虫かごの中の虫
「何だ!?何なんだよ、アイツはッ!?」
ディザベルから無限に発射され続ける白金の剣の数々から、カルシュは背中を見せながら脇目も振らずに逃げていた。
「け、剣が解け……ぎゃああああ!!」
「ま、魔法が!?き、消え───!?」
「攻撃が効かない!?なんなん……あぎゃああああ!!」
背後から絶えず聞こえる、仲間達の悲鳴と絶叫がカルシュの恐怖心を加速させる。
「何で……何で俺がこんな目に!!」
───Sランク冒険者、カルシュ、23歳。
彼の生まれは至って普通で、裕福でも貧乏でもない普通の農家の元に生まれた普通の男だった。
同年代の子供達と遊びながら育ち、歳相応の夢や承認欲求を持って村から王国に上京して来た。
そんな彼だが、普通の人間とは違う異常性、精神構造を持っていた。
───それは『残虐性』
彼には『他者の生殺与奪を握りながら、一方的にいたぶりたい』という暗い欲望があった。
そして彼にはそれを実行できるだけの才能が、力があった。
彼は生まれ持った才能と力で、あっという間に冒険者として最高の実力を持つSランクに上り詰めた。
しかしその裏で、カルシュはダンジョン内での殺人や強盗も当然していたし、故意の裏切りや、騙してモンスターに殺させるなんてのも、国やギルドにバレないように数え切れないほど行っていた。
最初は半年に一度くらいで満たされていたが次第に残虐性と欲望が抑えきれなくなり……。
19歳の時、遂にカルシュは自分の欲望のまま、人を殺す為だけに闇ギルドを作り上げた。
カルシュの作り上げた闇ギルドは、カルシュ自身の力もあり、たった数年で比類なき力を持つ完成された組織になった。
───そんなある日の事だった。
ある2人の冒険者が、自分の闇ギルドがある、このマルテミに、国家予算並みの大金を持ってノコノコとやって来ているという情報をスポンサーからの依頼で手に入れた。
明らかに人生の絶頂にいる人間を絶望の底へ叩き落としてやりたいという欲望もあり、カルシュはスポンサーからの依頼を承諾。
冒険者2人が持っている大金の6割はスポンサーへ、残りの4割は自分達。
そして俺は2人の命を奪う事が出来る。
こんな最高の仕事は滅多に無い。
カルシュは早速、自分達の手勢を名前も知らない2人の冒険者へ仕向けた。
───その時だった。この間違いがカルシュの今後の運命を決めてしまった。
何百と仕向けた自分の手勢、それがたった2人に悉く返り討ちに合ってしまった。
そんな訳が無い、何かの冗談だろ?と部下から報告を聞いた時に俺はそう思った。
だが数日後、ターゲットの冒険者2人は五体満足で、この国に入国し、代わりに送り込んだ部下達は、マルテミの刑務所にぶち込まれた。
カルシュは、そこで初めて、この2人に興味を持った。実際に見てみたい、会ってみたいと思った。
───そんな時、マルテミ王の主催するパーティーに、この2人が参加するとスポンサーから情報を得た。
これは好都合とばかりに、俺は早速パーティーに参加して接触することにした。
「───大丈夫だったかい?」
「…………やーん、あのオオカミのオジサンが怒鳴って来て怖かったよー」
「それは災難だったね」
ナルバスに絡まれている所を都合よく助けて、俺はターゲットの1人に上手く接触出来た。
第一印象は、やけに胸がデカいだけの子供だと思った。
そこらの子供と変わらない、ひ弱な身体。
特別優れているとは思えない、魔力量。
『返り討ちにしたのはコイツじゃない、もう片方の方か』
そう思った、そう決めつけてしまった。
「何なんだよ!お前はァァァ!?」
飛び交う白金の剣から、カルシュは、どうか当たらないようにと祈りながら逃げ続ける。
最初は飛んでくる白金の剣を防御したり迎撃しようとする仲間もいた。
だが、そうしようとした仲間は例外無く全員串刺しにされた。
白金の剣を防ごうとした奴の武器や防具は、剣に触れた瞬間に溶解して串刺しにされた。
防御魔法で防ごうとした奴は、その圧倒的な物量と破壊力の前に防御魔法をぶっ壊されながら串刺しにされた。
物陰に隠れようとした奴は、自ら逃げ場を狭めただけで串刺しにされた。
術者を直接殺そうとした奴は、その攻撃を白金の剣で完全に無効化された上で串刺しにされた。
…………生き残ったのは敵対した瞬間、瞬時に実力差を察して逃げに徹した俺だけだった。
こんなのは戦いにすらなっていない。子供の喧嘩に軍隊を持って来られた様なものだ。
「逃げるだけか?向かって来ないのか?」
「ふざけんな!ふざけんな!ふざけんなァァア!」
カルシュは喚きながら逃げ続ける。
『逃げたい、この女から逃げたい、家に帰りたい!』そう思いながら。
しかし、それが叶えられる程の力をカルシュは持ち合わせていなかった。
「───ふむ。くだらぬ男だったな」
月明りに照らされながら、ディザベルは襲って来たカルシュ達、闇ギルドの残党を殲滅し、ついでにカルシュの記憶を読み終えていた。
「この程度か、Sランクとは」
ディザベルは昆虫標本のように地べたに縫い付けられたカルシュを見ながら、キョウの事を考えていた。
やはりワシが師事しただけあって、キョウの方が、こやつらより何百、何千、何億倍も強い。
これからもっと……もっともっと教えられる事があると言うのに……!ワシを置いて、一体何処に行きおったッ!?
「……まったく」
ディザベルは深く溜息を付きながら振り返る。
「どうじゃった?ワシの実力は?」
ディザベルが振り返った先にはヤマダ・ハナコが居た。
「コイツ等、殺したの?」
「死んではおらぬ、気絶しておるだけじゃ。後で王女にでも言って生きたまま捕まえようと思ってな」
「ふーん」
「それでどうじゃった?」
「何で急に見せる気になったの?」
「それは勿論、警告じゃよ」
「警告」
「ワシをどうにかしようと思っているのなら、それ相応の実力と覚悟を持って来い。この男達のようになりたくなければな」
ディザベルは冷たく言い放った。
「……それは骨が折れそう」
ヤマダ・ハナコはディザベルを真横を歩いて通り過ぎる。
「それじゃ、私はこっちだから」
「……なに?」
「お泊り会をやるのに宿からリュララ達の着替えを持って来ないといけないから。じゃあね」
ヤマダ・ハナコは、あくまでもマイペースに、ディザベルの前から姿を消した。
「……何を考えているのか、それとも何も考えていないのか……」
ディザベルも襲って来た男共を放っておいて着替えを取りに自宅に戻った。




