ダルスン到着
「あの男が捕まったとは、どういう事だッ!?」
王城の執務室から海上の孤島にある自分の麻薬製造工場内部に転移したダルスン。
ダルスンは転移の直前に部下の言った信じがたい報告について声を荒らげながら問いただしていた。
「そ、それが……先程の報告以上の事は何も……」
「なんだと……」
『大口を叩いておいてなんてザマだ!』と一瞬思ったが、あの男は腐ってもSランク冒険者。
それに連続の失敗で削られたとはいえ、奴にはまだ、SからAランクの仲間が大勢いた筈だ。
奴が自分のプライドにかけて確実に殺すと言った以上、ルルとかいう小娘1人を確実に殺す為に2~30人以上の仲間を大勢引き連れて殺しに行った筈。
それが生け捕りにされて捕まっただと!?
「捕まったのはカルシュだけか!?」
「いえ、仲間と思われる人間も大勢捕まったと報告が……」
「なんだと!?」
裏切りの線を疑ったが、そうではないとなると襲撃の情報が敵の手に渡っていて罠にでも嵌められたか?
……とにかく、奴には口封じか脱走の手引きをするかしないといけないが……それは、ここを襲撃している連中を退けた後の話だ!
ダルスンは、この工場が置かれている状況を確認するべく、転移の魔法陣が敷かれた部屋から出て、ここを管理している部下を探しに行く。
「ダルスン様!?どうしてここに!?」
都合が良い事にダルスンは部屋を出てすぐに、この工場に配置した部下の1人を発見した。
「襲撃されていると報告したのは貴様達だろう!?それで敵の数は?何者だ?」
「それよりも一刻も早くここから脱出を!」
「何だと!?ここ破棄するつもりか!?それほどまでに追い詰められているのか!?相手は一体何者───」
直後、凄まじい地響きと共に工場全体が大きく激しく揺れた。
「な、なんだ!?地震!?」
立っている事が困難な程の揺れに、ダルスンは転倒しないように、しゃがみながら地面に手をついて耐える。
「奴が!奴らがまだ戦ってる!!」
「奴ら!?奴らとは誰だ、何者だ!?」
「それよりも早く外へ!ここに居たら押し潰されます!!」
「押し潰される?押し潰されるだと!?一体何が起きているんだ!?」
「そんなの外に出れば分かりますから!さあ早くッ!!」
「…………くそっ!!」
部下の異常なまでの焦り様に、ダルスンは大人しく外に出る。
ダルスンは、こんな悪事を働いてはいるが、現場の声はちゃんと聞く、防衛大臣として優秀な男だ。
そんな男が部下の言う通りに外に出て目にしたもの、それは───
見上げる程の超巨大なスライムと、それと戦っている1人の男だった。
「な、なんだアレは!?」
「そ、それが、こういう訳でして……」
ダルスンは部下から、この状況に至った、これまでの経緯を簡単に分かりやすく説明される。
「な、何ィ!?ここを襲って来た男が突如現れた巨大スライムから自分達を守る為に戦っているだと───!?」
「はい!既に船での脱出の準備は出来ています、ダルスン様もお早く!」
「そういう事じゃない!そういう話じゃない!!私が聞きたかったのはアレは何だと聞いているんだ!!」
ダルスンはスライムと戦っている男を指差す。
「…………」
部下は答えない。いや答えられない。
それもその筈。スライムと戦っている男は、男の身長は、スライムと同じ身長なのだ。
一体何処の世界に50メートルの男が、50メートルサイズになれる男がいるというのか?
そんなビックリ人間は、一体何者なんだ?と聞かれても、そんな質問に答えられる人間、いるわけがない。
「じょあああっ!!」
男は意味不明な声を出しながらスライムと素手で戦っている。
「───!」
スライムが自分の身体から筋肉質な人間の腕を生やして、大男を投げ飛ばす。
「じょあっ!?」
投げ飛ばされた男の先はダルスンの麻薬製造工場。
「あ」
男の尻餅でダルスンの麻薬製造工場が押し潰されて瓦礫の山と化した。
「ダルスン様!我々も巻き添え食って潰されない内に早く船に乗って脱出を!」
「…………なんでアレは全裸で戦っているんだ?」
「……さあ?」
ダルスンは常識が通用しない、この場所から、この島から、部下と共に船に乗って脱出した。
「あ、頭が痛い……」
グルだった闇ギルドのリーダー、カルシュは王国に捕まり、麻薬製造工場は壊滅……。
そしてダメ押しと言わんばかりに奴隷達には、一足先に船に乗って逃げられてしまった。
奴隷達が喋る事は確実。最早、逃げるしかない。マルテミに自分達の居場所は無くなってしまった。
───だがそれは、今のマルテミでの話だ。
奴隷達の口封じは不可能、捕まった闇ギルドの連中は拷問されれば喋るだろう。
ならば捕まった闇ギルドの連中を救出し、当初の予定通り王族を殺してしまえばいい。そうなったら王国を乗っ取れる手筈は出来ている。
自分が独裁者になれば、この問題は全て解決だ。
退路を断たれ追い詰められたダルスンは、自分の野望と欲望を貪欲なまでに燃え上がらせて、次の計画に向かって動き出した。




