第2話 灰島 モアという女
あの女 灰島 モアとの腐れ縁は、俺が幼稚園時代から始まる。
まだ世間を知らない俺はピュアホワイトだ。
カタギだ、シノギだなんて区別つくわけないだろう?
そんなこんなで、幼稚園に入園した俺はそこでモアと出会ったんだ。
瞳はグリーン。
顔は異国な風をまとい、髪は男のように短い。
そして、極めつけは──言葉遣いが荒い。
目が合っただけで、
「見てんじゃねーぞボケが!!」
肩がぶつかっただけで、
「オイ!坊主?!慰謝料払えや!!」
と、言った具合だ。
いつもポッケに両手を突っ込んで、メンチ切ってガニ股歩き。
普通、思わないだろ?
女の子……だ、なんて。
だから、俺はそいつは男だと思ってたんだ。
そんな男女が……
「ねぇー聞いてるの?颯斗」
オイ。馴れ馴れしく名を呼ぶな。
聞こえないフリをしてひたすら前を歩く。
視界にも入れたくない。
フワッフワッと揺れるツインテールが目障りだ。
くそっ、視界に入るなって!
ちょろちょろと俺の周りをうろつくモア。
その手にはしっかりと握られた自撮り棒。
「ねぇ、みんな─婿殿がぁ、照れて私を見てくれないの……」
スマホに向かって訴えているモアを尻目に俺は先を急ぐ。
アイツと関わるとロクな目に遭ったためしがない。
「──やっぱり?そうだよね……みんな私のこと良く分かってるじゃん!さすが、私の子分たち」
背後からやけに通る声が耳に届く。
あー嫌な予感しかしねぇ。
バタバタと走る足音。
トンッ。
その音がした途端、衝撃が来た。
「ウグッ?!」
俺の首に腕が掛かる。
ぶら下がったモアを俺は思わず、背負ってしまった。
ふわっと薫るモアが付けている甘ったるい香水。
そして、むにゅっむにゅっと背中に伝わる柔らかいモノ。
や、やめろ?!
女を感じさせるな──!?
「あれ─?颯斗くん、反応してるのかな?」
ニヤつくモアの顔が見えもしないのに目に浮かぶ。
つんつんと指先で俺の頬を容赦なく突っつくモア。
「バ、バカ!!変なこと言うな!!」
顔が暑い。
こちとら、思春期男子舐めるなっ!!
これが健全ダッ。
ああ、もう!!
吐息が耳に掛かってるんだよ!!
蚊を追っ払うように手で避けるが、モアの野郎は一歩も引かない。
「颯斗見てー」
差し向けられたスマホ画面に何やら字が流れている。
速すぎて読み取るのもなかなか難しい。
「……は?」
俺は言葉を失った。
身体が固まるっていうのはこのことを言うのだと身をもって感じた気がする。
「みんな、ありがとう!幸せになるね!」
そう話すモアの声など俺には届いていない。
流れるコメントが桃色に染まる。
『結婚式いつ?』
『いま、結婚だな』
『幸せになれ』
『結婚!結婚!』
『提督!お幸せに』
ああ!!うるせぇ─な!
「颯斗、私たち公認夫婦だね」
何嬉しそうに口にしやがるな。
うっとりすなっ!!
「で?告白したっていうのは」
ドスの効いた凄みと、凍てつく瞳。
「──どこの女?」
この場が凍った、かもしれん、
免疫のない奴はここで平伏すだろう。
極道の凄みに、な。
「……は?」
「私の男に色目使った罰を、与えんのよ」
いつ俺がお前の男になったっていうんだ!!
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