第六話 アリスは本当に存在するのか
核心回です。
ミオの正体に近づいていきます。
ミオには、戸籍がなかった。
住所もない。
家族もいない。
学校も職場もない。
なのに、現実の街では誰も彼女を不思議がらない。
まるで、物語が彼女の存在を一時的に許しているみたいだった。
「ミオ」
「なに?」
「お前は、本当に人間なのか?」
聞いた瞬間、後悔した。
ミオは少し寂しそうに笑った。
「半分は本当。半分は夢」
「それ、答えになってない」
「物語って、だいたいそうだよ」
ラビが懐中時計を開く。
針は十一時五十九分で止まっていた。
「ミオは、君の“止まった時間”から生まれたアリスだ」
息が止まった。
「俺の……?」
「君が裏切られて、それでも本当は誰かを信じたかった。その願いが、不思議の国で形になった」
ミオは俯く。
「私は、レイにもう一度歩いてほしくて生まれたの」
「じゃあ、俺が立ち直ったら……?」
ラビは答えなかった。
それが答えだった。
ミオが消える。
俺が前に進めば、彼女は役目を終える。
ふざけるな、と思った。
「そんなの認めない」
空が黒く染まる。
黒い薔薇が咲き乱れ、巨大な時計塔が現れる。
塔の上に、黒衣の女王が立っていた。
「なら、止まっていればいい」
女王の声が響く。
「進まなければ、その娘は消えない。働くな。信じるな。恋をするな。ここで永遠に夢を見ていればいい」
甘い誘惑だった。
ミオと一緒にいられる。
傷つかずに済む。
現実に戻らなくていい。
俺は揺れた。
その瞬間、ミオが俺の頬に触れた。
「レイ。私は、あなたに生きてほしい」
「お前が消えるかもしれないのに?」
「うん」
「そんなの、ずるいだろ」
ミオは泣きそうに笑った。
「好きだから」
心臓が止まりそうだった。
黒の女王が手を上げる。
黒トランプ兵たちが現れる。
スペード。ハート。ダイヤ。クラブ。
俺の恐怖、裏切り、誘惑、怒り。
ラビが叫ぶ。
「レイ! 最終裁判が始まる!」
足元に赤い絨毯が伸びた。
玉座。法廷。黒い陪審員。
裁かれるのは、俺自身だった。
ミオの正体が判明しました。
次回、黒の女王との裁判です。
次話
第七話 白兎弁護士、異議しかない




