第一部 1
親父は著名な考古学者であり冒険家だった。小さいころは一緒に遺跡なども連れて行ってもらっていた。
しばしば一人で数か月出かけて行くこともあったそんなある日三日月の模様が頭に入ったフードのついたコートを深くを被った見知らぬ男が家に訪ね何も言わず一つ手渡して行った。
父の手記だ。
それから父は戻ることはなかった。
母な内心どこか覚悟していたらしくて、自分に悲しげな顔は見せなかったが時々朝に目が赤いときはあった。
時が経ち大人になったとき自分も親父と同じ道を行こうと決めた。それは親父のおかげでもあるし、親父を探しにいくためでもあった。
到底親父がまだ生きているとも思えなかったが最後の痕跡だけでも、という気持ちだった。
母はすこし寂しそうな顔をしたが止めることはしなかった。
親父の手帳にはこれまで巡った場所の記録とその先々で遭遇した困難にどう対処したか、所謂オリジナルのサバイバル書になっている。考古学者になるための勉強をするうえで親父の手記は欠かせないものであり、考古学者として生き始めた時もこの手記には幾度も助けられてきた。
そのうえで何度も読み返してきたが記録されている最後のページ、恐らく親父が行方不明になる直前に記されたものであろう部分だけ違和感があった。
場所、日時、天候が書かれていないのだ。
それ以外はきちんと書かれているのでやはり疑問がわく、そしてその代わりに手書きの絵が描き込まれていた。
二つあって先に書かれていたのはどこか海岸の洞窟の入り口の絵、後に書かれているのは所々岩が露出した丘陵地帯らしかった。
洞窟の絵はなんも変哲もない絵だ。
考古学、冒険家の知り合いに訪ねても洞窟などありふれていて、絞り込むことは出来なかった。
丘陵地帯の絵も同様だったが一つ気になる点があった。
他にも記録を絵で残すことは少なくともあったのだが、実に写実的な絵なのだ。
それを踏まえて、いや踏まえなかったとしても不明なものが描かれている。
生き物なのだろうが、何とも判別できないのだ。
四足、長い尻尾、大きな羽、強いて言うなら空想上に存在するドラゴンのような造形をしている。
だがこの世界にそのような生き物は存在しない。
なぜ最後にこのような落書きを残したのか理由がわからないが、とにかく手掛かりはこの二つの絵しかなく、場所も見当もつかないのでほとんど当てにならなかった。




