馬鹿犬
「カルシュ、テメェ……!?」
「止めなよナリバス、子供相手に。皆見てる」
カルシュと呼ばれた金髪の青年は、獣人の男、ナルバスに詰め寄られても笑顔を崩さず接する。
「…………チッ、覚えてろクソガキ」
単細胞かと思っていたこの獣人の男、ナルバスは舌打ちしながらも引き下がって行った。
煽られたせいで理性を失っただけで国王主催のパーティーで騒ぎを起こすつもりは無いらしい。
ふん、喧嘩腰で来ておいてその気が無かったとは、全く想定外。いや獣に知性や気品を求めるだけ無駄か。
じゃがワシも犬風情相手に大人げない事をした。少し言われた程度で同じ土俵に乗るなどと……反省せねば。
「大丈夫だったかい?」
ナルバスが会場のいずこかに消え去った後、カルシュはナルバスに詰め寄られていたディザベルを心配してくれる。
「…………やーん、あのオオカミのオジサンが怒鳴って来て怖かったよー」
「それは災難だったね」
この男にはワシが犬に吠えられていた可哀想な子供だと思われているようだ。
正直に言えば面倒になりそうじゃし、ここは、この男の想像通りに乗っておくかのぅ。
「ナルバスは最近の君達2人の活躍を聞いて気が立っていてね。それが妬ましいという感情から来る物なのかはさておき。俺も注意はしていたんだけど、まさかナルバスがあんな直接的に来るとは思わなくて、止めに入るのが遅くなってしまった。本当にごめんね」
まあ有名になり過ぎた弊害と言った所か。
……しかし、この男。そこらにおる貴族のように身なりや立ち振る舞いもちゃんとしておるし、言葉遣いもまとも。あの犬とは大違いじゃな。
「おにーさんは貴族の人?」
「そういえば自己紹介がまだだったね。俺はカルシュ。Sランクの冒険者で貴族では無いよ」
「へー」
「さっき君に怒鳴って来てた男はナルバス。彼もSランクの冒険者で、大多数の獣人達と同じように実力の有無を第一に考えている男なんだ」
「ふーん」
やはり獣か。
「私はルル。おにーさんと同じSランク冒険者。だけど最近この国に来たばっかなの」
「そうだね、君の事は良く知っているよ。また何かあったら言ってね、力になるから」
「うん、ありがとー」
カルシュはディザベルに別れを告げて何処かへ去って行った。
……いや、よく見れば居た。王の前に出来た列に並んでおる。あれは挨拶待ちの列か。
ふむ、頃合いを見てワシも挨拶しに行かねばな。
「貴女がサトウ・タロウ?」
「うん?」
不意に黒髪黒目、ショートの少女に声を掛けられた。なんじゃ二度目じゃぞ、この下りは。
「違うよー」
「やっぱり。じゃあ貴女がルル」
「そうだよー、私はルル。貴女は?」
「私は……そうだな『ヤマダ・ハナコ』って名乗っておこうかな」
あからさますぎる、なんじゃこの女?分かりやすく堂々と偽名だと言わんばかりの言葉遣いは?
……後でこやつの事を調べておくか。
「よろしくね、ヤマダ・ハナコさん」
ワシはヤマダ・ハナコの前に右手を差し出すと彼女も右手を差し出し、お互いに握手を交わす。
「よろしく」
通常、数秒で終わる握手だが、この女、一向に手を離そうとしない。
「あの、どうしたの?」
「あの馬鹿犬、誰にでも噛みついて来て本当に馬鹿。実力差も身体の大きさでしか判別出来て無さそう。いや、じゃなきゃ貴女に喧嘩を売ろうだなんて思わないか」
「…………」
「でも運だけは良いみたい。あの男が止めに入られなきゃ殺されてたし」
この女……あの二人の男共は違う。
「実際に会ってみて、こうして触れ合ってみて良く分かった。貴女がサトウ・タロウ君を異世界に召喚した張本人でしょ」
この女───ッ!?
ディザベルは咄嗟に手を離してしまう。
しかし、この咄嗟の行動は間違い。ヤマダ・ハナコの言葉を正解だと言っている様な物だ。
「ふぅん」
「くっ……!」
ぬかった!よもや、あんな台詞が出て来るとは思わなかった!
「後で別の場所で話そう」
「…………分かった」
ワシをここまで動揺させた女、ヤマダ・ハナコはいずこかへ消えていった。
……ふん、こやつが何処までワシ達の事を知っているか、他に知っている者がいるかなど関係無い。
ワシ達の前に立ちはだかるというのなら何人だろうと殺す!




