奴隷解放軍
俺の名は榊原境!
好きな女を守れるだけの力が欲しい俺は、修行の為に無人島に訪れていた。
しかし無人島だと思っていた島が、実は無人島じゃなくて、もう大慌て!
捕まって明日の朝刊に乗りたくない俺は、その日の内に夜逃げをしようとしていた所、なんと!奴隷として大勢の人々を乗せた軍の船が島に到来した!
そんな光景を目の当たりにした俺は溢れんばかりの正義の心が大爆発!!もう我慢出来ない!助けに行くぞ!!
「とわぁ───っ!!」
……とまあ、そんな感じで悪い軍人達を倒し、彼らに捕まっていた人々を解放する事に成功した。
「お、お前……一体何者───」
「ただの通りすがりだ」
言いた過ぎて満身創痍でぶっ倒れている軍人の台詞に思いっきり被せてしまった。
「通りすがりが、こんな所にいるわけないだろ……!」
「…………」
はい、仰る通りです。路地裏でヤンキーに絡まれてるガキを助けるとかならまだしも、こんな海の真ん中にあるような島に偶然通りすがりましたーなんて無理がある。
どうする?どうすればカッコいい感じになる!?
「お、お前……何処で大臣の計画を……」
おおっ!?急にいい感じのパスが来たぁ!!
「ふん、全部お見通しだ。───この先に何があるのかも、な」
「くっ!」
これは良い感じに拾えたんじゃないんでしょうか!?この軍人も焦った顔してるし。
このアドリブ力、鍛えていきたい。
「あそこにあるんだろ?」
俺は軍人の前で基地があった方角を分かりやすくチラっと見る。
「…………」
軍人は黙ったまま答えない。この反応、図星です!
まあ、どうせ他にも奴隷にされている人達がいるくらいだろ。
サクッと助けて、さっさとこの島を脱出!そんで別の場所で修行し直しだ。
「皆!死ぬほど疲れているだろうけど、この先にまだ囚われている人達が大勢居るんだ!助けるのに手を貸して欲しい!」
俺は先程この軍人達から解放した人達に助力を求める。
「協力したいのは山々だが、一緒になって戦えるだけの力が……」
「戦うのは俺達がやるから大丈夫!皆は避難とか動け無さそうな人のアシストをしてくれれば」
「それなら、まぁ……」
「よぉ~し!じゃあ早速、奴隷解放だ!」
「「おおー!!」」
俺の掛け声と共に、協力してくれる男連中が声を上げる。
お~、盛り上がって来たじゃないの!こういうのがやりたかったんだよ、こういうのが!
俺は男達を連れて軍人達の基地に殴り込みをかけた。
ここはダルスンの所有する麻薬製造工場───
日夜、奴隷達を働かせ麻薬となる植物の栽培と麻薬の製造を行っている工場だが、今日ばかりは奴隷達よりも、ここを管理しているダルスンの息がかかった軍人達の方が大忙しで働く羽目になっていた。
「「奴隷解放!奴隷解放!奴隷解放!」」
「とわぁ───っ!!」
「なんだコイツらァ!?」
何処から来たのか分からない大勢の男達と謎の音頭を背に、馬とスライム、そして上裸の筋肉男が麻薬製造工場を奇襲。
中に居た軍人達は大慌てで対処に向かうが───
「なんだコイツ!?意味分からないのは格好だけじゃないぞ!!」
「と───うっ!!」
「うわぁぁぁ!?」
意味不明な強さの男に軍人達は為す術もなく薙ぎ倒されていく。
「たぁぁぁすけに来たぞぉぉぉ!!」
「「奴隷解放だぁぁぁ!!」」
基地内部に入り込んだキョウと男達は、救世主が来たぞと大声を上げて囚われている人達に主張する。
「た、助けが来た!?」
「来ましたとも!」
キョウは鉄格子を捻じ曲げる。
「く、鎖が邪魔で……!」
「ふぅぅぅん!!」
キョウは鎖を引きちぎる。
「さあ皆!早くここから脱出だ!」
キョウは自らしんがりを務めながら中に居た人々を外に逃がす。
「ど、どうしてこんな事に……!」
「悪の栄えた試し無し!」
これは悪い夢だと現実を受け入れられない軍人達に、この世の真理を教えてやる。
「こ、こんな事をして大臣が黙っていると思うな……よ……」
「い”」
そういえばコイツらって見た通り軍人で、その裏に大臣がいるみたいだけど……これってもしかして、メンドイ奴か?修行どころじゃない?それは不味くね?
「て、撤収───!」
俺は中に居た軍人達を粗方倒してから基地から脱出する。
俺は修行したいのに大臣なんか相手にしてられない!助けるだけ助けてトンズラさせてもらう!
「助けて頂いてありがとうございます……!お名前は───」
「名乗る程の者ではありませんよ、アハハ!」
名前なんて教えられません!そんな事したら明日の朝刊に顔写真付きで乗っちまう!そんな事になったらディザベルになんて言われるか……。
絶望の中から突如現れた救世主!謎の好青年、奴隷にされていた大勢の人々を助ける!
明日の朝刊の見出しはこれで行こう!
「よーうし!取りあえず皆が来る時に乗っていた船に乗って、この島を脱出───」
「な、なんだアレは───!?」
「へ?」
まるで信じられないものを見たと言わんばかりの人々の表情と驚きの声。
俺は思わず出て来た基地の方を振り返る。
───そこには、超巨大化したスライムが全てを破壊する勢いで暴れまくっていた。
「何アレ───!?」
俺はそこら辺でダウンしている軍人の胸倉を掴みながら叩き起こす。
「お、お前ッ!?なんてもん作ってやがる!」
「んあ……?───な、なんだアレは───!?」
「はぁぁぁ!?同じ様な驚き方をしてるんじゃないよ!お前らが作った最強のスライムじゃないのかよ!?」
ウチの子は最大26メートル、対してあのクソデカスライムはその倍以上、50メートルはある。
つまりウチの子の仕業じゃない、コイツらの仕業か、急に自然発生したスーパースライムしかない。
「あ、あんなの作れるわけないだろ!?」
「お、おまっ!白を切りやがっ───」
言いかけた所で何者かから背中を押される。
「なにぃ!?」
俺は振り返り背中を押して来た奴の顔を見る。
「ん?リヴァータか、どうした?」
俺の背中を押して来たのは他ならぬ俺の相棒、白馬のリヴァータだった。
俺とリヴァータは言葉こそ通じないが、目を見るだけで、お互いの言いたいは分かる。
リヴァータの言いたい事は、こうだ。
『アイツ、腹が減り過ぎて、そこら辺の草とか食べたら、ああなったぞ』
…………なんで?
……いや、色々言いたい事はある、あり過ぎる。
『何拾い食いしてんだ!?』だとか『何食ったんだよ!?』だとか『何食ったらそんなになるんだよ!?』だとか、とにかく色々あるが───!
「…………皆ァァァ!アイツは俺が食い止めるから島から脱出するんだ!!」
取りあえず大声で叫んで誤魔化す事にした。
「わ、分かった!」
俺の必死こいた叫びに奴隷解放軍(仮)の男達はピンチだと勘違いして、動けない人々を連れて船に向かって走った。
「……おい、お前」
俺は胸倉を掴んだままの軍人Aに話し掛ける。
「こ、今度は何だ……!?」
「お前も基地に残ってる奴ら連れて、こっから逃げろ」
俺は軍人Aの胸倉から手を離し解放してやる。
「んな!?お、お前……!敵なのに何でそこまで……!?」
「…………」
マッチポンプ過ぎて何も言えねぇ……取りあえずサムズアップだけしておくか。
「お、お前……!……悪いのは俺達だってのに、何て奴だ」」
軍人Aは、凄く俺に都合のいい解釈をしてくれたみたいで感激している。
俺は颯爽とその場から逃げるように超巨大化した拾い食いスライムの下に走った。




