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時はあれから少し進み現在は…
「うーん…このパンプス、打撃力は上がってとても良いのだけど可愛さが足りないわ。あと、もう少し軽い方がいいかしら」
「…かしこまりました。改良を加えてみます」
「そうしてくれる?確実に良いものになっているから次を楽しみにしているわ」
私は職人たちを困らせていた。
『なら、ふわふわでキラキラのドレスでも動けるようにすれば良いではないですか!!』
これが私が過去、父や兄達に言った言葉である。
あれから私は18歳になった。己の発言を有限実行すべく、可愛く着飾って戦いやすいようにドレスやアクセサリーなどに改良をしていた。可愛いのは絶対条件。動きやすさはもちろん、武器を仕込めるようにしたり、それ自体が武器になるようにしたり…。もちろん鍛錬も怠ってはいない。
「次の建国祭までにはもっと良いものを納められるように頑張らせていただきます!」
「楽しみにしているわ」
まもなく王城で開催される建国祭のパーティーに最高の装い(武装含む)で臨むべく日々試行錯誤している。ただ、この試行錯誤が思わぬ収入源となっていた。
作戦の関係上、女性騎士がドレスを着用しなければならない事がある。そんな時に動きやすくも可愛らしいドレスは大変重宝される。さらに武器の持ち込みは御法度な場所でも靴やアクセサリーならば身につけて行ける。アクセサリーに関しては普通のご令嬢にも人気で一つくらいは護身用にと売れている。少々グレーゾーンではあるのだが…。これを提案したのが私だというのが広がり少し前に参加したお茶会ではご令嬢方から質問攻めにあった。
「私も騎士の家門の一員として武術を嗜む程度に学んではいるのですが、女性騎士のみなさまは大変な思いをされているのではと思ったのです。また、悲しい思いをするご令嬢が少しでも少なくなればと…」
などと優雅な微笑みを浮かべながら話しをすれば誰もがうっとりと私に見惚れる。そう、誰も兄2人より強いなどと思わないほど私は優雅で可憐なレディへと成長していた。デビュタントでは王城で長男のバージルにエスコートをしてもらったのだが騎士の同僚達から、
「こんなに可愛らしい妖精のようなレディが無骨な騎士の家門から生まれるとは…」
と、絡まれまくった。その度にバージルは引き攣った笑みを浮かべてなんとか会話を成立させていた。あれから何度か手合わせをしているが結局、兄2人は私には勝てていない。それどころかふわふわでキラキラのドレスを着てボコボコにして差し上げた。兄曰く、
「社交の場でお前が実力を発揮するような事が起きないように俺は頑張る」
だそうだ。ぜひそうしていいただきたい。
父も母もまさかこのようなことになろうとは頭を抱え、山のように積まれた妖精宛への釣書にどう返事をしろというのかと更に頭を抱えていた。よって18歳になったというのに結婚の予定がまったく決まっていなかった。
*
ついに建国祭当日がやってきた。私は今までの中で最高傑作の装いをして馬車に両親とエゼルと乗っていた。満足の出来に職人達には追加報酬を渡しておいた。頑張ってもらったのだからそれ相応の対価は必須だ。今日はバージルは仕事のため、エゼルにエスコートしてもらうこととなっている。現在エゼルは我が家お抱えの騎士団で鍛錬を積み、ゆくゆくは団長の座につくべく努力を重ねている。そんな次男はまさに妖精の様な私を見て遠い目をしていた。
会場は大変煌びやかで多くの貴族達で溢れている。例年より参加者が多く見えるのも間違いではないだろう。それもそのはずで本日は第一王子であるアストランの立太子のお披露目も兼ねているからだ。大変おめでたい反面、少々よろしくない情報も入ってきている。そのためバージルは今日は仕事なのだそうだ。
「お二人ともご機嫌よう」
「お会いしたかったですわ」
入場すればあっという間にご令嬢方に囲まれてしまう。さらに少しだけ距離を置いたところでご令息方がチラチラとこちらの様子を伺っているのが分かる。
「わかってると思うけど俺から離れるなよ」
エゼルがコソコソと耳打ちをしてくる。それにたいして、わかっているとの意味の微笑みをかえす。少々不満げではあるが貴公子の仮面を瞬時に貼り付ける。
ひとまず、パーティーは和やかに進みついに王太子殿下が入場となった。その瞬間、ご令嬢方の空気が変わる。何故ならアストランにはまだ婚約者が決まっていない。我こそはというご令嬢が周りを優雅に牽制ししつつアストランに群がって行く。そんな姿を
「まぁ、獰猛な獣がたくさんおりますのね」
と、扇で口元を隠しつつうっかり声に出してしまう。
「お前まじふざけんなよ…」
エゼルに怒られた。そんなやりとりを壁際でしていた時だった。何やら外が騒がしい。会場の人々に気づかれていない様だが、私たちには何かあったようだという事が分かる。
「移動するぞ」
何かあった場合できるだけ王族の方の近くの壁際に待機する。密かに兄経由で王宮騎士団から我が家に依頼されたいた事だ。普段はこんなありえない依頼にそれだけ切羽詰まっていると見ている。
外に意識を向ければ先程の騒がしさは消えており静かになっていた。逃げたのか、それとも制圧したのか…。どちらにしても油断は禁物…。と、思っているとどうも怪しい動きをしている給仕がいる。あれは…。
「お兄様!」
私は瞬時にヘアピンを一本抜き取ると怪しい給仕に向かって投る。同時にエゼルが動き出す。見事に給仕にヘアピンがヒットすると隠し持っていたナイフを取り落とす。相手のバランスが崩れているうちにエゼルが取り押さえる。これを合図にした様に外が再び騒がしくなり、場内に潜んでいた刺客達も動き出した。私もアストランの側へ駆け出す。さらに外で騒いでいたであろう者達が会場に雪崩れ込み混乱状態となってしまう。騎士達が対応はしているが参加者の避難などもあり間に合っていない。アストランも抜刀して構えて臨戦体制となる。
「殿下、この騒ぎが納まりましたらまずは警備の仕方を見直された方がよろしいかと思いますわ」
その場に不釣り合いなほどのんびりとアストランに声をかけつつ、手にした扇子で刺客を的確に一撃で仕留める。その様子に刺客達が一瞬怯む。
「さぁ、皆様。お相手して差し上げますわ」
優雅な微笑みを浮かべながら扇子を片手に敵に向かって行く。その背中にアストランの声がかかる。
「危険だ!下がりなさい!!」
「ティムス家のエゼルです。あれは妹ですが大丈夫です。殿下はご自身の安全を第一にお考えください」
「しかし!」
なおも食い下がるアストランに渋い顔でエゼルが告げる。
「男としての恥を捨てて申し上げます…あれは、我が家門最強です…」
後半はもう泣きそうな顔だった。
そんなはずはないという顔でアストランがベロニカの方をみれば手にした扇子と装飾品を駆使して優雅に敵をバッタバッタと沈めているところだった。
極め付けにご自慢のパンプスで華麗に回し蹴りを決めればドレスがふわりと美しく翻る。そして、向かってくるものがいなくなったので落ち着いて周りを見渡せばそれが最後だったのだということがわかる。
「ベロニカ!怪我はないか!?」
「私の実力はご存知でしょう」
先程まで敵を叩き伏せていた扇子で口元隠しながら優雅に微笑んで見せる。兄2人が駆け寄ってきたことで本当に終わったのだと実感する。
「そうだったな…私が悪かった…」
バージルはお得意の遠い目を一瞬してから王太子の方へ目を向ける。王太子の側には副団長の姿が見える。ひとまずは制圧が完了したという事なのだろう。
「嫁の貰い手がなくなったな…」
「あら、余計な釣書が来なくなってよかったではありませんか」
「お前なぁ…」
周りの事後処理もまだだというのに互いに兄妹の無事を確認し合っているとこちらに深刻そうな顔をしたアストランが向かって来るのが目に入る。
「殿下、お怪我などございませんか」
しかし、なぜかは知らないが殿下はその問いかけには答えず深刻そうな顔をそのままに近づいてくる…というよりも詰め寄ってくると言う方が正しい勢いである。
「ベロニカ…と呼ばれていましたね?」
「はい、殿下。確かに私はベロニカですが…」
「ベロニカ嬢!」
「「「??」」」
なんと殿下が私の手を力強く取り跪いたではないか!これには兄妹一同驚きが隠せない。一体全体何事か…。この事態に周りも現状を忘れてポカンとした顔でこちらを見ているではないか。一通り周りの視線を集めたところで殿下が口を開く。この発言がこの場の全てを石化させることとなる。
「ベロニカ嬢、私と結婚していただきたい!」
「…」
どうしてこうなった…?
*




