これからのこと
かつてこの世界には魔女と呼ばれる存在は一人しかいなかったそうだ。
九大天の魔女と呼ばれたソフィア・ランページの事である。彼女の出生は不明であるがかつてルド・アーミス聖王国と呼ばれた国が最初に確認された場所であるが書物などの資料は国の崩壊とともに失われたため、不明とされている。
魔女は全世界に戦争を仕掛けた。まともなやり方ではない。全方位に喧嘩を売るなんて全世界から袋叩きにあうようなものだが、そうはならなかった。それを成し遂げる程の実力と彼女が築城した場所が人類の侵入を阻む魔の森と呼ばれる場所だったからだ。
皇暦 302年 火の月
第一次 侵攻作戦
我々、人類が魔女と邂逅してから数十年が経ち、数々の侵攻を受け、そのたびに各国は防衛戦をさせられていた。
ただやられてたわけではない。今回の侵攻作戦で魔女を葬り、世界に平和を取り戻す為の戦いには僕も参加する事となった。
正直に言うと行きたくない。できれば王立図書館と魔術研究院を行き来する生活に戻りたい。僕は魔術師と言う魔術研究者のため、こんなガチ本番的なフィールドワークをするタイプでは無い。
しかし魔術を研究すればする程、魔女が行なったとされる悪逆非道な行ないも知ることになり、彼女が人類の敵って事には一切の疑いも無い。それは彼女が行なった魔術の一部に多大な犠牲を必要とする禁呪指定がされるものがあるからだ。
単純に言うと人の命を対価に強い能力を発現させる魔術、しかも被害者がより憎む気持ちが高いもしくは辛い体験をすれば増幅される様なものまであったからだ。
数日の行軍の末に魔の森に到着した。僕は後方部隊だが友人2人が前線にいるので心配だ。英雄または剣聖としてその比類無き力で王国を守るジョージ・ハッタ・コルン伯爵、僕と同い年なのに爵位を正式に継承するとともに初代剣聖の母親から剣聖も襲名した凄い男だ。
学生時代からもう一人の友人から紹介され、仲良くなった。最初に紹介された時は僕と同じ迷い人なのかと思ったが、彼の父親が迷い人でそれで名前と家名がこちらの世界では変わったものになっているらしい。
もう一人の友人であり、僕の命の恩人である聖女であり公爵令嬢でもあるカトリナ・シン・ロギアングである。彼女が僕がこの世界に来て最初に会った人で、そこからずっと何かと世話をしてもらっている。
そんな昔話を想い出していると、前方で戦闘が始まったようだ。それにしても森の中を進軍するって、僕のイメージする軍隊行動とはちょっと違った感じだ。
それにしてもこの魔の森って不思議な場所の中心に魔女がいる事は天使族の協力で分かったことだ。
鳥人族では危険すぎて魔の森上空は飛行できない。それは飛行できるモンスターに襲われるからで、更に地上から墜落させようと必死になって攻撃してくるモンスターも多いらしい。
そこで高高度飛行が可能であり、特別な光魔法を有する天使族に助力を申し出て何とか突き詰められた。しかしまさか本当に魔の森に築城できるとは思っても見ない現状だ。
恐らく魔女はモンスターに襲われないどころか操れる方法を持っているはずで間違いない。モンスターを操れるのは魔界からやって来る上位の魔族だけで、理由は不明だが魔王を滅ぼすと生き残っている魔族は全て強制帰還されるいわばルールとなっている。
人間を使いモンスターの素材にしたり、この世界と魔界の共通する何かを彼女は知っているのだろう。
魔女の居城に近づいて来た時、空から複数の物体が現れた。ドラゴンの群れだ。それに無数の亜竜種も大量に飛来した。
そこからは無我夢中で戦った。戦いになっていたのかただの蹂躙とはならなかっただけでもマシだと思うほど、地獄だった。
最終的には僕と剣聖と聖女だけが戦っており、全ての部隊が撤退や重傷者の救助のためだけに退散するしか無かった。
ドラゴンの圧倒的な強さとそれが群れで襲ってくる恐怖、ブレスで焼かれ上空から狙われる。反撃するがその硬い鱗で弾かれ、魔法耐性も高い。
それでも3人で数十を超えるドラゴンを倒し、ワイバーンや他のモンスターを倒した数は数百以上だったと思う。
敗戦、王都に戻った我々3人は王様から感謝を述べられた。今回の戦いにおいて複数の貴族家が貴族位を失うこととなった。
何故この様な事になったかと言うと、以前より戦争や戦うことを軽視する者が貴族の中におり、中には防衛戦時の揚げ足を取る様に叱責する者もいた。しかもそんな輩が国の役職にも就いていた為、戦費の捻出やその軍事行動の遅延にも繋がっていた。そこで王様が彼らに自ら武功を示すことを命令した。
さっきまで軍部を攻め立てる状況に返すように言われ、彼も反論するが王は命令は下したと交渉する事を拒絶した。
日取りと軍隊の規模だけが決められ、死地に進むしかない。しかも後ろに第四正規軍の一部隊が監視に追従している状況だった。
貴族達の最後の悪あがきとして前回の防衛戦と同様に剣聖と聖女を同行させる事だけを何とか命令書にねじ込んだらしいが、何故か無関係の僕まで参加させられたのかは謎だが恐らく何処かの公爵令嬢の仕業の様に感じる。
それにしてもこの世界に来てから本当に世話になってはいるが、それと同時に彼女には振り回されっぱなしにも感じる。思い返せば、この世界に転移した時はピンチだったのを彼女に助けられたが、しかしこの国の社会システムは結構良い、それこそかつて読んでいた異世界転生ものではすぐに理不尽な扱いを受けたり悪徳貴族に狙われる何て事が無いので、本当に彼女の庇護下に入る必要があったのか何度か選択肢が用意されていた気がするが、あまり記憶にないので色々と想い出してみる。
皇暦290年 水の月
見知らぬ少女に誰なのかを尋ねられた。何故ここにいるのか、それはこっちが聞きたい。さっきまで教室にいたはずなのに、そう頭の中が混乱していると強い力で地面に押し倒され拘束された。
この時は混乱と恐怖で震えるしか無かったが彼女が無理矢理に僕と近衛兵の間に入り込んで兵士の行動をやめさせてくれた。
複数の兵士に囲まれる中で始まった明らかに高貴な少女とのティーパーティー、そんな地獄の様な状況に構うことなく質問をしてくる少女、何とか気持ちを落ち着かせ話をしていると、否応なしに自分が異世界に転移してきた事が分かった。
これからどうすれば良いのかを不安な気持ちで吐露すると執事が迷い人であれば優遇措置として保護される事を教えてくれて色々と何処に行けばいいか解説を遮って、お嬢様がここに住めばいいと提案してくる。
明らかに立派な屋敷で空き部屋があるからと住めるわけには行かない。だから執事の人に何処に行けば良いのかを地図で書いてほしいとお願いすると、お嬢様は僕の手を引いて父親にお願いしようと歩き出す。
流石に手を払いのければ、無礼者と今度こそブタ箱行きになりそうで付いていくしかない。止めようとする執事に先に先行して父親に伝える様に命令し始め、後にこれから会うのが公爵家当主様と知る由もない。
拒否権があるとは言えない状況で、100%の善意に従うしか無かったのがこれからずっと彼女に振り回される日常になっていくんだったと思い出す。




