勇者
今日、勇者でありソウマ領の新領主、ソウマ大公が視察に来る。
しかも屋敷に泊まるらしい。俺はやっと勇者と話せる機会がやって来たドキドキと自分の仕事を全うすることとで、結構一杯一杯になっていたがネイビーがいつもの様にサポートしてくれているし村長はいつも以上に頼もしい。
そして太陽が真上に来る前に、ついに勇者一行ならぬ領主様御一行が到着した。迎えの先導役をフライとリンクにお願いしており、後は門に着くのをじっと待つだけだ。
皆の一番前に立ちソウマ大公に歓迎の挨拶を短めに行い、予定通りにまずは館で休息をとってもらう。
軽食を出し、臨時で雇った使用人が配膳などをやってくれている間にバーモン商会の従業員が馬の誘導から一通りの世話をやっている。
俺は何とかソウマ大公から村の簡単な質問に答えつつ、できるだけ笑顔で振る舞った。
午後から村を視察のために案内をしていると、村人が集まってくる。流石は勇者、かなりの人気者だ。
夕食の時間になり勇者の計らいで多くの村人と話をしたいと申し出があり、俺は村の有力者とその家族を招待した。
服装に関して困っている家族がいたので屋敷にある衣服の貸し出しとそれを使って仕立て屋が仮縫いして何とか多くの人を参加させることができた。
恐らく勇者は気にしない雰囲気があるが従者は認めないだろう。
屋敷に大きな食堂は無いため、庭にて晩餐会を開催する。勇者の乾杯を開始の合図としてから晩餐会を始める。
さっそくだが勇者の案内とお世話をネイビーとバーモンさんがやってくれている間に俺はこの日の取っておきに着手する。
勇者は本当に多くの人から話を聞いていたが皆、彼の英雄譚が聞きたいらしく、度々彼の話から皆の歓声が聞こえてきた。
そんな状況が一段落した頃に彼を席に案内してくれるように合図を送り、彼が席に着き葡萄酒を配膳されるタイミングで俺特製のステーキを出した。
勇者は目を見開いた。従者も勇者の挙動に警戒するが、それは驚くだろう、流石にこの世界で和食は難しいが日本でもスタンダードなステーキを出してみたが、分かってくれたようで笑顔で頬張ってくれた。
俺が用意したのはただのステーキだが、この世界では見ないもので、しっかりとスパイスを効かせ塩と油を塗り、特製のバーベキューコンロで焼き上げる。
それを鉄板と木でできた定番の皿に乗せて提供する事で元の世界らしく振る舞ったおもてなしで友好を示せればと考えた結果だ。
楽しい晩餐会は時間とともにお開きになり、片付けが始まる中で勇者を執務室に案内し、外が見える席を進めグラスに丸く形どった氷を入れ、ウイスキーモドキを軽く注ぎ差し出す。
勇者は照れ笑いをして、テレビでしか見たことないと言い、俺もだと頷いた。ちなみに勇者から従者たちは休む様に言い聞かせられ引かせている。
慣れないウイスキーモドキをかつて見た大人の嗜みを真似するが、お互いに大笑いした。そこから転移した頃のことからいままでの事を語り合ったし転移前の事も話し尽くす。
その中で領都でのドラゴン討伐の際に剣を投げた連系についての話になり、ドラゴンを斬りつけた最初の一撃で勇者の剣は折れるは融解していて、使い物にならず、この剣と呼べない状態に成り果てた物で殴りつけるか、自分の拳を叩き続けるか思い悩むなか大きな声のする方を見ると剣が飛んできてその流れのなか、ありったけの力で掴んだ剣を無我夢中で振り落としたと語ってくれた。
そして俺の剣はその役目を終え粉々になった事を勇者はお礼も謝罪も出来なかったこと、お礼に剣を贈りたいと言ったが、領主から今は亡き槍を貰えたから十分だと言ったが、後で贈るから受け取って欲しいと強く言われ断れなかった。
そのまま夜中まで語り合う中で勇者は結婚すること、元の世界に帰ることを諦める理由を語った。
この世界の人類は元々、精霊から生まれた存在だけだった。
木の精霊から生まれた森の民エルフ、土の精霊から生まれた山の民ドワーフ、火の精霊から生まれた砂漠の民 鬼人族、風の精霊から生まれた草原の民 獣人族など、その生まれに精霊が関与している。
しかし、人間族はどの精霊からも生まれていなく、人類が唯一コミュニケーションが取れる何万年も前から現存する大精霊である妖精女王ティターニアですら人類がなんの精霊から生まれたのか分からないらしい。
ある日、突然現れた様で何処かで聞いた転移と言う言葉がチラつく。
かつては神に愛された光の精霊から生まれたと勝手に天地の民と名乗っていたが、本当の光の精霊から生まれた天使族が発見されてからは間違いとされているが聖王国では今でも信じられているらしい。
この世界は他の世界から下流にある様で度々、元の世界から迷い人が転移して来ると思われ、一番近い世界が魔界と呼ばれる世界で度々、あちらから侵攻されるらしいけど、この世界の人類は決してあちらの世界にはいけないらしい。モンスターも魔界から転移してきていると考えられている。
ちなみにもう1種類だけ精霊から生まれていない種族がいるがそれは別の話し。
もうこの世界に来て10年になり信頼できる仲間や守りたい存在、この世界を捨てて元の世界には帰れないと思うと強い瞳で言われると、否応なく自分も決断しない訳には行かない現実を痛感した。
遅くまで話してしまったが、明日もある為、話足りないが寝ることにする。お互い大人になったと笑い合い別れた。
俺は布団に入りながらネイビーの事や皆の事を思い返すなかで元の世界の記憶が薄れて思い出せない事が寂しいと思いながらもゆっくりと眠りについた。




