友達
「───本当ですか!?」
「ああ…………」
サトウ・タロウの返還に応じたディザベルの言葉は、リュララ王女達にとって3つの意味を持っていた。
それはサトウ・タロウが異世界から来た人間である事。
それはサトウ・タロウをルルが掠め取っていた事。
それはサトウ・タロウがやっと自分達の下に、あるべき場所に返って来るという事。
「ありがとうございます。それでサトウ・タロウとはいつ頃会えますか?」
「……それ、は…………」
『サトウ・タロウは2週間もしない内に無人島での修行を終えて家に帰って来る。だから帰ってきたら、お主達に知らせる』
たったこれだけの言葉が出て来なかった。どれだけ口を動かそうとしても声が出て来なかった。
それなのに───涙が滝の様に出続けていた。
「ルルさん……」
リュララ王女は、ただただ泣き続けるディザベルの姿を見て、少しの間、言葉を失う。
きっと2人は仲が良かったのだろう。それこそ泣くほどに。
だがクシジアスの王女として情に流される訳には行かない……!
今、この人に掛ける言葉は慰めや言い訳、保身でも罵倒でもないのだから。
「───サトウ・タロウさんは、どんな人なのでしょうか?」
リュララ王女が覚悟を決めて話を続けようとした時、アリアステル王女が会話に割って入って来た。
「アリアステル王女、今は───」
ゼクシレンがアリアステル王女を止めようと声を掛ける。
「いいえ、大切な事です」
しかしアリアステル王女はゼクシレンの制止にも動じず、ディザベルに聞き続けた。
「ルルさん、サトウ・タロウさんはどんな人ですか?」
「…………やさしい……つよい……でも子供っぽい……」
ディザベルは、か細い声で言葉を返した。
「ルルさんはサトウ・タロウさんの事が好きなんですか?」
「……うん」
「何処が好きなんですか?」
「優しいところ……私を何度も助けてくれた所……見捨てずに一緒にいてくれる所……!」
「サトウ・タロウさんとルルさんは付き合っていますか?愛し合っていますか?」
「……うん……うん……っ……!」
ディザベルは咽び泣きながらアリアステル王女の質問に答えた。
「……リュララ王女、私は愛し合っている人の仲を引き裂くような真似は断じて許すべきでは無いと思います」
アリアステル王女はリュララ王女達を睨みつける。
その顔は先程までの浮かれていた少女の顔では無かった。
「…………そうですね、私もそう思います。ですからやめました」
先程までの王女の顔つきと打って変わってリュララ王女は歳相応の女の子の様な顔つき戻った。
「ルルさん、先程はごめんなさい。サトウ・タロウさんとお幸せに」
「えっ、よろしいのですか!?」
アリアステル王女が驚きの声を上げる。
「ええ、私も女の子ですから」
リュララ王女は笑って答えた。
「……良かった、良かったですね、ルルさんっ!」
アリアステル王女は、まるで自分の事かの様に喜ぶ。
「……だめ……だめなの!」
皆が皆、祝福ムードだったが当のディザベル本人は違った。
「いつも英雄の様になりたいって、冒険したいって言ってたから!私じゃもうダメなの!夢も未来も奪った私じゃ、もう一緒になんていられない……っ!」
「───本当にそうでしょうか?」
「え……?」
「夢も未来も奪ってしまったとおっしゃいましたが、夢も未来も変化するものです」
アリアステル王女は、諭すように言葉を続ける。
「例えば『好きなあの人とお付き合いたい』という夢を持っていた人がいたとします」
「もしその人の夢通りに意中の方とお付き合いが出来たとしたら、その人は次に『この人と結婚したい』と思うようになるはずです。そうして次は、次の夢は、と夢が絶えず変化して行きますよね?」
「でも叶えられなかったら……!」
「ではサトウ・タロウの場合はどうでしょうか?……恐らく私の予想が正しければ、彼の夢は、ルルさんが聞いたものと少しだけ違っていると思います」
「違ってる?」
「ええ。サトウ・タロウさんの今の夢は───『ルルさんと一緒に冒険がしたい』に変わっている筈です。だって夢を見始めていた頃と違って、今はルルさんがいるんですから」
「あ、あぁ……あああ…………」
そう、だ……そうだった……!あの時も言ってくれていたではないか!私と一緒にいたい、私と一緒に世界を旅したいと……!
「言ってた……そう言ってたぁ……!」
涙がとめどなく流れて来る。嗚咽が止まらない。顔がぐしゃぐしゃになる。
「……それなら、もう大丈夫ですね」
アリアステル王女は、ディザベルに柔らかいタオルを渡す。
ディザベルは泣きながらアリアステル王女からタオルを受け取り、顔をタオルで覆いながら涙を流す。
「……ふ……っ……あ、ありがとう……ありがとう……!」
「私達は『友達』なのですから、当然です」
「あ……あぁ……ああ……!友達、友達だ!私達は……!」
友達と言う言葉が心に響く。
思えば私には友達と言える人はいなかった。
村に居た頃は目が見えなかったのだから当然といえば当然で、目が見えるようになってからは復讐に身を焦がしていたから、そんなものを作る気など、そんな暇など無かった。
キョウとは師弟の関係で今は恋人同士、友達以上の関係になっている。
ならば私の人生で友達と言える人はアリアステル王女だけではないか。
始まりこそアリアステル王女の強引な願いによるものであったし、歳も100歳以上離れている。
しかし、アリアステル王女以上に友達と呼べる人がいるだろうか?
いや、私がアリアステル王女と友達になりたいと心から思っている。
「……さあ、私と一緒に顔を洗いに行きましょう」
アリアステル王女がディザベルの手を優しく握る。
「……ありがとう」
ディザベルはアリアステル王女に手を握られながら立ち上がる。
「どういたしまして」
ディザベルはアリアステル王女と一緒に洗面所に向かった。




