第1話 どん底の日に全国デビューしました
今日は俺の人生はドン底だ。
スマホ画面をオフにする。
それでも鳴り止まない通知音。
「……ほっといてくれよ」
涙が滲みる。
耳に残る彼女 白川 仁奈の声。
あの学校イチのマドンナの声がリフレインしてくるなんて、嬉しいはずなのに……
ブーブー。
手に伝わる振動。
何度目の着信だ?
俺は画面出た名前を確認する。
長谷部 凌大
思わず、スマホを投げたくなった。
拒否のボタンを押したい。
今、アイツの声を聞きたくない。
睨み合いの末、バイブが止んだ。
「人生謳歌中のアイツとは口をきくつもりはねぇ!」
そう八つ当たりという捨て台詞を吐いたところで、また通知音。
俺は再度、スマホ画面へと目を向けた。
そこに出ている文字に俺の目が見開かれていく。
「……うそ、だろ?」
颯斗ー。お前のマドンナの告白、
アレはマジない。
もっと、マシなセリフあるだろ?
コレ、拡散されてるぞー
俺は道のど真ん中で人目をはばからず、膝から崩れ落ちる。
そこには俺の人生を掛けた一大イベントである告白。その結果、玉砕というドン底を味わったその光景が無情にも拡散されていた。
力なく触れた指先。
スマホで勝手に再生される動画。
聞こえてくる1時間前の愚かな男の声が。
『───彼女欲しいんで、付き合ってください!!』
やめてくれ。
傷を抉らないでくれ!!!
目の前が暗くなった。
鼻をくすぐる良い香り。
思わず、顔をあげるとグリーンの瞳とぶつかった。
見覚えのあるようなその顔。
いや、俺は知ってる!
俺が声をあげる前に艶に濡れた唇が弧を描く。
「──颯斗」
懐かしい声。
いや、懐かしいとも思いたくもない!
忘れようとしても忘れられないこの整ったハーフ顔。
そう世界に何人もいてたまるか!!
「浮気は、───許さないからね?」
細められた瞳はマジの殺気を放ちながら、笑みを零す。
ゴクンと鳴る俺の喉。
冷や汗が止まらない。
「……お前、いつ戻ったんだよ…」
怖気付く俺の口端。
スマホのことなんか今やどうでもいい。
「私に会えて、嬉しい?」
悪びれもなく目元を和らげる。
そんなわけねーだろうが。
お前との腐れ縁がやっと終わったと思ったのに。
「もう、強がっちゃって!本当はモアと会えて嬉しいくせに」
それだけはハッキリ言わせてくれ。
俺は本当に
────お前に会いたくなかった!!
「颯斗、私との約束……忘れてない?」
いや、忘れたい。
忘れたかったよ!!
「灰島組の組長になってくれる、よね?」
────颯斗、結婚しようね。
声には聞こえなくても、俺には聞こえた。
アイツ、灰島 モアの声が。
「みんな?見てる──?さっき、話した私の婿様だよ──!!かっこいいでしょ?!」
俺へと向けられたカメラ。
お、オイ……
コイツ何やってやがる??
スマホに記されている数字に更に驚きが隠せない。
画面の右端に表示された数、
その数───100万人。
うそ、だろう?
最悪のドン底だ。
いや、どん底のどん底で更に最悪になっちまった。
俺の人生、
────どうなっちまうんだ……?
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