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暁なき世界の覇王   作者: 未記入です。


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第二話 クロイゼル家の掟

第一章 神に忘れられた子

アルヴェイン・クロイゼルが生まれてから、三日が経過した。

この三日間で、俺は自分が置かれている状況を少しずつ理解し始めていた。

まず、ここは間違いなく異世界だ。

窓の外には見たこともない植物が生い茂り、夜空には月が二つ浮かんでいる。

そして、時折聞こえてくる会話には、魔法や魔物といった言葉が当たり前のように登場していた。

(本当に異世界なんだな……)

前世では小説の中でしか知らなかった世界。

それが今、自分の目の前に広がっている。

正直、興奮していた。

だが、同時に一つの問題もあった。

俺はまだ赤ん坊なのだ。

自分の意思で歩くことも、食事をすることもできない。

今できることといえば、周囲の会話を聞き、少しでもこの世界について知ることくらいだった。

『アルヴェイン様、お目覚めですか?』

いつも世話をしてくれる女性が、俺の顔を覗き込んだ。

彼女の名前はエリシア。

二十代半ばほどの侍女で、落ち着いた優しい声をしている。

『今日もご機嫌ですね』

そう言って、俺を抱き上げる。

この世界に来てから、彼女には何度も助けられていた。

(エリシアには感謝しないとな)

もちろん、言葉にはできない。

俺は小さく手を動かすことしかできなかった。


その日の昼過ぎ。

屋敷の空気が変わった。

廊下を歩く使用人たちの足音が慌ただしくなる。

『旦那様がお戻りになられました』

その声を聞いたエリシアの表情が少しだけ引き締まった。

『アルヴェイン様。旦那様がお会いになるそうです』

(父親か……)

俺はまだ父親の顔を見たことがなかった。

クロイゼル家の当主。

武門の公爵家を率いる人物。

どんな人間なのだろう。

期待と不安が入り混じる中、扉が静かに開いた。

現れた男は、想像以上の威圧感を持っていた。

黒に近い銀髪。

鋭い灰色の瞳。

鍛え上げられた身体を包む黒い軍服。

年齢は四十歳前後だろうか。

その男が部屋に入るだけで、空気が張り詰めるような感覚があった。

『この子がアルヴェインか』

低く、よく通る声。

『はい。旦那様』

エリシアが頭を下げる。

男は俺の顔をしばらく見つめた。

そして、静かに口を開く。

『名はアルヴェイン・クロイゼル』

『はい』

『クロイゼルの血を継ぐ者だ』

その言葉に、俺は思わず目を向けた。

男は続ける。

『この家では、血筋だけで人を評価することはない』

『……』

『強さを示せ。知恵を示せ。己の価値は己で証明しろ』

なるほど。

どうやら噂どおりの家らしい。

生まれたばかりの赤ん坊に向ける言葉ではない気もするが。

『弱者を見下すな。だが、弱さを言い訳にするな』

男の瞳は、真っすぐ俺を見ていた。

『それがクロイゼル家の掟だ』

その瞬間。

俺は理解した。

この男は、決して優しいだけの父親にはならない。

だが、理不尽な人間にも見えなかった。

少なくとも、努力する者を認める人間なのだろう。

(面白いじゃないか)

俺は心の中で笑った。

この家で生きていくなら、認めさせればいい。

前世では何も成し遂げられなかった。

今度こそ、自分の力で。

そのときだった。

『……ん?』

父親の眉がわずかに動いた。

『旦那様?』

『いや……何でもない』

父親は俺の額に手をかざした。

その手のひらから、淡い青色の光が広がる。

魔力だ。

この世界では、生まれたばかりの子供であっても魔力を持っている。

貴族の子供は、幼い頃から魔力の検査を受けるらしい。

父親は何かを確認するように目を閉じた。

数秒後。

『……妙だな』

『何か問題がございますか?』

『魔力の流れが感じられない』

部屋が静まり返った。

『そんな……』

エリシアが不安そうに俺を見る。

父親は再び俺の身体に手をかざした。

しかし、結果は変わらなかった。

『魔力がないのか、それとも……』

父親の言葉が途切れる。

俺は内心、焦っていた。

(待て。魔力がない?)

魔法が存在する世界で魔力がない。

それは、かなり致命的なのではないだろうか。

しかし父親は、意外にも落ち着いていた。

『まだ判断するには早い。成長を待つ』

そう言って俺の頭に手を置く。

『アルヴェイン。お前が何者になるかは、お前自身が決めろ』

それだけ告げると、父親は部屋を後にした。


父親が去った後。

俺は天井を見つめていた。

魔力がない。

それが本当なら、魔法を使えない可能性がある。

だが、まだ生後三日だ。

今すぐ結論を出す必要はない。

それよりも、気になることがあった。

父親が魔力を調べた瞬間。

ほんの一瞬だけ、俺の意識の奥で何かが反応した気がしたのだ。

それは光でも音でもない。

まるで、深い水底に沈んでいた何かが、目を覚まそうとしたような感覚。

(……気のせいか?)

その答えは出なかった。

ただ一つだけ、確かなことがあった。

俺の新しい人生は、まだ始まったばかりだ。


その夜。

誰もいなくなった寝室で、異変が起きた。

アルヴェインの胸元。

そこに、小さな光が浮かんだ。

色は透明。

形は六角形。

その中心には、文字とも紋章ともつかない奇妙な模様が刻まれていた。

光はゆっくりと回転する。

そして。

『――――』

誰にも聞こえない声が、世界のどこかから響いた。

同時刻。

王都から遠く離れた北方の山脈。

数百年間、一度も開かれたことのない古代遺跡の扉に、一本の亀裂が走った。

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