奪還作戦
剣聖は見事、エンシェントドラゴンを討伐したが、帰還して早々に聖女が魔女に捕らえられたと知る事になった。彼のあんな顔を見たのは初めてで恐ろしかった。
聖女が行方不明となったが、居場所は恐らくだが分かってる。魔女のところだ、何故かと言うと魔族が人質を使って聖女を連行したと一緒にいた兵士から分かっているからだ。
魔族と言ったが魔界の門は今だに開かれていない。新たな門を魔女が造ったのか、魔族を魔女が造ったのかは分からないが、聖女ほどの実力と魔族や魔物との相性が凄まじく高い大精霊からの祝福を得ている聖女を捕らえることなんて、魔王ですら容易ではない。
聖女を救出する為に大規模な軍隊で推し進めたとして、全世界で押し潰さねば、魔の森も魔女も滅ぼせないだろう。
王国は聖女を奪還するため、ほぼ全軍と他国にも協力要請し一気に事を進めるとともに天使族の協力を元に聖女の位置を把握し、聖女奪還チームを編成する。
衛兵を残し全ての正規軍の指揮をローランド・シン・ロギアング公爵、聖女の父が務め、王国は魔女に対して特攻による圧殺を推し進める。
その先人を切るのは聖女の婚約者であり剣聖であるジョージ・ハッタ・コルン伯爵が務める。
実際には彼の妹であるリッカ・ハッタ・コルンが影武者を務める。ただ、彼女は小柄のためその見た目であれば剣聖でないことが丸わかりなのかもしれないが、実力は次代の剣聖である事が確定している程の実力を持っているらしい。
それに聖女奪還チームには僕も参加する。もちろん剣聖も、それに聖女の弟であるレオも参戦してくれるし、僕的にもいままでの恩を忘れたわけではない、いまこそ返す時だ。
天使族による情報で聖女は魔女の居城にいる事が確定し、僕たち聖女奪還チームは正規軍とは違うルートから少数精鋭による奇襲を仕掛ける。
魔女がどうして聖女を捕らえたのかは分からないがどうせ碌でも無い事に違いは無い。直ぐに救出したいがこれでも大軍を準備しての攻撃にしてはかなり速い作戦行動と言える。
それは全軍を指揮するのが聖女の父親であり王家に連なる公爵家と言う権力の無せるものであると共に聖女がそれ程までに国に対してドワーフ族に対して守るべき対象であるからだ。
この世界で言う聖女とは大精霊の加護を受けたもの、自分達が生まれた起源である精霊からの寵愛を受けたものであり、精霊とは元の世界で言うところの神と言っても代わり無い存在だ。
そんな聖女がもし酷い目に遭おうものなら一族郎党すべてを持ってこれに対処する事になる。それがこの世界の常識である。
皇暦304年 日の月
魔女の居城に到着、剣聖率いる対魔女部隊を残して捜索チームを二つに分けて忍び込む。魔女は正規軍との交戦に参加していない。
そして、僕が参加していない方のチームが聖女を発見、僕らのチームも脱出して合流する事になる。すでに現れた魔女と剣聖率いる部隊が外で交戦している。
剣聖を支援する為、急いで聖女達に合流したが、聖女は生気が感じられない。あんなに光り輝く存在だった彼女が別人の様に変わってしまってる。
皆も動揺し、ただただ剣聖と合流し本陣に逃げる事を第一目標に邁進する。
晴れやかな日だった。鬱蒼とした魔の森にここだけ建物がある関係で多く光が降り注ぐ、脱出の為に渡り廊下を走っていると遠くに魔女と戦う剣聖が見えた。
その巨大な力のぶつかり合いに恐怖を覚えつつも洗練されたその動きに美しく舞っているようにも見え、一瞬だが舞台でも見ている感覚になった。
おかしな感覚だと想い、頭を振ってもう一度、作戦の為に集中する。ただ、変な違和感を感じる。その違和感は次第に確実なものとなり、剣聖の首にドス黒い何かが纏わりついていて、その首輪の様なものは魔女の首に伸びていた。
僕にも分かった。今ここでこの戦いは終わる。剣聖の集中力が感じられるほど、研ぎ澄まされた一線が魔女の首に差し掛かろうとする時、僕は大声でそれを辞めさせようと叫ぶ。
魔女の首が地面を転がる。その顔は笑顔のままで、残心を終え佇む剣聖がそのまま動かない。動いたのは首だけ、地面に転がる彼の静かな顔がこちらを向いて留まる。
「終われ」そう聞こえた。恐ろしいほど冷たい声の方を振り返って見ると、いままで一言も発しなかった聖女が絶望に顔を歪め、世界の終わりを願っていた。
聖女から禍々しい何かが空へと昇っていく、聖女はそのまま倒れ事切れる。倒れ込んだ聖女を気にかけ駆け寄ろうとした時、上空から凄まじいプレッシャーを感じて僕らは自然と空を見上げる。
そこには逆さの塔の様な隕石の様な様々な天輪を携えた死の固まりがゆっくりと堕ちてくる。
直ぐに何とかしないといけないと想い、一歩踏み出すが二歩目が出ない。
アレのヤバさが分かる。今すぐに何か対策しなくては星が滅ぶ程の絶望だが、友人を失い、恩人も助けられず、元の世界には帰れそうにない。
このまま、この世界で生きていくのか、生きていけるのか、生きていかなければならないのか、聖女の最後の声が何度も繰り返し聞こえる。
このまま終わっても良いのかもしれない。ドス黒い感情が湧き上がってくる。誰もどうする事も出来ず立ち尽くす仲、レオが僕の背中をそっと押すと自然に歩き始めた。目標も目的も定まっていないが、アレが堕ちる落下点にレオと二人で歩き始めた。




