やりたいこと、やりたかったこと
スライムの性教育はキョウに任せて、街へ服を買いに行ったディザベルとディスティアの2人。
2人は衣料品店に入り、気になった物を手に取りながら『これが似合うんじゃないか?』『こっちの方がキョウの好みなんじゃないか?』と、ああでもない、こうでもないと、楽しそうに服を取っ替え引っ替えしながら、試着室で着替えようとした矢先、突然ディスティアが泣き出してしまった。
「お姉ちゃん!?」
ディザベルは、持っていた服を試着室に置いて、突然泣いてしまった姉を心配する。
「ごめん……2人でこうやって服を選んだりする……の夢だったから……」
『ディザベルと一緒に服を選ぶ』
普通の人間からしたら簡単に叶えられそうな夢が、この姉妹にとっては、奇跡でも起きない限り、叶える事が出来ない夢だった。
「お姉ちゃん……」
生まれながらにして盲目だった妹。
その妹に自分の眼を与えて光を与えるも、死んでしまった姉。
その2人が今、こうして仲の良い姉妹の様に買い物を楽しむ……この状況は、この光景は、ディスティアが幼い頃から望んでいたものだった。
「こんな事で、一々泣いてたらキリがないよ?」
ディザベルは、ハンカチを取り出してディスティアの涙を拭う。
「今日は、お姉ちゃんともっと色んな所を見たいし、色々寄り道もしたいし……そもそも今日でお別れじゃないんだよ?これからも私達、ずっと一緒……なんだよ……?」
話の途中で感情が昂ぶり、涙が出る。
ハンカチを持つ手は震え、言葉に詰まりそうになる。
けれども笑顔は崩れなかった。
だって嬉しいから……!
これからは私の隣には、お姉ちゃんがいる。
同じ物事を経験して、怒ったり笑ったり泣いたりしながら一緒にいられる事が、同じ時を生きられるのが、どうしようもなく嬉しかったから……!だから……!
「……そうだね。私達、これからず~っと一緒に生活していくんだもん。こんな普通の事で、一々感動して泣いてる場合じゃないよねっ!」
いつもの明るい調子を取り戻したディスティアは、笑いながら自分のハンカチを使ってディザベルの涙を拭く。
「さあっ!洋服をいっぱい見て!いっぱい買って!アイスを食べたりしながら、色んな所を見に行こう!?」
ディスティアは、ディザベルの両手を握りながら笑いかける。
「───うんっ!」
ディスティアの言葉に、ディザベルは笑顔で答えた。
───ああ、この感じ……久々だ。
子供の頃、お姉ちゃんは、いつもこうやって私を引っ張っていってくれた。
遊びに行く時も、遊んでいる時も、普通に生活している時もだ。
私は、お姉ちゃんのお陰で目が見えなくて日常生活で困る事は無かった。
苦労なんて無かった、寧ろ楽しかった、安心していた。
そのお姉ちゃんが、今、こうやって私の手を、私をまた引っ張ってくれる……!
こんなに、こんなに嬉しい事は無い!……でも───……。
「ルルが何を考えてるか分かるよ」
「え!?」
ディスティアは、ディザベルが何かを考え込んで暗い顔をしているのを見逃さなかった。
「アリアステルちゃんの事でしょ?」
「うっ……」
「もっと言うならアリアステルのお母さんの事」
図星だ。
お姉ちゃんの言う通り、私はアリアステルの事を考えていた。
後日、アリアステルにも伝えなければならない事だが、お姉ちゃんを蘇らせた、あの指輪……『反魂の指輪』は、もう使えなかった。
つまり誰も生き返らせることは出来ない……アリアステルを産み、亡くなったアリアステルの母を蘇らせることは、もう出来ない…………。
お姉ちゃんが生き返る瞬間を、アリアステルは見ていた……。
ならば当然、次に考える事、思う事、熱望する事は、母の蘇生だろう。
でも……それは出来ない。
母からの愛情を受ける事が出来なかったアリアステルが、喉から手が出るほど欲して止まない母親は、もう……蘇らせることは出来ないのだ……。
「私達ばかりが幸せになって…………なんでアリアステルが……こんな…………」
誰かが幸福を享受すれば、その代わりに他の誰かが不幸になる。
世界は、そういう風に出来ている。
……でも、こんなのは……酷過ぎる……アリアステルが一体何をしたというのだ。
「その事なんだけどね?私に良い考えあるんだ」
「───ええっ!?」
暗い顔をしていた私は、お姉ちゃんの発言に衝撃を受ける。
「勿論、ルルにも協力してもらうよ~?」
「う、うん!私に出来る事なら何でもする!!それでアリアステルが報われるのなら!」
「よーし!じゃあ、作戦は後で家に帰ってから話すとして……今日は目一杯遊んじゃおっか!?」
「えー!?教えてくれないの!?」
「ダメダメっ!この計画は誰にも話せない、超トップシークレットだからね!」
「き、気になるよ……」
「家に帰ってからの、お楽しみー♪」
秘密の計画の詳細を聞けず、悶々としていたディザベル。
だがディスティアと買い物を楽しんでいる内に、夢中になり過ぎて悶々とした気分は何処かへ吹き飛んでいた。




