気持ち良かったな、アレ
「───おい」
「おっ!?お……お帰り、2人とも」
100年振りに蘇った姉、ディスティアとの遊びを満喫した、その日の夜。
自宅に帰って来たディザベルが見たもの、それは───
「へ、へへへ……よ、よう。その様子じゃ、楽しめたみたいだな」
テーブルの上に乗った豪勢な手料理の数々と、引きつった笑顔でディザベルとディスティアを迎えるキョウ。
「なぁ~~~あ、もう一回やろうぜ~?」
口調も声色も太々しい態度も変わらずで、キョウの背中から抱き付き、その大きな両胸をキョウの肩に乗せながら低い声で子供の様に駄々をこねている元スライム、クリアの姿だった。
「なんだ、これは?」
ディザベルは、そこらの若いカップルの様にキョウに絡み付くクリアの代わりっぷりに対し、極めて冷静に、何がどうしてこうなったのか、キョウに説明を求める。凄まじい殺気と桜色の魔力を放ちながら。
「何をした?」
「い、いや~……あ、あのですね!」
キョウは、ディザベルの圧に押されながら、何故こうなってしまったのか、状況の説明もとい弁明を始める。
「コイツは今まで食欲と知識欲だけで生きてたと思うんですよ。そ、そこにですね、人間になった事で人間の三大欲求の内の1つである性欲が割り込んできたらどうなるかって言うと……まあ、ドハマりするんじゃないかと……」
「この結果は必然だったと?」
「え、ええ……まあ……はい……」
誰が見ても不機嫌なままのディザベルとバツが悪そうにしているキョウ。
普通の人間なら修羅場だと一目で分かり、これ以上、事を荒立てるような事はせず、そもそも関わり合いになりたくないと思う筈だ。
だが、最近人間になったばかりで魔物特有の思考回路を持ったままの元スライム女のクリアには関係の無い話だ。
「な~あ、コイツらが帰って来たんだ。早く晩御飯食べて、さっきの続きをするぞ」
そう、このスライムは空気が読めないのである。
「それは許可出来ぬ。明日は朝早くからアリアステル達、王族との会議がある。夜更かしして寝坊されては困る」
「……なら仕方ない。明日のそれが終わってからでいいか」
ディザベルの言葉に納得したクリアは料理の置かれた席に座った。
「早く食べようぜー」
クリアは、ナイフとフォークを両手に持って、絵に描いた子供の様に催促をする。
「お前……欲望に忠実過ぎるだろ……」
「俺からすれば、自分の欲望を抑圧して動く人間の方が不思議だけどな」
「それが人間なんだよ」
自由過ぎるクリアの姿にキョウは呆れながら……チラッとディザベル達を見る。
「あー、私もお腹空いちゃったなー!今日は、いっぱい歩き回ったしー!」
キョウの助け舟を求める視線に気付いたディスティアが、わざわざ声を上げながら椅子に座った。
「…………」
ディスティアが椅子に座ったのを見て、ディザベルは、言葉を一言も発さずに荒れ狂う桜色の魔力を収めながら椅子に座った。
「は、ははは…………」
き、気まずい……。
ディザベルの荒れ狂う魔力は収まったが殺気は収まっておらず、殺気駄々洩れで食事を口に運ぶディザベル。
「美味い!美味い!これも美味い!」
そんなディザベルの事など一切気にせずに食事をするクリア。
「あ、これ美味しい!これもキョウくんが作ったの?」
「え、ええ……まあ……」
「美味し~~~っ!」
最初こそ少し気まずそうにしていたディスティアだったが、100年振りの食事、それも美味しい物となれば夢中になってしまうというもの。
ディスティアは、隣に座っている不機嫌そうなディザベルの事など忘れて、料理を夢中で食べていた。
「は、ははは…………」
キョウも苦笑いしながら食事を口に運ぶ。
しかし、この地獄の空気の中で食事の味など、到底、感じられるものでは無かった。
「いやー、それにしても気持ち良かったな、アレ」
「ブッ!!」
とんでもない事を口走ってくれたクリアのせいでキョウは噴き出してしまった。




