掃除
「死ねェェェ───ッ!グバァァアア!?」
「何だこのガキ───ッ!?ハバァァアア!?」
背後から襲い掛かって来る追加の賊共をディザベルは振り返りもせず、土属性の魔法を使い、生み出した土の拳で敵を打ち倒してゆく。
「いや!もっと他に、こう……あるじゃろ!?ドラゴンを倒せじゃとか!ダンジョンを攻略してみせろじゃとか!」
ディザベルは襲われている事など気にも留めず、アリアステル王女を問い詰めていた。
「お友達は……ダメ……ですか?」
「い、いや……友達になるくらい別に構わぬが……それが願いの全てではあるまい!?」
「すみません……それ以外は……」
「な、なんと…………」
ディザベルはアリアステル王女の子供の様な願いに、頭を強く打ち付けられた様にショックを受けていた。
わ……わざわざパーティーの数日前に急に招待を寄こして来るものだから、どんな無理難題を吹っかけられるのかと思ったが……まさか、この様な事で呼ばれるとは…………。
「2人共、話し合いは終わった?」
「何じゃ!?まだ話している最中…………なんじゃ、貴様か」
ディザベルは声を掛けて来た方向を振り返ると、黒髪の女、ヤマダ・ハナコが自身の身の丈以上もある長い剣で賊と切り結びながら話し掛けて来ていた。
「器用な奴じゃな。そんな長い剣を振り回しながら他の者に危害を加えずに戦うとは」
「貴女もコイツ等を倒すの手伝って欲しいんだけど?」
「嫌じゃ、ワシは王女を守るので忙しい。ワシに頼らず早く雑魚共を倒せ」
「こっちも雑魚が多いか…………ら!」
ヤマダ・ハナコは頼りない味方へ悪態をつきながら賊へ剣を振るう。
「えぇ~~~?ここには国内屈指の冒険者が、いーっぱいいるのに~?うっそ~、た・よ・り・な~~~い」
ディザベルは何処かにいる馬鹿犬にも聞こえるように大きな声で言った。
「……クッソガキがァァァ!!」
何処か遠くから犬の遠吠えが聞こえる。
いや、犬以外からもワシの言葉に焚きつけられた冒険者共の熱気、怒りが膨れ上がるのを感じる。
「みんな、ガンバレー♪」
ディザベルは自身にちゃっかり入れていたアイテムボックスから、ベイクドチーズケーキを2つ取り出す。
「アリアステル王女も一緒にどうじゃ?」
「えっ?」
ワシは足元から魔力を放ち、貴族達が好んで使いそうな細工の入った木製のテーブルを魔法で作り、そこにベイクドチーズケーキを2つ置く。
「あの……良いんですか?」
「うん?」
ワシは先程作ったテーブルに合いそうな木製の椅子を二脚作りながら、怪訝そうな顔でいるアリアステル王女を見る。
「ルルさん達の言葉で敵まで躍起になっていますけど……」
アリアステル王女が襲って来た賊達を指差してワシに指摘する。
「ふむ……確かにワシとヤマダ・ハナコの言葉に賊共も血気盛んになっておるが……まぁ、誤差みたいなものじゃろ。ワシ達は気にせず、優雅にお茶でもして待っておればよい」
「は、はぁ……」
「そんなに気になるならば手でも振って応援してみたらどうじゃ?王女を守る為、皆、頑張るじゃろう」
「そ、そうなんですか?」
「うむ」
「じゃ、じゃあ……皆さん頑張ってください!」
アリアステル王女は戸惑いながらもワシに言われた通り、手を振って今もなお戦い続けている味方を鼓舞する。
「それ、敵からしたら火に油だと思うんだけど……フッ!」
横からヤマダ・ハナコが敵を斬り裂きながら指摘して来る。
「えぇ!?そうなんですか!?」
「まあ、それも誤差───」
ディザベルが話している最中に、ディザベルと王女目掛けて極細の針が何十本、何百本と飛んで来た。
ディザベルは飛んで来た針を椅子から立ち上がる事無く、分厚い土の壁を出現させて防ぎ切る。
「おい!こっちに飛んで来ておるぞ!貴様なら撃ち落とせたじゃろう!何をしておる!?」
「あー、そう?気付かなかった」
ヤマダ・ハナコは剣を鞘に納刀しながら、すっとぼけた顔でディザベルの方へ近づいて来た。
「おい、敵はまだおるぞ」
「疲れた。私にも椅子とケーキ出して」
「不敬じゃぞ!王族を守らずのんびり休憩など!」
「それはお互い様」
「───ふんっ!」
なんて女じゃ!まさか戦いの手を止めてこっちに来るとは!
折角こちらが、いつもは使わぬ魔法ばかり見せてワシの戦力を誤認させ、尚且つ奴の力を見ようとしていたというのに!
これでは奴の手の内をこれ以上見る事は出来ない……かと言ってここで追い払って戦わせようにも手の内を探ろうとしている事が露呈してしまうじゃろうし……クッ!
ワシは観念してヤマダ・ハナコの為に椅子を作り、ケーキを用意する。
「飲み物は?」
ヤマダ・ハナコは椅子に座りながらディザベルに飲み物を要求する。
「図々しい女じゃな!」
ワシはアイテムボックスの中から飲み物を探すと、何時ぞやにキョウが作ったコーラが2リットル程、残っていた。
ワシはコーラが入った容器と透明なグラス3つをアイテムボックスから取り出してグラスにコーラを注ぐ。
「……へぇ、コーラなんて持ってるんだ」
ヤマダ・ハナコは、一目見ただけで何の飲み物か言い当てる。
「こーら?」
アリアステル王女は見た事も聞いた事も無いグラスに注がれた飲み物を不思議そうに見つめている。
……この反応、コーラなど存在しないこの世界では、アリアステル王女の反応こそが普通であり、ヤマダ・ハナコの反応の方がおかしい。
…………やはり、こやつは異世界の事をワシ以上に知っている。
この騒動に乗じて始末しても良かったが、裏で手を引いている黒幕がいる可能性がある以上、それも出来ん。
やはりコイツは、一対一で叩きのめした後に記憶を見るしかない、か……。
「あ、あの……飲んでもいいですか?」
アリアステル王女は、自分の目の前でシュワシュワと音を立てている未知の飲み物を前にソワソワしながらディザベルに許可を求めて来る。
「一国の王女がワシなどに遠慮せず飲むがよい。それとも毒が入って無いか不安か?」
ワシはアリアステル王女の前でグラスに入ったコーラをちびっとだけ飲む。
「~~~ッ!」
ディザベルはコーラの刺激に目を瞑って耐える。
「……飲めないのに何で出したの?」
「うるさい!ほれ、毒など入っておらぬから安心して飲むとよい」
「は、はい……!」
アリアステル王女は恐る恐るコーラを飲むとディザベルと同じ反応で炭酸の刺激に悶えている。
やはり王女と言えど、まだ子供じゃな。ふむ、良かった良かった。
ディザベルは自分と同じ子供舌仲間を見つけ安心する。これが普通の反応じゃよな、と。
「す、凄いです……これ!」
「そうじゃろう、そうじゃろう。言わば大人の味じゃな」
「───じゃあ私も」
ヤマダ・ハナコは、ワシとアリアステル王女が飲んだのを確認してからコーラを飲み始める。
「……うん、久々」
全く、王女を毒見に使うとは……したたかな女じゃ。
「それで、向こうはどうするの?このまま放置?」
ヤマダ・ハナコはベイクドチーズケーキを食べながらディザベルに聞いて来る。
ヤマダ・ハナコが言う、向こうとは今も戦っている賊と冒険者達の事だ。
「ふん、この程度の相手に負ける様なら、ここで死んでおいた方が良い」
「それは駄目です!無為に命を散らせるようなことは!」
アリアステル王女は立ち上がり、ディザベルの言葉に反発する。
「じゃが、これを手引きした者がいる以上、これで終わりでは無いぞ?そうなれば戦力外の有象無象は死んでおいた方が良い。ハッキリ言って邪魔になるだけ───」
「マルテミ第一王女、アリアステルが貴方達2人に命じます。直ちに賊を掃討しなさい」
アリアステル王女は毅然とした態度でディザベルとヤマダ・ハナコに敵の掃討を命じる。
───フフッ、子供でも王女か。
「畏まりました。王女に仇なす者共を殲滅してご覧に入れましょう」
ディザベルは椅子から離れ、アリアステル王女の前に片膝をついて敬意を示すと、その姿を見ていたヤマダ・ハナコも王女の前に片膝をつく。
「行きなさい」
「「はい」」
アリアステル王女の号令と共にディザベルとヤマダ・ハナコの2人は立ち上がって戦いに加勢しに行くと、今まで苦戦していたのが嘘のように状況は好転する。
こうして突如パーティーに乱入して来た賊共が全て掃討されるまで、そう時間は掛からなかった。




