生贄
「───という事で、私がマルテミの王になりました」
同日、マルテミ城の玉座の間にて。
アリアステル王女は玉座にふんぞり返りながら、この場に集めた配下達に、ただ一方的に事実を言い放った。
勿論、この場にはディザベルやリュララ王女達も居た。
「な、なにを───」
「貴方の疑問や質問に意味はありません。時間の無駄です。そして同じ事は、2度は言いません」
配下の言葉を遮る様に、アリアステルは言い放った。
「貴方達はただ、私の言葉を受け入れ、新たな王の誕生を祝福し、忠誠を誓い、私の為に働きなさい」
今まで見た事も無いようなアリアステルの態度、顔つき、放たれるプレッシャーに、多くの者達が言葉を失う中───
「な、何を言っているんじゃ、アリアステルッ!?」
ディザベルが声を荒らげながら叫んだ。
「お主が父を殺したじゃと!?実の父を!?唯一の親を!?肉親を!?家族を!?」
先程からアリアステルが好き勝手に話した内容は、ディザベルにとって到底受け入れられるものでは無かった。
アリアステルが殺したという父親……いや家族は、ディザベルには無いもの、遠い昔に奪われてしまった大切なものだ。
どれだけ仇を殺しても、どれだけ欲しても、どれだけ夢に見ても、もう2度と手に入る事の無い大切なものだ。
今でも家族と一緒に過ごした幸せな日々を夢で見てしまう程だ───……。
それをアリアステルが?よもやアリアステルが?自分の手で殺し……た……?
「どうして───……」
ディザベルは、今にも泣き出しそうな悲痛な顔でアリアステルに問うた。
何故、自分の手で手放してしまったのか?と……。
「そんなの邪魔だったからに決まっているじゃないですか」
アリアステルは、さも当然かのように平然と言った。
「邪、魔…………?」
ディザベルは、アリアステルの言っている意味が上手く理解出来ず、聞き返してしまう。
「その為に貴女から魔法を習ったんですから」
「その為に魔法を習った?」
「そうですよー、子供の私じゃ父を殺す方法なんて限られてますから。だから貴女をパーティーに招待したんですよ」
「なにを言って……」
「あのパーティーを襲撃しようっていう不穏な動きは知っていましたから、それを利用して自然な流れで護衛として貴女を雇い、自衛手段の獲得の為と偽って魔法を講師をお願いしたんですよ。これなら断れないですよね?それに私達『友達』ですもんね?お友達からの、お願いは断りづらいですよね」
言っている意味は分かる。理にも適っている。それに貴族同士、王族同士の蹴落とし合い、暗殺なんて言うのは、よくある話だ。それも分かる。
───だけど、心が追い付かなかった。
「……ワシらは、友達……では無かったのか……?」
「何処の世界に『友達になろうよ』と下心も無しに近づいて来る人がいるんですか?」
「…………そう……だな…………」
───過去、復讐の相手に、そうやって近づいた事はあった。それをアリアステルがやったまでの事だ。自分の野望の為に。
「ルルさん……」
リュララ王女が心配そうな顔でワシを見ている。
別に何も問題は無い。過去に自分がやった行いが返って来たまでの事。何も問題は無い。
…………それなのに涙が溢れて来る。
何がそんなに泣くほど悲しいのか?自分でもよく分からない。けれど涙が止まらない。
「さて、お話も終わりましたし……次のお話に移らさせて頂きます。……と言っても、次で最後なんですけどね」
アリアステルは、どこからともなく黒紫のキューブを取り出して、それを掲げる。
「皆さん、さようなら。私の願いの為に生贄になって下さい」
アリアステルの掲げた黒紫のキューブが淡く黒く光る。
それと同時に、身体から体力と魔力が、あのキューブに凄まじい勢いで吸い取られていく。
「これは……!?」
茫然自失としていたディザベルだったが、あまりの事態に正気を取り戻す。
たった数秒。たった数秒で魔力の1割が吸い取られてしまった……!
「ぐぅぅぅ……!」
急激な体力と魔力の消耗に、ディザベル以外の人間は膝から崩れ落ち、呻き声を上げながら床に転がっている。
リュララ王女も、ゼクシレンも、あのヤマダ・ハナコもだ!
……冗談ではない!ワシ程の膨大な魔力量で1割も持って行かれたとしたら、他の人間からすれば気を失ってもおかしくはないレベルの消耗!
1分も2分も、このまま吸われれば死人が出る!それは───
「あ、あああああ!?」
アリアステルとて同じ事だ。
「アリアステル!」
ワシは、前もってアリアステルに渡していた白金のブレスレットと自分の位置を入れ替えて、床に倒れているアリアステルの傍に現れる。
「なん、で……?」
「言ったじゃろう、身を守る魔道具じゃと!」
ワシはアリアステルの握っていた黒紫のキューブを強引に奪い取る。
「う”っ”!?」
キューブを手で持った瞬間、3割程の魔力と体力がキューブに吸い取られてしまった。
「ぐっ……うぅぅ!」
ワシはアリアステルから奪い取ったキューブを反射的に投げ捨てる。
「邪魔じゃ!!」
ワシは投げ捨て、地に転がっているキューブを破壊するべく、白金の剣を生成する。
「だ、だめ!アレが無いと……私!!」
白金の剣を投げつけようとした瞬間、倒れていたアリアステルが起き上がり、キューブの元へ駆け寄ろうとする。
「アリアステル!?」
ワシは、駆け寄ろうとするアリアステルを止めようと彼女の腕を掴もうとするが、アリアステルの腕をギリギリの所で掴むことが出来なかった。
「ま、待つん───!」
すぐさま追いかけようとするが、体力も、あのキューブに吸われていたせいで足に力が入らず、
追いかける事が出来なかった。
「アリアステル!待つんじゃ!!」
ワシはまだ無事だとしても、アリアステルの魔力量では、これ以上吸われたら死んでしまう!
でも、この位置ではアリアステルが壁になってキューブを壊せない!
「待ってッ!!」
その時、キューブから放たれていた黒い光が急に強くなり球状に広がっていく。
「お母さんに会えない!」
キューブの放つ黒い光の中に、アリアステルが入ってしまった。
「アリアステル!!」
ディザベルのアリアステルを呼ぶ声が虚しく響いた。




