俺はスライム、名前は無い
俺はスライム、カイザースライムのクリスタル・ボゥルと呼ばれるスライムだ。
だが『カイザースライム』と言うのも『クリスタル・ボゥル』と言うのも、どちらも人間が勝手につけた名前であって俺の名前ではない。
しかし俺という個体に名前がある訳ではないので好きに呼べばいい。
あの女は個体の名前に固執しているが、あの男は割と好き勝手に呼んでいる。
……まあ今は個体名の事はどうでもいい。問題なのは、この空腹、飢餓感だ。
一個体の強化を目的とした鍛錬を行う為に、あの男と共に、この島に来てからというもの、十分な量の食事を摂れないでいた。
その理由は俺の舌が肥えてしまっていると言う事だ。
人間達の言う特質な力を持つ『カイザースライム』と言う存在になってから、俺は完全に捕食者の立場になり、敵と呼べるような存在はいなかった。
つまり食物連鎖の頂点に到達して、生きるという行為に余裕が生まれた。
そして生活に余裕が生まれるという事は、趣味嗜好を持つ事が許されるようになる。
趣味嗜好には色々あるが俺の場合は知識欲と食欲だった。
知識欲は、以前、人間達が落として行った本を見た時に生まれた。
簡単な絵本だったが、それを見た時『知りたい』『理解したい』と思うようになり、その日から知識を得る為に人間達の本を拾い集めていた。
次に食欲だが───
『美味い物を好きなだけ食べる』
生物が持つ趣味嗜好として、これほど分かりやすい物は無い。
こうしてグルメにも目覚めた俺は好きな物を捕食していき、徐々に舌が肥えていった。
そんなある時、あの男と、あの男の出す料理に出会い、もはや野生の頃には戻れない程に俺の舌は完全に出来上がってしまった。
人間達の、特にあの男が出す料理以外で食欲を満たす事が出来ない程に。
───つまりだ。
この、満足な量の食材を調達する事が出来ず、極上の料理を食べる事が出来ない環境に来た俺は空腹で目が回っていた。
そんな空腹に苛まれている俺の前に、この島の人間達が丹精込めて栽培している植物が目に入ってしまった。
瑞々しい葉に小さな果実、どれもが俺の食欲を唆った。
『…………もうこれでいいか』
俺は空腹に勝てず、その植物を食べた。
……ああ、美味い、天にも昇るような気持ちだ。
空腹は最高のスパイスと人間達は言うが、その意味が良く分かる。
一度食べ出したらもう止まらない。
俺はそこらに植えてある植物を食い尽くす勢いで食べていった。
あぁ凄い。空腹が、食欲が満たされていく。
気分も良い、身体中に活力が漲る、あまりの幸福感に脳が震えるようだ。
あああ!食いたい!暴れたい!何もかもぶっ壊したい!
それにもっと……!もっとだ!もっともっと食わせろ───ッ!!
「なーにやってんだ、馬鹿スライムーっ!遊んでないで、もう帰るよ~~~!!」
クソデカスライムに向かって俺は大声で呼び掛けるがスライムからの反応は無い。
それどころか超巨大化したまま今も尚、破壊の限りを尽くしている。
「ま~じでアイツ何食ったんだよ?キノコか?」
辺りを見渡しても、アイツが片っ端から残さず食ってるせいで何を食べたのかまるで分からない。
「言う事聞かないと、おやつ抜きだからね!?」
母親みたいな事を言って脅してみるが、それでもスライムからの反応が無い。マジで何食ってんだよ!?
「……とにかく!さっさとアイツを止めないと朝刊の見出しは増えるし、ディザベルに何を言われるか分かったもんじゃない!リヴァータ、巻き添え食わないように離れてろ」
「ブルルルル……!(……ふん)」
リヴァータは『はぁ、やれやれ……』と言いたげな表情をしながら速足で、この場から離れていった。
「……ったく!食い意地の汚い奴!よく知らねぇ物を食うなって、後でネチネチ説教してやる!!」
悪い物を食ったせいか、それとも魔物としての本能が急に暴走したのかは知らないが、ぶっ倒して強引に連れ帰る、それしかない。
「よぉぉぉうし!行くぞォ!!」
こうして50メートル超えのバケモノスライムvs普通の高校生のバトルが今、幕を開けた……!
「───ってか俺、また暴走した身内と戦ってねぇ!?」




