第二話 白兎は人生を査定する
ここから主人公に“現実を変える力”が目覚めます。
目が覚めると、俺は知らない草原に倒れていた。
青すぎる空。
丸すぎる雲。
遠くには巨大なティーカップ。
「……死後の世界って、思ったよりファンシーなんだな」
「勝手に死なないでくれるかな」
声がした。
振り向くと、そこにいたのは白髪の青年だった。
片耳だけ兎耳。ベスト姿。懐中時計。
昨日の白兎だ。
「お前、人間になれるのか」
「便利だからね。役所にも行ける」
「行くな」
白兎――ラビは、俺の顔をじっと見る。
「朝霧レイ。君は昨日、ミオと手を繋いだ」
「……それが?」
「契約成立だ」
「何の?」
ラビは懐中時計を開いた。
カチリ。
その瞬間、俺の視界に文字が浮かんだ。
「……は?」
「おめでとう。君の武器だ」
「武器って、これで何をしろっていうんだよ」
「人生を取り戻す」
ラビは当然のように言った。
その時、ミオが花畑の向こうから歩いてきた。
白いワンピース。銀色の髪。赤い瞳。
昨日と同じ、物語から抜け出したみたいな少女。
「レイ、目が覚めた?」
「あ、ああ」
彼女が微笑む。
それだけで、胸の奥が少し温かくなる。
けれど同時に、ミオの胸元にも文字が浮かんだ。
俺は息を呑んだ。
見える。
本当に、心が。
「……ミオ、お前」
「見えた?」
ミオは困ったように笑った。
「なら、もう始まったんだね」
「何が」
「レイの物語」
その瞬間、世界が揺れた。
草原の空に黒い穴が開く。
そこから、黒い鎧の兵士が落ちてきた。
胸にはスペードの紋章。
手には錆びた剣。
ラビが舌打ちする。
「早いな。黒トランプ兵だ」
「昨日のやつか!?」
「君が前に進もうとすると、邪魔しに来る。心の敵であり、現実にも影響する厄介者だ」
黒い兵士がこちらを見る。
そして、俺の声で言った。
「どうせまた裏切られる」
足が止まった。
その言葉は、俺自身が何度も自分に言ってきた言葉だった。
黒トランプ兵が剣を振り上げる。
動けない。
その時、ミオが俺の手を握った。
「レイ。見るだけじゃない。選んで」
「選ぶ?」
「その人の本音を。自分の本音を」
俺は震える息を吐いた。
視界の文字が変わる。
俺は理解した。
こいつは敵だ。
でも、俺自身の一部でもある。
「……怖かったんだよな」
黒スペード兵の動きが止まる。
「裏切られて、笑われて、もう誰も信じたくなかった」
鎧にひびが入った。
「でも、それでも俺は昨日、ミオの手を取った」
剣が光になって崩れる。
「俺はまだ、終わってない」
黒スペード兵は砕けた。
その破片が、小さな黒いカードになって地面に落ちる。
ラビが拾い上げる。
「初勝利。報酬だよ」
カードが光り、俺のスマホに吸い込まれた。
ポケットが震える。
現実のスマホ通知だった。
俺は画面を見る。
――在宅カウンセリング補助スタッフ募集
――書類選考通過
――本日オンライン面談可能
「……なんで」
ラビが笑った。
「不思議の国で勝つと、現実も少し動く。これが君の報酬だ」
俺は画面を握りしめた。
ただの夢じゃない。
ただの恋じゃない。
俺の人生が、本当に動き始めていた。
読了ありがとうございます。
レイの能力は【感情鑑定】です。
次回、初めてこの力を現実で使います。
次話
第三話 引きこもり、面談で本音を見る




