繋がる心と身体
性欲に流されそうになりながらも、なんとかディスティアの身体を洗い終わった俺は、ディスティアが一緒にお風呂に入りたいと言うので、そのまま一緒に風呂に入った。
そこで俺は、ディスティアの話す過去の思い出話、ディザベルが話の中心の、平和だった頃の生まれ育った村での思い出を聞いていた。
ディザベルの趣味は、好きなものは、嫌いなものは……と、ディスティアは、ディザベルの事を明るく、楽しそうに話していた。
ディスティアの語る、幼少期のディザベルの話は、俺としては凄く興味が合ったし、聞いていて凄く面白かった。
……だけど俺は、そんな話を聞きながら思うところがあった。
ディスティアは、ディザベルの話を楽しそうにする……けれどそれは───
「キョウくん、入るよ」
「ん、ああ……」
風呂から上がった俺の部屋に可愛らしいパジャマ姿のディスティアが入って来た。
「なんか、緊張しちゃうね~……」
ディスティアは、恥ずかしそうに、照れ臭そうにしながらベッドに座る俺の横に座った。
俺は、そんな彼女の手を優しく握って言った。
「無理、してないか?」
「無理?」
「ディザベルがそうしているからって無理に性行為まですることは無いと思うんだ。ディスティアはディスティアらしく、一つずつ、ゆっくりと段階を踏めばいいと俺は思うんだ」
俺が風呂でディスティアと話していて感じた違和感───
それはディスティアがディザベルの事ばかり話をして、自分の事は多く語らなかった事だ。
……いや、話す事が出来なかったのだろう。
だってディスティアには『自分の思い出』が無いから。
ディスティアは、遠い昔に、それも100年以上前に死んでいた。
だが、その心は、精神は、ディザベルに託した自分の魔眼の中で、ディザベルと同じものを、同じ景色を見ながら生き続けていた。
そうして、ディザベルと一緒に俺を見続けた結果、ディスティアは俺の事を好きになった。それは分かった。
だけどそれは、人がアニメや映画を見てキャラクターに感情移入して好きになるのと変わらないと、俺は思った。
更に言うなら、ディスティアは幼少期の短い時間しか生きていない。
自分の身体で、自分の意志で起こした行動による結果を、それまでの過程を経験していないんだ。
本当にただ見ていただけだ。
ディザベルと同じ景色を、同じ場所から、ずっと。
酷い言い方をするなら、ディスティアは俺の世界に多くいる『動画やネットで見ただけの知識で知った気になっている人間』と大差無い。
仕方ないとはいえ、そんな状態で妹がそうしているからって無理に性行為まで行って欲しくはない。
「ディスティアは見てきただけで、まだ何も経験してないんだから……」
俺は、優しく諭すようにディスティアに言った。
「……優しいね、キョウくんは……でも大丈夫だよ」
ディスティアの白銀の瞳が俺を見つめる。
「私の、この気持ちは……この想いは……私だけのものだよ」
気遣ったつもりでいた俺の考えが邪推でしかなかったようだ。
「そうか……そうだよな、ごめん」
「別にいいよ」
ディスティアは笑いながら俺を許してくれた。
「……でもね、お願いがあるの」
「ん?」
「2人っきりの時は甘えても……いい、かな……?」
「それが恋人同士ってもんだろ?ディザベルなんか何も聞かずに甘えて来るぞ?」
「そう……だよね……」
ディスティアは、俺に抱き付き、俺の胸に顔をうずめる。
「『ディザベルのお姉ちゃん』も……やめていい……?」
「……ああ」
俺から許可を貰ったディスティアは、胸の中で咽び泣いた。
「お父さんも、お母さんも!みんな……みんな、みんな死んじゃった!」
俺は、泣き崩れる彼女を、ただ抱きしめた。
……この子もディザベルと同じだ。
両親を失った頃から、心の時間は止まったまま……。
いやディザベルよりも心の傷は深いのかもしれない。
ディザベルは、心に深い傷を負っていても身体を動かせた……復讐という行為を行う事も出来た。ストレスも少しは晴らす事が出来ただろう。
でもディスティアの場合は、それが出来なかった。だって身体を動かすことが出来なかったのだから。
独りずっと頭の中で……怒りも憎しみも悲しみも後悔も、全てが、ごちゃ混ぜになった心の中で、ずっと藻掻き苦しんでいただけだ……。
例え長い年月を生きていたとしても、心は少しも成長していない。子供の頃のままだ。
「ディザベルも私のせいであんなことになっちゃった……っ!!」
そんな彼女を慰めてくれる人は……もういない。失われてしまった。
加えて彼女はディザベルの姉だ。ディザベルの中では自分を守ってくれた姉として、視力を与えてくれた、命を救ってくれた恩人として神聖化すらされている。
そのことはディザベルの中にいた彼女が良く知っているはずだ。
だから、例え姉妹でも弱みを見せることは……もう出来ないだろう。
だから今だけは、せめて今だけは、ディザベルの姉であることを忘れて、1人の女の子に戻りたかったのだろう。
───なら、俺に出来る事は決まっている。
「ありがとう、ディスティア」
「……え?」
「ディスティアが頑張ってくれたから、俺はディザベルと出会えた、この世界に来る事が出来た。ありがとうディスティア。今までよく頑張ったよ、偉いよ、本当」
「何で……何で2人とも私に優しくするの……責めないの!?」
「例え魔眼を持っていたって、お姉さんだからって子供だったんだろ?出来ることなんて限られてる。それなのにディスティアは本当によくやったんだよ。俺もディザベルも分かっているから、感謝しているから責めないだけだよ」
「う、ううぅ……!」
俺の言葉を聞いたディスティアは、声にならない声を漏らしながら泣いた。
「こんなに優しい子と付き合えるなんて、俺はなんて幸せな男なんだ」
俺はディスティアの頭を優しく撫でながら、ただ彼女を肯定する言葉だけを述べた。
「あーあ、これから好きな人に抱いてもらおうって時に台無しにしちゃったね」
泣き止み、落ち着きを取り戻したディスティアは、涙で汚れた顔を洗い、再び部屋に戻ってきた。
「台無しになんかならないさ。寧ろディスティアのことがもっと好きになったよ。こういうの庇護欲っていうのかな?」
「庇護欲なんて、そんな事をまさか年下の男の子に言われるなんてね~……」
ディスティアは、座っていたベッドから立ち上がり、着ていたパジャマを俺の前で脱いだ。
ディスティアは、ディザベルと同じ白い肌で、黒い下着を着ていた。
彼女の下着姿に俺は目を奪われる。
「キョウくん……私を見て……!私の名前を呼んで!ディザベルのお姉ちゃんじゃない、1人の女の子として私を見て───ッ!」
『自分を見てほしい!』
これが、ディスティアの心の内に秘めていた本音なのだろうと俺は思った。
だってそうだろ?
100年以上も誰からも見向きもされず、妹にさえ死んだものと扱われていたんだ。
意識はあるのに肉体は死んでいる。自分は生きていると自己主張をすることは当然出来ない。
それがやっと、孤独から、疎外感から解放されたんだ。
それが偶然、生き返ったんだ。無視され続けるっていう生き地獄から解放されたんだ。
自分を見てほしいっていうのは当然だろう。
「当ったり前だろ?」
俺は下着姿のディスティアをお姫様抱っこする。
「ディスティアの事、もう好きになってるんだ。もっとディスティアの事を知りたい、もっともっと見せてくれないと困る。でないと……襲っちゃいそうだ」
俺は、少女漫画とかでありそうな俺様系みたいなセリフをカッコつけながら言ってみる。
「───こんな抱き方をして、そんな台詞言っちゃう?」
「あ、あれ?」
ディスティアには不評だったみたいだ。
「おかしいな……俺の世界ではこんな感じのが流行ってる気がしたんだけど……」
「他人の受け売り~?そんなことしなくてもいいのに」
ディスティアは、俺の頬にキスをしてきた。
「私達が好きなのは、キョウくんなんだから」
「そ、そうだよな、ゴメン」
俺は、お姫様抱っこしたまんまのディスティアをベッドの上に優しく寝かせる。
「もー、折角の雰囲気が台無しだよー。次からは、ちゃんとしてよね~?」
「努力します……」
「…………優しくしてね……?」
「ああ、任せろ」
───こうして、俺とディスティアはベッドの中で繋がり、結ばれた。




