模擬戦の始まり
マルテミ王国の冒険者ギルドには巨大な訓練場がギルドの外に併設されている。
その規模は何と、陸上競技場と同じ大きさで、新人冒険者から熟練の冒険者まで幅広く訓練に利用している。
───勿論、この訓練場ではギルドに申請さえすれば模擬戦も可能だ。
「おい!ナリバスの野郎が模擬戦やるってよ!」
冒険者ギルドでは、早速情報を仕入れた騒ぎが好きな冒険者の1人が、一大スクープと言わんばかりに大声で他の冒険者達に伝える。
「まーたナリバスに因縁でも付けられたのか?相手は誰だ?」
「それが最近話題の新人さ!確か、オー……なんちゃらの、なんとかタロウって奴!」
「サトウ・タロウか?あのガーンデーンのダンジョンを踏破した、最速でSランクになった奴だろ?」
「そう、そのタロウ!そのタロウと今からやるってよ!」
「まあ、見に行くか」
「おっ、面白そうだな!」
「俺達も行こうぜ!」
冒険者ギルド内に居た、暇な冒険者達が一斉に訓練場に向かうと、訓練場は既に人だかりが出来ていた。
「はーい、はいはい!賭けは、こっちだよー!」
「お前は、どっちに賭ける?」
「やっぱナリバスだろ。最近何かと話題なタロウって言っても、あのナリバスには敵わないだろ?それに賭けもナリバスの方が人気だしな」
「やっぱりな~……よーし、じゃあ俺もナリバスに───」
「サトウ・タロウに金貨100」
「な!?」
「金貨100枚ッ!?」
賭けに参加していた連中の視線が一斉に金貨100枚を賭けた冒険者に向く。
高い身長に水色の短い髪、そして男性冒険者の視線を集める豊満なバスト。
「あ、アイツは一体何者なんだ!?」
何やってんだアイツ……。
キョウは金貨100枚を賭けた女、いやスライム女を冷ややかな目で見る。
暫くして賭け金を支払い終えたスライム女のクリスタル・ボゥルは、ゆっくりと歩いてこちらに戻って来た。
「急に俺に金をせびって来て、何かと思えば……」
「お前が勝てば金は倍、美味い料理が一杯食える」
「俺が勝てばな」
「勝てないのか?」
「今日は御馳走だッ!!」
クソスライムに煽られて、俺は俄然やる気を出す。
「単純な奴」
スライムが何か言った気がしたが、周りのガヤのせいで、よく聞き取れなかった。
Sランク冒険者であり、オオカミの獣人であるナリバスは、対戦相手である目の前の男、サトウ・タロウをじっくりと観察する。
最近何かと話題な2人組の冒険者……女の方には例のパーティーで会ったが……最初は、ただのガキかと思ったが、実際に賊と戦う所を見て、俺は自分の中の評価を変えた。
あのガキは、なんてことはない、ただの基礎的な魔法だけで賊を蹂躙した。
あの姿を見ただけで、腕も実力も知識もないゴミカス冒険者でもなければ、誰もが理解するハズだ。
このガキは強い、それも底知れないものがあるぞ、と───
……なら、あのガキとコンビを組んでる男の方はどうなんだ?
俺が最初から気になっていた男、サトウ・タロウの実力は?
行く先々でトラブルを解決し、更には俺が踏破出来なかったガーンデーンのダンジョンを踏破した程の男……!
冒険者として、男として、気にならない訳が無い。
そんな奴が、今、俺の前に立っている。
街中でコイツを見た時、コイツとぶつかった時、俺は震えた。
普通、俺が他の奴とぶつかれば、力と体格の差で向こうが一方的に倒れるハズだった。
それが、この男の場合、俺の方が押されて倒れそうになった……!
『一体何処のどいつが!?』
俺はそう思い、ぶつかって来た奴の顔を見ると、この国で見た事の無い奴だった。
瞬間、俺は直感した。コイツが俺が探していたサトウ・タロウなのだと───!
「開始の合図はどうする?」
目の前の男、サトウ・タロウが俺に聞いてくる。
「この金貨を俺が指で弾く」
俺は金貨を1枚、懐から取り出してサトウ・タロウに見せる。
「弾いた金貨が床に落ちた瞬間、試合開始だ」
「了解。いつでも始めてくれ」
「……武器はどうした?」
俺は武器を構えるどころか、持ってすらいないサトウ・タロウに苛立ちを覚えつつも聞いてやる。
舐めてんのか?と。
「ああ、生憎と武器は持ち合わせていないんだ」
「なんだと?」
「いや、別に煽ってる訳じゃない」
サトウ・タロウは突然、上着を脱いで上裸になる。
「…………んな!?」
奴が服を脱いだ瞬間、まるで別人のように、いや実際、身長も筋肉も先程までとは別人の身体になった。
正しく筋骨隆々。俺と遜色無い身体に、対戦相手として不足無い身体に───!
この、完成された肉体美を前に、俺は勿論、周りの冒険者達も思わず息を呑んだ。
「……一応聞くが、普段は武器を使ってるとかじゃねぇよな?手加減、じゃねぇよな?」
「そんな事しないさ、リスペクトの欠片も無い」
「……ハッ!上等だッ!行くぞ!」
俺は持っていた金貨を親指で弾きながら、愛用の大剣『ギア・ザ・ボリック』を構えた。




