第一話 俺と俺と俺の戦争
閃光と衝撃、絶え間なく爆ぜる轟音。人の怒号と獣の唸り声。煙る視界と焼け焦げた臭い。灰に覆われた世界に辛うじて色付くのは鮮血の赤。
混沌を体現した地上は地獄のような有様だった。
アレクトゥスが最初のクローンを作り上げてから百年余りの歳月が経った。
戦乱が起きている。
ここはルーペス砦。テラソリス王国、ノヴァ・ティダス共和国、そして北の異民族の3つの勢力が衝突し、その争いはまさに激戦と呼ぶにふさわしい。
しかしその苛烈さの裏、要塞基地の地下では、さらなる奇妙な出来事が起こりつつあった。
時折揺れる作戦司令室には、テーブルを囲って3人の人物が睨み合っている。
その中のひとり、軍服を身にまとった青年が口火を切った。
「そもそも、なんであんたがこんなところに居るんだ?」
なぁ、プラエトル議員。と、口の端を歪める青年の口調は嫌味ったらしい。
青年の名前はラティウス。テラソリス軍の少尉である。
「緊急だったのだ。そして情報を精査できずに先走ったのはお前だ、ラティウス。口の利き方を考えろ、若造が」
身なりの良い長身の老人の目頭には、深い皺が寄っている。それはこの状況に一番苦心しているのが自分であると確信しているからだろう。
無理もない、彼はノヴァ・ティダス共和国の上院議員なのだから。
「2人とも落ち着いてください。一度情報を整理しましょう」
トピー帽をかぶった小柄な女性──ユイがラティウスとプラエトルを窘めたが、どうやら効果は薄い。
それに業を煮やしたのか、彼女は声を荒げた。
「51号! 製造番号が早い程度で歳上ぶらないで! 140号! 彼の役割は知っているはずでしょう? 今は互いに協力すべきです!」
製造番号。それは社会で生きるために纏った偽りの名前を剥いだ、むき出しの自己。
ユイはそれを暴いて見せた。
140号と呼ばれたラティウスも、51号と呼ばれたプラエトルも、その正体はアレクトゥスの記憶を転写したクローンだ。
だがその番号で呼んだということは、もう一度原点を思い出せという意味にほかならない。
ユイの強烈なメッセージに、二人は一瞬たじろいだが、それでもそのまま飲み込むには無視できないことがあった。
「そういう君──66号はいったいどういうつもりでここに来たのかね。よりによって、悪魔の民族と一緒に!」
「そうだ66号!何を考えているんだ!」
ユイ──66号と呼ばれた彼女もまた、アレクトゥスのクローンのうちの1人だった。
二人に責められても、彼女は毅然と答える。
私は彼らの魔法が魂の研究に役立つと確信している、と。
少しだけ場に沈黙が落ちる。上ではまだ激しい戦闘が続いているようで、振動がテーブルにガタガタと音を立たせている。
作戦司令室の机には地図が広げてあり、各勢力の分析が書き込まれていた。ノヴァ・ティダス共和国。テラソリス王国。そして北からの侵略者である悪魔の民族。
どうやら3人のクローンはすべての勢力と関係を持ってしまったようだった。
なぜこんなことに……。
アレクトゥスの記憶が過去へと思考を連れ去っていく。




