パーティー開催
───時刻は17時45分、パーティー開催時刻の15分前。
このパーティーの招待状を貰った地位の高い上流貴族、そして国中のSランク冒険者達が王城の中にあるパーティー会場に数多く集まっていた。
会場に集まった参加者達は他の者とのパイプを獲得する為に挨拶回りやら機嫌取りをしている。まだ開始前だというのにご苦労な事だ。
「失礼。貴女が『次元超越の白金』のルルさんでしょうか?」
『次元超越の白金』とは───
『やぁぁぁっぱ折角なら!カッッッチョイ~~~クラン名が良いよな~~~!』
という子供の様な浅い理由で決まったキョウとディザベルのクランの名前なのである。
そら来た。またどこぞの上流貴族様が媚びを売りにワシに話し掛けて来よった。
ワシは笑顔の仮面を被りながら本日何人目かの上流貴族様を適当にあしらう。
……ふん、この男の様にワシ達の力と名声が目当てならまだいいが、先程のあの男は酷かった。
名はなんだったか……確か『ヤロソン』とか言うデブの上流貴族だったか?アレは最悪だった。
話している最中も常にワシの身体を、特に胸を舐め回すように見て……思わず殺しそうになったわ。
じゃが何とかギリギリの所で踏み止まる事が出来た。こんな所で問題を起こしたらキョウに迷惑を掛けるからな。
キョウは冒険者としてこの世界を満喫したいようじゃからな。ワシの癇癪でキョウの夢を潰す訳にも行くまいて。
ディザベルは貴族共の相手で溜まったストレスをシャンパングラスに注がれたリンゴジュースを飲む事で気持ちをリフレッシュする。
「ああ、美味しい……」
流石は王族主催のパーティー、このジュースにしても、テーブルに並べられた料理にしても、どれを取っても全て一級品じゃな。
さて、ケーキは何処にあるかのぅ?折角来たんじゃから全種類制覇してイライラを忘れるとするか。
ディザベルがテーブルに並べられた料理達の中から目当てのケーキを目で探していた、その時───
パーティー開催時刻の18時を知らせる鐘の音が会場内に鳴り響いた。
先程までの喧騒が嘘のように収まり、会場内の参加者全員が一同に同じ方向を向き、姿勢を正す。
参加者達の視線の先には大きな扉があり、その扉の中から背丈が高く恰幅の良い褐色肌の金髪碧眼の壮年の男が現れた。
彼こそが、この国の王であり、今回のパーティーを主催した人物……確か『ユゥル・バケンス・マルテミ』だったか?
「今宵は我が求めに良く集まってくれた───」
会場に現れたユゥル国王は、開会の辞を述べ始める。
ディザベルはユゥル国王の言葉を適当に聞き、開会の辞が終わると他の参加者達と一緒に拍手をする。
───こうしてディザベルにとって憂鬱なパーティーが幕を開けた。
「テメーが、ルルだな」
「んー?」
フォンダンショコラを味わっていたディザベルに1人の男が話しかけて来た。
男は小麦色に日焼けした青髪青眼の筋肉質な男で、ドレスコードをその身に纏っていても体格の良さが窺い知れる。
更に特徴的なのは頭部と腰から生えたオオカミの耳と尻尾。所謂オオカミの獣人だろう。
「そうだけど貴方は?」
ワシに犬の知り合いはいないはずだが?
「サトウ・タロウは何処だ!?」
ふむ、キョウの知り合いだったか。あやつめ、何処で犬と知り合いになったんじゃ?
「タロウなら今日のパーティーは欠席。来てないよ」
「チッ!」
オオカミの獣人は自分の苛立ちを隠す事をせずに感情をぶつけて来る。
誰もが笑顔の仮面を被って腹を探り合い、相手の機嫌を取り合っている、このパーティー会場には異物とも言える。
「貴方はタロウの知り合い?」
「そんなんじゃねぇよ!生意気な新人のツラを見に来ただけだ!」
「ふーん」
ディザベルは男の挑発的な言葉など意にも介さず、マイペースに食べていたケーキをテーブルに置き、ジュースを口に含む。
「ったく、折角こんなパーティーに参加してまで見に来たって言うのに、噂通りただのガキじゃねぇか」
「うんうん、そうだねー」
ふん、人を見かけだけで判断するとは馬鹿な奴。
「この分じゃあ、タロウって奴も大したことなさそうだな。チッ、来ただけ時間の無駄か」
「…………犬畜生が」
「あ?」
小さく、小さく呟いたディザベルの言葉を獣の聴覚を持つこの獣人の男が聞き逃す事は無かった。
「おい、もう一回言ってみろ!」
「聞こえなかったか?知性も品性も欠片も無い獣だと言ったんだ」
ディザベルはもう一度、目の前の獣人の男にしか聞き取れないような小さな声で言った。
先程の独り言は不覚にも口から漏れ出てしまった言葉などでは無く、目の前の獣人の男だけに聞こえるように言っただけ。この男は知らず知らずの内にディザベルの逆鱗に触れていた。
「おい、表に出ろ!」
今にも殴りかかりそうな程に怒気を含んだ声で男は吐き捨てるように言った。
「そうだな、こうキャンキャン吠えられては他の人間に迷惑じゃからな」
売り言葉に買い言葉。この男とディザベルの戦いは免れないと思われたが───
「はい、そこまで」
金髪青眼で白肌の男が獣人の男を止めるように二人の間に入って来た。




