第五話 黒の女王は現実にも手を伸ばす
ここから外的脅威を強めます。
敵は心の中だけではなく、現実にも影響します。
正式採用が決まった翌日。
俺のもとに、一通のメッセージが届いた。
差出人は、大学時代の親友だった男。
俺から恋人を奪った男。
――久しぶり。
――ちょっと会えないか?
胃が冷えた。
画面を閉じようとした瞬間、文字が浮かぶ。
「黒の女王……?」
ラビが机の上に現れた。
「君の心の奥にいる最後の敵だよ」
「俺の心なら、なんで現実の相手を動かせるんだ」
「君の傷は、現実と繋がっている。向こうもまた、君を都合よく止まったままにしたい人間なんだ」
ミオが静かに言う。
「会うなら、私も行く」
「危ないだろ」
「レイがひとりで傷つく方が嫌」
そんなことを言われたら、断れなかった。
待ち合わせ場所は、駅前のファミレスだった。
そこにいたのは、大学時代の親友――柏木悠斗。
昔と同じ笑顔。
昔より少し疲れた顔。
「久しぶりだな、レイ」
俺は席に座る。
胸がざわつく。
吐き気がする。
感情鑑定が発動する。
俺は拳を握った。
こいつは、心配して来たんじゃない。
柏木は笑う。
「最近、働き始めたって聞いたよ。よかったじゃん」
「どこで聞いた」
「まあ、共通の知り合いから」
嘘だ。
その背後に、黒い女王の影が立っていた。
柏木の口元が歪む。
「でもさ、無理しなくていいんじゃないか? お前、人付き合い向いてないだろ」
胸が痛む。
「また失敗したら、しんどいぞ」
その言葉は優しさの形をしていた。
けれど中身は、呪いだった。
ミオが俺の手を握る。
ラビが小さく言う。
「レイ。見ろ。相手じゃない。自分の本音を」
俺は息を吐いた。
感情鑑定が、自分自身へ向く。
そうだ。
俺はずっと、こいつの言葉に縛られていた。
「柏木」
「ん?」
「俺が向いてるかどうかは、俺が決める」
柏木の笑顔が固まる。
「お前に奪われたことは消えない。でも、俺のこれからまでお前のものじゃない」
店内の照明が揺れる。
柏木の背後の黒い影が膨れ上がる。
黒の女王が囁いた。
「許さなくていい。憎んでいれば、戻らずに済む」
俺は首を振った。
「許すかどうかは、まだ分からない」
女王の影が止まる。
「でも、もう俺は、お前たちのために止まらない」
黒い影が砕けた。
柏木は何も言えなくなっていた。
俺は立ち上がる。
ミオとラビがついてくる。
店を出た瞬間、スマホが鳴った。
採用先からだった。
――朝霧さんの研修記録を拝見しました。
――利用者対応チームの補助として、追加業務をお願いできますか。
――報酬単価を上げます。
俺は空を見上げた。
人生が動く。
本当に、少しずつ。
レイは過去の相手と向き合いました。
次回、ミオの秘密に近づきます。
次話
第六話 アリスは本当に存在するのか




