、モア、離れろ」
犬のコマンドのように短く切る。
「靴、出せねぇだろ」
モアは小さく、うん。と頷く。
いや、ワンだったかも。
しゅんと元気だったツインテールが萎びたように見えた。
ゆっくりとモアの足が床に着くが、腕は解放されない。黒い爪が俺のブレザーの裾を掴んだまま。
ギィ──。
錆び付いた金具が音を立てた。
「颯斗」
「ん。なに」
俺はモアの顔を見ずに右手で靴を掴む。
「時間だわ」
モアは短くそう告げた。
「は?なんの?」
俺はその意味が分かるはずもない。
ゴソゴソとモアはそれを手にし、モアは掲げた。
指先から靴がゆっくりと滑り落ちた。
下駄箱に乾いた音が反響する。
チラッと目に飛び込んで来たのは……
画面端に表示された“LIVE ON”とおびただしい数字に
流れるコメント欄。
そして、俺の顔ッ!?
WHY?
それに応えるようにモアは笑顔を向ける。
「みんな♡朝ぶりだね。モアン提督だ、ぞ」
小首を傾げ、映り込む白い八重歯。
小悪魔フェイスのモアが。
いや、モアン提督がそこにいた。
『モアン提督♡』
『婿殿とのLIVEっすね』
『制服姿神』
『今日も素敵でござる』
「みんな、今日はありがとうね。無事に婿殿を回収出来たよー。これから帰宅デートするところをお披露目しちゃう」
嬉しそうな表情と弾む声の提督モア。
画面の端に映っている俺の顔は引きっぱなしだ。
『まじ共有、感激』
『婿殿、モアン様を頼む』
『私も一緒に帰りたいでござる』
『提督♡』
『婿殿』
いや、なんで俺出てんの?
は?なんで婿殿認定されてんの?
おい、同意してねーよ!?
「勝手に認定すんな───!!」
俺はいても立ってもいられず、靴も履かずにその場を逃げ出す。分け目も振らず、明後日に向かって走り出した。
『あ、婿殿』
『まあ?』
『『『照れちゃって、可愛い』』』
「でしょ?さすが、私の子分たち」
そんなコメントが流れていたなんて俺は知る由もない。
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