乱れる心
『異世界に来たからには冒険がしたい!英雄や勇者の様にカッコ良く誰かを助けて大活躍したい!』と、よくキョウが言っていた。
初めて冒険者ギルドに行った時も、ガーンデーンのダンジョンに挑戦する時も、キョウは子供の様に目を輝かせて本当に楽しそうにしていた。
……もしリュララ王女の下に、クシジアス王国に召喚されていれば、自由気ままに冒険とはいかないものの国賓級の待遇を受けながら、王女達から期待されながら、この世界を異世界から来た勇者として冒険出来たはずだ。キョウが望んだ通りの冒険が出来たはずだ。
───私が召喚魔法を作らなければ、使わなければ。
私に召喚されたせいでキョウは自分が望むような冒険が出来なくなった。
私が付き纏ったせいで、私を助けるために、私に付き合う為に好きに冒険が出来なくなった。
それどころか冒険者としての夢を捨てる覚悟すらさせてしまった。
私がキョウの夢を潰してしまった。
「サトウ・タロウさんが異世界から召喚された人というのは本当の事なんですか!?」
アリアステル王女は、ディザベルとリュララ王女の顔を交互に見ながら2人に質問すると、2人に代わってヤマダ・ハナコが質問に答えた。
「ここのギルドマスターにも聞いたけど、サトウ・タロウの身体的特徴は私の国の人間の特徴と酷似してるんだよね」
「でもそれだけでは……!?」
「『サトウ・タロウ』って名前、この辺じゃ聞かない名前じゃない?」
「それは……確かに……」
「それに『佐藤太郎』っていうのは私の世界では、ある意味特別な意味を持つ名前の組み合わせで、それが本名なのかは分からないけど、佐藤太郎を名乗っている人間が私の国の人間じゃないなんて事は、まず考えられない。断言してもいい」
「そう、でしたか……」
「後、私の『ヤマダ・ハナコ』って名前も『サトウ・タロウ』と同じ意味の名前の組み合わせだから」
「そうなんですか?」
「そう。だから、この名前を名乗っていれば接触して来ると思ったんだけど……まさか、どっかに行ってるなんて思わなかった」
「……話を戻しますが……ルルさん、サトウ・タロウさんを私達に返還していただけませんか?」
「…………わかった」
ディザベルは絞り出したような声で返事をした。
本当はキョウと離れたくなんて無い、ずっと一緒に居たい。
優しいキョウの事だ、自分を召喚したのが本当はリュララ王女で、私はそこから掠め取っただけだと知っても、きっと気にせず許してくれる。
『ディザベルと会えたから別にいい』とかなんとか言って。
───でも今まで通りの関係には戻れない。
この事を知れば考えてしまう筈だ。
『もしディザベルに召喚されずにクシジアス王国に召喚されていたら?』と───
『あの時、ああしていれば、こうしていれば良かった』と誰もが一度は思った事があるように。
もしリュララ王女の下に召喚されていれば、周囲からの期待を一身に背負って勇者らしい冒険が出来たんじゃないかと、そうなっていれば今頃どうなっていたんだろうと。
人は今よりも、もっと良い状況を望み続ける生き物だ。
もしもの可能性の話だとしても、そんな状況が二度と訪れる事など無いとしても想像してしまうだろう。
より良い未来を、自分が望む自分に都合の良い未来の自分を。
もしかしたら今より状況が悪くなるかもしれない。今の方が良いかもしれない。
それでも一度、そんな未来があったかもしれないと想像してしまえば、その考えは、ふとした拍子に脳裏に過り続けるだろう。
そのふとした拍子は、キョウの場合、私と会う度に、私の顔を見る度に、私の事を考える度に考えが過るようになるはずだ。
そして私も同じ様にキョウと会う度に、キョウの顔を見る度に、キョウの事を考える度に、一生負い目を感じ続けてしまう。
好きな人の夢も未来も私が潰してしまった、と。
別れたくない、別れたくなんて無い、ずっと一緒にいたい……っ!
……でも、もうキョウに合わせる顔が無い……キョウと一緒にいる資格が無い……。
私はいつもそうだ……いつも誰かを不幸にするだけで……それなのに幸せになろうとして……その度に人を不幸にして……!
…………消えよう。
……もう、これ以上……キョウを不幸にしたくないから───……




