故郷
魔女はこちらを馬鹿にする様に名乗りを上げる、「はじめまして」こんな事で激昂してる場合じゃないし、そこまで馬鹿ではないが、静かな怒りを燃料にこの化物を仕留める力に変えていく。
閃光と戦鎚の娘が更に凶悪度を増した重戦士型1体を抑え込む。バーミル伯爵とその従者である蒼の三人組がもう1体の重戦士を抑えた瞬間、青い顔で冷や汗を流しながら、真剣な表情の勇者がゆっくりと前進を始める。
ただもう部隊は残り僅か、勇者を守る盾があっさりと一枚、もう一枚と散っていく。ただ肉壁の俺等だって決死に全力を超えて勇者を守っている。それでも魔女の使う魔法は圧倒的で命を使うほか無かった。
ふっ飛ばされた影響で後ろにいた俺も勇者を超えて壁になる。待ちに待ったその時が来た。後方から凄まじい力のプレッシャーを感じる。その強さに引き込まれるのではないかと錯覚する程の力だ。
彼の必殺の一撃が来る。モーションが始まるその時、右の窓を突き破って竜が突っ込んでくる。俺の中に生まれて始めでドス黒い感情に染まった。その瞬間、俺の身体はが跳ね上がる。
ドラゴン目掛けて渾身の突進、右手で殴りつけるはドラゴンの頭蓋、勇者の魂の一撃を邪魔されたくなかった。ただそんな想いだけだった。
右手は血が噴き出し、はめていた盾は砕け辺りに飛び散りながら、即座に腰に差した剣を再び引き出し、ドラゴンに八つ当たりの様に叩きつける。おおよそ剣技では無い。純粋な暴力だった。
その後の事はわからない。それは意識が途切れ、気がつくと何処かの建物にいてベットに寝ているのが分かった。
唐突に不安は襲ってくるが俺に覆いかぶさる様に寝ている彼女が泣き腫らしたようで目元を赤く腫らしたネイビーがいるので安心して頭を撫でようとするが左手どころか腕ごと無かったので右手で頭を撫でる。
撫でてやると幸せそうな笑顔で眠るネイビーに心配かけてごめんと心のなかで謝るが今はただ涙が流れた。彼の事を思って、ただただ涙が流れた。友人だと思っていた。
ただの同郷だった彼が旅立ってしまった。もしかして元の世界に帰れたかもと思ったが、彼にもこの世界に家族や友人、帰る家があるのだ。
その先は悲しすぎて、考えない様にするしか無かった。俺は今回の戦いで伯爵位と一つの街と五つの村を治める事になった。それと同時にソウマ領の領主代行になった大公夫人の側近となる。彼の代わりにはなれないが部下として彼女を支えることを誓った。
最悪な事に魔女は死ななかった。ただ深手を負ったようで魔の森に逃げ込んだそうだ。魔の森にある魔界の門には立ち入らせない様、門を中心に巨大な要塞を建設する。六大国家が力を合わせ、常に門に駆けつけるように道まで建設した。
この大規模な建設に多大な犠牲と莫大な資財が消費されたが、聖王国の惨状を知るに魔女の存在と魔界とを合わせる訳にはいかないと誰もが思った。
結果を言うと聖王国に人類はいなかった。ただの一人もいなかった。魔女は国民を全て実験に使うか、その実験で造られたモンスターの材料にされていた。
だからこそ、俺たちは道に迷うこと無く王都を目指し、一直線に玉座の間を目指した。
あれから20年が経ち、俺はこの世界に家族ができ友人に囲まれて幸せだ。元の世界に残した両親や2人の友人には申し訳なくなる時もあるけど、それよりもいまの家族や友人、帰る場所が大切で、時折思い出す団長と勇者の優しい笑顔、これまで一緒に戦い散っていった仲間達を思い出すと黄昏ることもある。ただ今日もこの国とこの国に生きる国民が幸せに生きられる様に頑張って生きるだけだ。
もう左腕は義手で戦いで受けた呪いのため、前線には立てないが自分にできる役割のなかで頑張っていく。それしかないんだと自分に言い聞かせながら。
最近は子育てと書類仕事に追われている。ネイビーはよく森で狩りをして兵士の育成に尽力してくれている。あれからかなり強くなっている様でもしかして俺より強くなっているのかもしれない。
皇暦280年 火の月 第一章 完




