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暁なき世界の覇王   作者: 未記入です。


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第三十四話 北へ向かう者たち

第一章 神に忘れられた子

 朝日が、クロイゼル公爵家の屋敷を照らしていた。


 中庭には数頭の馬と、北方調査隊のための馬車が並んでいる。


 グレイヴは黒い外套を身にまとい、腰に剣を差していた。


 同行するのは、王国魔術師団のロディスとミレーヌ、そして公爵家の騎士六名。


 目的は北方遺跡の調査。


 第三封印の反応と、六百年前の記録に残された二人の守護者について、その手がかりを探すことだった。


「旦那様、準備が整いました」


 騎士の報告に、グレイヴは頷いた。


「出発する」


 そのとき、屋敷の扉が開いた。


「父上!」


 レオンハルトだった。


 その腕には、まだ幼い弟のアルヴェインが抱かれている。


「見送りに来たのか」


「はい」


 レオンハルトは少し緊張した顔で頷いた。


「アルヴェインも一緒です」


「そうか」


 グレイヴは二人の前に歩み寄った。


 アルヴェインは父の顔を見上げる。


 まだ言葉を交わすことはできない。


 それでも、その視線には確かな意志があった。


「アルヴェイン」


 グレイヴは小さな手を包み込んだ。


「父は少し遠くへ行ってくる。戻るまで、母さんと兄さんの言うことをよく聞くんだぞ」


 アルヴェインは指を動かした。


 グレイヴの指を、弱々しく握る。


「……そうか」


 グレイヴの表情がわずかに和らいだ。


「待っていろ」


 短くそう告げると、息子の額に手を置いた。


 その瞬間。


 アルヴェインの魔力視が、グレイヴの身体に流れる魔力とは別のものを捉えた。


 胸元。


 心臓の少し下。


 そこに、薄い六角形の輪郭が浮かんでいる。


 以前、セレスティアやレオンハルトに見えたものと似ていた。


 だが、グレイヴのものは違う。


 輪郭の一部が欠けている。


(父さんにも……?)


 アルヴェインは目を凝らした。


 六角形の周囲には、細い線が幾重にも重なっている。


 その線は胸元から背中へ伸び、さらに見えない場所へ続いていた。


 しかし、その先は黒く覆われている。


『血脈照合』


『対象:グレイヴ・クロイゼル』


『継承反応:確認』


『欠損情報:未照合』


 文字が浮かび、すぐに消えた。


(父さんも、何かを受け継いでいるのか)


 グレイヴは何も気づかないまま、息子から手を離した。


「レオンハルト」


「はい」


「頼んだぞ」


「必ず守ります」


 その返事に、グレイヴは小さく頷いた。


     ◇


 馬車が動き出す。


 レオンハルトは、父の姿が見えなくなるまで見送っていた。


「兄さん」


 アルヴェインが小さく声を漏らす。


「どうした?」


 レオンハルトが顔を向ける。


「……ああ、そうだな。もう戻ろう」


 弟を抱き直す。


 そのとき、彼はふと思い出した。


 昨夜見た、雪原の夢。


 二人の子供が手を握り合っていた光景。


 あの夢のことを父に話そうか迷ったが、結局口にはしなかった。


 なぜなら、あの光景を思い出すたびに、胸の奥が締め付けられるからだ。


 知らない誰かとの約束。


 それなのに、自分が守らなければならない気がしていた。


「アルヴェイン」


 レオンハルトは弟の顔を見つめた。


「僕は強くなるよ」


 小さな手に、自分の指を重ねる。


「父上みたいに強くなって、母上みたいに優しくなって、お前を守れる兄さんになる」


 アルヴェインは兄の指を握った。


「だから、お前も元気に大きくなれよ」


 レオンハルトは笑った。


     ◇


 北方へ向かう馬車の中。


 ロディスは古い地図を広げていた。


「北方遺跡までは、順調に進めば二日ほどです」


「前回の調査地点とは違うのか?」


 グレイヴが尋ねる。


「はい。今回はさらに北へ進みます。第三封印が反応した場所から、東にある谷です」


 ミレーヌが地図を覗き込んだ。


「ここは現在の地図では何も記載されていませんね」


「古い記録では、かつて集落があったとされています」


「集落?」


「ええ。ただし、住民の記録は残っていません。地名も不明です」


 グレイヴは地図上の一点を見つめた。


「ノルディアと関係があるかもしれんな」


 エリシアが育ったという北方の村。


 彼女の記憶には残っているが、地図にも歴史にも存在しない場所。


 ロディスは慎重に頷いた。


「可能性はあります。ただ、同じ場所だと断定するには情報が足りません」


「そうだな」


 グレイヴは窓の外へ視線を向けた。


 雪が降り始めていた。


 北へ進むほど、空気が冷たくなる。


 そのとき、ミレーヌが一冊の古書を取り出した。


「初代当主の私的な記録について、一つ気になることがあります」


「何だ?」


「正式な歴史書では、初代当主が単独で北方の境界を守ったとされています。しかし、古い写本には別の表現が残っています」


 彼女は該当箇所を開いた。


『我らは境界の地に立った』


 グレイヴは目を細めた。


「我ら、か」


「はい。単数ではありません」


「写本のほかの部分は?」


「残念ながら、後半が失われています。ただ、その直後に別の文章がありました」


 ミレーヌは声を落とした。


『彼が名を失った日、我らの約束は形を変えた』


 馬車の中が静まり返る。


「名を失った日……」


 ロディスが呟いた。


「名前を消されたのか、それとも自ら捨てたのか」


「どちらも考えられます」


 ミレーヌは本を閉じた。


「ただ、名前を失うことと、存在を失うことは同じではありません」


 その言葉に、ロディスの表情が曇った。


 彼自身、記録に欠損を抱えている。


 忘れてしまった誰か。


 思い出せない約束。


 そして、今も残る小さな玩具。


「私は、あの子との約束を守れているのでしょうか」


 ロディスの問いに、誰もすぐには答えなかった。


 グレイヴは静かに言った。


「まだ終わっていないのなら、これから守ればいい」


「……そうですね」


 ロディスは窓の外を見た。


 雪が強くなっていた。


     ◇


 その頃、公爵家の屋敷では。


 エリシアがアルヴェインの部屋を訪れていた。


「アルヴェイン様、お着替えしましょうね」


 柔らかな声。


 いつもと変わらない日常。


 だが、彼女は少しだけ疲れた表情をしていた。


 昨夜から、奇妙な夢を繰り返し見ている。


 雪の降る村。


 小さな家。


 そして、誰かが自分の手を握っている光景。


 顔は見えない。


 声もはっきりとは聞こえない。


 ただ、夢の最後には必ず同じ言葉が残る。


『忘れないで』


 エリシアはアルヴェインの衣服を整えながら、小さく息を吐いた。


「……私は、何を忘れているのでしょう」


 その瞬間。


 アルヴェインの魔力視が反応した。


 エリシアの胸元にある六角形の紋章。


 その周囲に、細い光が走る。


 これまで見えていた線とは別に、一本の新しい線が現れた。


 線は床へ伸び、屋敷の地下へと向かっている。


 そして、その先にあるものが、初めてはっきりと見えた。


 庭の古木の下。


 地中に埋められた六角形の構造物。


 その中央に、小さな空白がある。


(あれは……)


 空白の形は、人の手のひらほどの大きさだった。


 まるで、何かを置くための場所のようだ。


『記録保管領域』


『保持者照合:進行中』


『必要条件:未達』


『欠落項目:一名』


 アルヴェインの胸元がわずかに熱を帯びた。


 そして、見えない場所から声が響いた。


『記録者よ』


 アルヴェインは視線を動かす。


『まだ、戻ってはならない』


 その声は、これまで聞いた境界の管理者のものとは違っていた。


 どこか懐かしく、悲しげだった。


『あの子を、もう一度失うことになる』


 光が消える。


 エリシアは何も気づかず、アルヴェインの頬を優しく撫でた。


「どうしました? 何か気になるものでもありましたか?」


 アルヴェインは彼女を見つめる。


(あの子……)


 誰のことなのか。


 そして、誰が誰を失うというのか。


 まだ何も分からない。


     ◇


 北方のさらに奥。


 人の足跡が途絶えた雪原に、灰色のローブをまとった男が立っていた。


 彼の前には、古い石碑がある。


 そこには、六角形の紋章と四つの円が刻まれていた。


 男は手袋を外し、石碑に触れる。


「四つ目の鍵は、ここにある」


 石碑の中央が淡く光った。


『第四鍵:照合』


『記録保持者:未確認』


『開放条件:未達』


 男は静かに笑った。


「ようやく、ここまで来た」


 だが、次の瞬間。


 石碑の光が赤く変わった。


『警告』


『不適合者による接触を検知』


 男の笑みが消える。


「……まだ拒むか」


 彼は石碑から手を離した。


 その背後、雪原の向こうに巨大な影が立っていた。


 四本の腕。


 顔のない頭部。


 胸には、六角形の紋章。


 以前、北方で調査隊が遭遇した異形と同じ姿だった。


 だが、今回の個体は違う。


 その身体には、薄い文字が無数に刻まれている。


『守護機構』


『対象:記録保管領域』


『侵入者:確認』


 異形は男へ向かって一歩踏み出した。


「なるほど」


 灰色のローブの男は仮面を直した。


「お前たちは、まだあの約束を守っているのか」


 異形は答えない。


 ただ、四本の腕を広げた。


 男は後退しながら呟いた。


「ならば、先に記録者を見つけなければならない」


 雪原に風が吹き荒れる。


 その風の中で、石碑に刻まれた文字が一瞬だけ浮かび上がった。


『第四鍵は、忘れられた村に眠る』


 そして、遠く離れた公爵家の庭で。


 古木の根元に埋められた六角形の構造物が、静かに光を放ち始めていた。


 朝日が、クロイゼル公爵家の屋敷を照らしていた。


 中庭には数頭の馬と、北方調査隊のための馬車が並んでいる。


 グレイヴは黒い外套を身にまとい、腰に剣を差していた。


 同行するのは、王国魔術師団のロディスとミレーヌ、そして公爵家の騎士六名。


 目的は北方遺跡の調査。


 第三封印の反応と、六百年前の記録に残された二人の守護者について、その手がかりを探すことだった。


「旦那様、準備が整いました」


 騎士の報告に、グレイヴは頷いた。


「出発する」


 そのとき、屋敷の扉が開いた。


「父上!」


 レオンハルトだった。


 その腕には、まだ幼い弟のアルヴェインが抱かれている。


「見送りに来たのか」


「はい」


 レオンハルトは少し緊張した顔で頷いた。


「アルヴェインも一緒です」


「そうか」


 グレイヴは二人の前に歩み寄った。


 アルヴェインは父の顔を見上げる。


 まだ言葉を交わすことはできない。


 それでも、その視線には確かな意志があった。


「アルヴェイン」


 グレイヴは小さな手を包み込んだ。


「父は少し遠くへ行ってくる。戻るまで、母さんと兄さんの言うことをよく聞くんだぞ」


 アルヴェインは指を動かした。


 グレイヴの指を、弱々しく握る。


「……そうか」


 グレイヴの表情がわずかに和らいだ。


「待っていろ」


 短くそう告げると、息子の額に手を置いた。


 その瞬間。


 アルヴェインの魔力視が、グレイヴの身体に流れる魔力とは別のものを捉えた。


 胸元。


 心臓の少し下。


 そこに、薄い六角形の輪郭が浮かんでいる。


 以前、セレスティアやレオンハルトに見えたものと似ていた。


 だが、グレイヴのものは違う。


 輪郭の一部が欠けている。


(父さんにも……?)


 アルヴェインは目を凝らした。


 六角形の周囲には、細い線が幾重にも重なっている。


 その線は胸元から背中へ伸び、さらに見えない場所へ続いていた。


 しかし、その先は黒く覆われている。


『血脈照合』


『対象:グレイヴ・クロイゼル』


『継承反応:確認』


『欠損情報:未照合』


 文字が浮かび、すぐに消えた。


(父さんも、何かを受け継いでいるのか)


 グレイヴは何も気づかないまま、息子から手を離した。


「レオンハルト」


「はい」


「頼んだぞ」


「必ず守ります」


 その返事に、グレイヴは小さく頷いた。


     ◇


 馬車が動き出す。


 レオンハルトは、父の姿が見えなくなるまで見送っていた。


「兄さん」


 アルヴェインが小さく声を漏らす。


「どうした?」


 レオンハルトが顔を向ける。


「……ああ、そうだな。もう戻ろう」


 弟を抱き直す。


 そのとき、彼はふと思い出した。


 昨夜見た、雪原の夢。


 二人の子供が手を握り合っていた光景。


 あの夢のことを父に話そうか迷ったが、結局口にはしなかった。


 なぜなら、あの光景を思い出すたびに、胸の奥が締め付けられるからだ。


 知らない誰かとの約束。


 それなのに、自分が守らなければならない気がしていた。


「アルヴェイン」


 レオンハルトは弟の顔を見つめた。


「僕は強くなるよ」


 小さな手に、自分の指を重ねる。


「父上みたいに強くなって、母上みたいに優しくなって、お前を守れる兄さんになる」


 アルヴェインは兄の指を握った。


「だから、お前も元気に大きくなれよ」


 レオンハルトは笑った。


     ◇


 北方へ向かう馬車の中。


 ロディスは古い地図を広げていた。


「北方遺跡までは、順調に進めば二日ほどです」


「前回の調査地点とは違うのか?」


 グレイヴが尋ねる。


「はい。今回はさらに北へ進みます。第三封印が反応した場所から、東にある谷です」


 ミレーヌが地図を覗き込んだ。


「ここは現在の地図では何も記載されていませんね」


「古い記録では、かつて集落があったとされています」


「集落?」


「ええ。ただし、住民の記録は残っていません。地名も不明です」


 グレイヴは地図上の一点を見つめた。


「ノルディアと関係があるかもしれんな」


 エリシアが育ったという北方の村。


 彼女の記憶には残っているが、地図にも歴史にも存在しない場所。


 ロディスは慎重に頷いた。


「可能性はあります。ただ、同じ場所だと断定するには情報が足りません」


「そうだな」


 グレイヴは窓の外へ視線を向けた。


 雪が降り始めていた。


 北へ進むほど、空気が冷たくなる。


 そのとき、ミレーヌが一冊の古書を取り出した。


「初代当主の私的な記録について、一つ気になることがあります」


「何だ?」


「正式な歴史書では、初代当主が単独で北方の境界を守ったとされています。しかし、古い写本には別の表現が残っています」


 彼女は該当箇所を開いた。


『我らは境界の地に立った』


 グレイヴは目を細めた。


「我ら、か」


「はい。単数ではありません」


「写本のほかの部分は?」


「残念ながら、後半が失われています。ただ、その直後に別の文章がありました」


 ミレーヌは声を落とした。


『彼が名を失った日、我らの約束は形を変えた』


 馬車の中が静まり返る。


「名を失った日……」


 ロディスが呟いた。


「名前を消されたのか、それとも自ら捨てたのか」


「どちらも考えられます」


 ミレーヌは本を閉じた。


「ただ、名前を失うことと、存在を失うことは同じではありません」


 その言葉に、ロディスの表情が曇った。


 彼自身、記録に欠損を抱えている。


 忘れてしまった誰か。


 思い出せない約束。


 そして、今も残る小さな玩具。


「私は、あの子との約束を守れているのでしょうか」


 ロディスの問いに、誰もすぐには答えなかった。


 グレイヴは静かに言った。


「まだ終わっていないのなら、これから守ればいい」


「……そうですね」


 ロディスは窓の外を見た。


 雪が強くなっていた。


     ◇


 その頃、公爵家の屋敷では。


 エリシアがアルヴェインの部屋を訪れていた。


「アルヴェイン様、お着替えしましょうね」


 柔らかな声。


 いつもと変わらない日常。


 だが、彼女は少しだけ疲れた表情をしていた。


 昨夜から、奇妙な夢を繰り返し見ている。


 雪の降る村。


 小さな家。


 そして、誰かが自分の手を握っている光景。


 顔は見えない。


 声もはっきりとは聞こえない。


 ただ、夢の最後には必ず同じ言葉が残る。


『忘れないで』


 エリシアはアルヴェインの衣服を整えながら、小さく息を吐いた。


「……私は、何を忘れているのでしょう」


 その瞬間。


 アルヴェインの魔力視が反応した。


 エリシアの胸元にある六角形の紋章。


 その周囲に、細い光が走る。


 これまで見えていた線とは別に、一本の新しい線が現れた。


 線は床へ伸び、屋敷の地下へと向かっている。


 そして、その先にあるものが、初めてはっきりと見えた。


 庭の古木の下。


 地中に埋められた六角形の構造物。


 その中央に、小さな空白がある。


(あれは……)


 空白の形は、人の手のひらほどの大きさだった。


 まるで、何かを置くための場所のようだ。


『記録保管領域』


『保持者照合:進行中』


『必要条件:未達』


『欠落項目:一名』


 アルヴェインの胸元がわずかに熱を帯びた。


 そして、見えない場所から声が響いた。


『記録者よ』


 アルヴェインは視線を動かす。


『まだ、戻ってはならない』


 その声は、これまで聞いた境界の管理者のものとは違っていた。


 どこか懐かしく、悲しげだった。


『あの子を、もう一度失うことになる』


 光が消える。


 エリシアは何も気づかず、アルヴェインの頬を優しく撫でた。


「どうしました? 何か気になるものでもありましたか?」


 アルヴェインは彼女を見つめる。


(あの子……)


 誰のことなのか。


 そして、誰が誰を失うというのか。


 まだ何も分からない。


     ◇


 北方のさらに奥。


 人の足跡が途絶えた雪原に、灰色のローブをまとった男が立っていた。


 彼の前には、古い石碑がある。


 そこには、六角形の紋章と四つの円が刻まれていた。


 男は手袋を外し、石碑に触れる。


「四つ目の鍵は、ここにある」


 石碑の中央が淡く光った。


『第四鍵:照合』


『記録保持者:未確認』


『開放条件:未達』


 男は静かに笑った。


「ようやく、ここまで来た」


 だが、次の瞬間。


 石碑の光が赤く変わった。


『警告』


『不適合者による接触を検知』


 男の笑みが消える。


「……まだ拒むか」


 彼は石碑から手を離した。


 その背後、雪原の向こうに巨大な影が立っていた。


 四本の腕。


 顔のない頭部。


 胸には、六角形の紋章。


 以前、北方で調査隊が遭遇した異形と同じ姿だった。


 だが、今回の個体は違う。


 その身体には、薄い文字が無数に刻まれている。


『守護機構』


『対象:記録保管領域』


『侵入者:確認』


 異形は男へ向かって一歩踏み出した。


「なるほど」


 灰色のローブの男は仮面を直した。


「お前たちは、まだあの約束を守っているのか」


 異形は答えない。


 ただ、四本の腕を広げた。


 男は後退しながら呟いた。


「ならば、先に記録者を見つけなければならない」


 雪原に風が吹き荒れる。


 その風の中で、石碑に刻まれた文字が一瞬だけ浮かび上がった。


『第四鍵は、忘れられた村に眠る』


 そして、遠く離れた公爵家の庭で。


 古木の根元に埋められた六角形の構造物が、静かに光を放ち始めていた。

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