ご対面
「───アイツか?」
白金のインゴットと入れ替わる形でホテルから瞬間移動して来たディザベル。
彼女はティーアに強烈な踵落としを決めたというのに息一つ乱すことなくキョウに尋ねる、アイツなのかと。
「作った張本人だってさ」
「ほぅ」
俺の答えを聞いて、ディザベルは自分の周囲に6本の白金の剣を展開しながらティーアが落下して行った穴に飛び込んでいった。
俺もディザベルの後を追うように穴に飛び込む。
「「あ」」
落下している最中、先に降りたはずのディザベルと目が遭った瞬間、俺は後悔した。
ディザベルは何らかの魔法を使いゆっくりと降りていたのに対し、俺は小細工無しの自由落下。
「オアアアアアアアアア!!」
4階から地下まで真っ逆さまなんて今まで生きて来た人生の中で初めての経験だ。
俺の鋼の身体が落下の衝撃に耐えてくれる事を祈りつつ、悲鳴を上げながらディザベルより早く地下のオークション会場まで落ちていった。
「な、何だ!?何が起こった!?何だ、あのガキは!?」
ディザベルによって4階から地下まで叩き落とされたティーアは瓦礫の山の中から瓦礫を押しのけて起き上がった。
その直後、何かが落ちて来た音と衝撃が地下の空間に響き渡る。
ティーアは音が鳴った方向へ振り向くと、そこには4階にいたはずの男、サトウ・タロウがいた。
「お、お前!?」
タロウは土煙の中からゆっくりと起き上がった。
「よ、よう……さっきぶり!」
起き上がったタロウはニヒルな笑いを浮かべていた。
「お前!私にこんな事をして!生きていけると思うなよ、この国で!」
「ふん、それはこっちの台詞じゃな、貴様の方こそ、このまま生きていけると思うな」
タロウの横にゆっくりとティーアを此処まで突き落とした張本人である女が降りて来た。
さっきは一瞬の事で分からなかったが、あの女は知っている。サトウ・タロウと共にダンジョンを踏破した女だ。
「しっかし、どっかで見たような空間だこと」
「全くじゃな、ジカスといいコイツといいやる事考える事、趣味性癖は皆一緒なのか?」
「ジカスだと?……はは、ははははは!!そういう事か!下らない正義感か何なのかは知らないが、調子に乗り過ぎたな、お前ら!!」
ティーアは怒気を含んだ声と共に魔力が膨れ上がり、姿形が文字通り変わっていく。
頭から2本の漆黒の角が、背中からは蝙蝠のような漆黒の翼が、尾てい骨の辺りから細長い漆黒の尻尾が生えた。
「お、おおお!?アレって!?」
あの姿は間違いない!ティーアの正体は人間ではなく、知名度の高いサキュバスの男性版、インキュバスだった。
「ふん、何が出るかと思えば……蝙蝠風情が」
「お前らは調子に乗り過ぎた!俺に歯向かうべきでは無かった!」
ティーアは懐から赤黒い隷属の首枷を2つ取り出し、タロウとルルにわざとらしく見せつける。
「これはただの魔封じではない!これはこうやって使う!」
ティーアは手に持っていた隷属の首枷を発動し、タロウとルルの首元へ首枷を直接転移させて装着させる。
「ははは!!もう終わりだ!その首枷は───!」
「あ、もう分かってるからそれ」
タロウはあろうことか決して外す事が出来ないはずの首枷を手で引きちぎった。
「んなっ!?」
驚くのはまだ早い。
タロウの冒険者パーティーのルルに取り付いたはずの首枷は、ルルの首元から急に生えて来た大量の小さな白金の剣によって斬り裂かれ破壊されてしまった。
「なんだって───!?」
「クヒッ!クヒヒヒヒヒ!!そんな物がワシに通用すると本気で思っていたのかぁ?」
ディザベルは呆気に取られているティーアの顔を見て、思いっきり嘲笑う。
そんな姿を横で見ていたキョウは口には出さないがこう思っていた。
(ディザベルの奴、相当根に持ってたんだな……首枷対策用に全く新しい防御用の魔法を作るくらいに)
「さあ、どうする?もしやアレで万策尽きたか?」
「…………ははは……いやまさか破壊されるとは思わなかった。……いや、あのダンジョンを踏破した程の実力者だ、これくらいは当然か?……だがな!!」
ティーアの魔力が急速に急激に膨れ上がっていく!
「こ、これは!?」
ティーアの魔力は、あっという間にダンジョンで見たディザベルの魔力量を超してしまった。
「…………まるで蚊じゃな」
ディザベルは舌打ちしながら全て理解したと言わんばかりに悪態をつく。
「成程、そういう事ね」
キョウにはこの状況、全く何も分からないがカッコ悪いので知ったかぶりをする事にした。
「奴の膨れ上がった魔力、アレは奴自身の物では無い。奴は自分で作った首枷を通して、首枷の着用者とその近くにいる者から魔力と生命力を吸い上げ自分の力にしている」
キョウをチラっと横目で見たディザベルが状況を分かりやすく説明してくれた。
「えぇ!?そんな事出来るの!?」
し、しまった~!知ったかぶりしてるのに、その事忘れて純粋に驚いてしまった。
「どんな細工をしているのかは知らんがな」
「首枷は俺の力を増幅する為の手段に過ぎない!」
ティーアは他者から吸収した魔力を使って地下のオークション会場を埋め尽くさんばかりに分身した。
「あ~~~あ」
その圧倒的な戦力差を見てタロウは間の抜けた声を上げる。
「ふん、後悔してももう遅い!この圧倒的な力で貴様等をぶちのめしてやる!!」
「後悔するのはお前だ」
タロウがティーアを指差して指摘して来た。
「何?」
「可愛そうなんで先に教えといてやる。それは悪手だってな」
「なにを───」
「クヒヒヒヒ!!」
馬鹿みたいに分身して数を増やしたティーアに向かって無数の白金の剣による制圧射撃がディザベルの笑い声と共に一斉に襲い掛かる。
「ウワギャアアアアアアアア!!?」
「馬鹿な奴、ルル相手に数で対抗しようだなんて」




