私の声が聞こえていますか?
「ここにはもう誰もいないか!?」
「すみません!こっちにまだ人が!」
「この家にまだ人がいるぞ!!」
「扉は壊してもいい!救助を早く!優先しろ!」
救助活動を行うマルテミの兵士達と助けを求める人々が入り乱れる中───
「……ありがとうございます、アリアステル様!!」
「もう大丈夫ですか?」
「はいっ!」
この国の王女であるアリアステルは、兵士達に混ざり、自ら救助活動を行っていた。
国民を守りたい、死なせたくないという気持ちは勿論ある。
だがそれ以上に、今回の件を引き起こしてしまった事に対する罪滅ぼしをしたいという強い思いが、アリアステルを突き動かしていた。
「順調か?アリアステル?」
一度家に戻っていたディザベルがアリアステルと合流に成功し、声を掛けた。
「ルルさん!……と……ララさん、でしたよね?」
アリアステルは、ディザベルとその横にいる彼女に瓜二つのララを見つめる。
「うん!ルルの双子のお姉ちゃん、ララだよ。よろしくね~」
「え、あ、はい、よろしくお願いします」
「それで状況はどうじゃ?」
「タロウさんがアイテムボックスを使えたお陰で物資の搬入など非常に助かっています」
「ふふんっ!まあの~ぅ!」
自分の大好きな人を褒められ、ディザベルは自分の事の様に喜ぶ。
「あやつにアイテムボックスを伝授したのは他ならぬワシなんじゃが、あやつのアイテムボックスは他の者より容量が───」
「ですが状況は芳しくありません……」
「な、なぬ───っ!?」
「いくら物資があっても人の手が全く足りていません……このままでは……」
回復薬はある、対策本部も建てた、兵達の士気も高い。でも全ての国民を助けるには全く数が足りない。
しかし手を借りようにも他国に応援を呼んでいる時間は無い。
応援が来る前に国民の半分は犠牲になってしまうだろう……。
「一体どうすれば……」
「それなら手伝って貰えば?」
「うむ、そうじゃのぅ」
「……え?一体誰に───」
ララの考えに賛同したディザベルが創造魔法を使い、アリアステルの足元から高さ5メートル程度の白金のお立ち台を創り出してしまう。
「うわわっ!?」
突然、高所に上げられてしまったアリアステルは座りながら周囲を見ると、今も懸命に救助活動を行っている兵士達の姿と倒れている国民の姿が見えた。
「ほれ、呼び掛けてみよ」
先程まで地上に居たディザベルが魔法を使ってアリアステルと同じ高さに上昇して来た。
「呼び掛ける……?」
「そこにアリアステルちゃん達に助けて貰ったけど暇そうにしてる人達がたーくさんいるでしょ?」
ララもディザベルと同じように魔法で浮遊しながら地上の民衆達を指で指す。
「あ……」
「あやつらに命令でもしてやればよい。国民を助ける為に力を貸せと」
「アリアステルちゃんの命令ならだーれも断れないよねー。だって王女さまだもん」
「……でも私の声が、ここから届くでしょうか?」
「それなら大丈夫。私が魔法で声を大きくしてあげるから」
「ほれ、突然現れたお立ち台に皆が注目している今がチャンスじゃぞ?」
「2人共、ありがとうございます!」
アリアステルは、ディザベルとララに感謝しながら大きく深呼吸し、国民達に話し掛けた。
「───皆さんっ!私はマルテミの王女、アリアステル・バケンス・マルテミです!!」
ララの魔法によってアリアステルの言葉が国中の人間に伝わる。
「アリアステル様!?」
「おい、アリアステル様があんな所にいるぞ!?」
「この声、何処から……」
「突然の事で何が起きたのか分からず、皆さん困惑していると思います……ですが今は国民全てを救う為に私に力を貸してください!」
きっと断られるだろう……罵倒されるかもしれない……それでもこの状況を覆すにはこれしか───
「勿論です!」
「幾らでも力をお貸ししますよ!」
「何をすればいいんですか!?」
否定的な意見を言う者は誰もいなかった。体力が回復した者達は皆、アリアステルの声を聞いて即座に賛同の声を上げていた。
「……え?あ?」
てっきり断られるものとばかり思っていたアリアステルは、反応が遅れてしまった。
「え、えっと……現在、私の城に緊急対策本部が、冒険者ギルドに対策支部がありますから、そこで───」
「よーし!早速ギルドに行くぞ!」
「アリアステル様を悲しませるワケにはいかないもの!」
「俺達のアリアステル様の為に!野郎共、行くぞッ!!」
「「「救助!救助!救助!」」」
先程まで国中のから流れていた陰鬱な空気が嘘のように晴れ、活気に満ち溢れていた。
「皆さん……!」
「なんじゃ?先程まで死にかけていたのに元気なやつらじゃのぅ」
「私の生誕祭と同じくらいの活気があるかもしれませんね」
「へ~、アリアステルちゃんって国の皆から愛されてるんだ~」
「え?」
私が愛されている?それは一体どういう意味なのだろうか?
「みーんな『アリアステル様の為に!』って進んで協力してくれてるもん。こんなの普通じゃあ……ねぇ?」
「うむ。緊急時にこそ余裕の無さから人の本性は出て来る物。普通は不正不満が多少なりとも出て来るものじゃが……これは凄いのぅ」
「そう……なんですか?皆さん、いつもの調子に戻ったとばかり思っていました……」
「本当に、正真正銘、この国の愛されお姫様だね、アリアステルちゃん♪」
気が付かなかった……これが当たり前の、日常の風景だと思っていた。
皆、いつも私と会うと笑顔で挨拶をしてくれたり、手を振ってくれたりしていた。
道を歩けば子供達からは私宛の手紙を、大人達からは美味しい料理や採れたての果物をくれたりもした。
いつも私に向けられる、あの笑顔が、あの賑やかさが普通だとばかり私は思っていた……。
「そういえば、店でアリアステルに関係するお土産や商品をよく見た記憶があるが……一体おぬしの支持率はどうなっておるんじゃ?」
「支持率ですか?……えぇっと…………あっ!いけません!今はそんな事より皆さんを纏めないと!!ルルさん!ララさん!手伝ってください!」
「うむ」
「いいよ~、さっきの声を遠くまで届ける魔法だね?」
「繰り返しアナウンスし続けます!ルルさんも同じ魔法が使えますか?」
「うむ、使えるぞ」
「でしたら城にある対策本部に行って参謀総長のお手伝いをお願いします!」
「うむ、分かった。連絡係じゃな?」
「はい!お願いします!」
私も連絡を取り合える魔道具を持たされているが、それは個人と個人を繋ぐだけのもので、ここまでの大人数に向けて発信出来るものではない。
あの魔法があれば、一方通行ではあるが参謀総長も国民に向かって必要事項や連絡をすることが出来る。
これは、この非常時において喉から手が出るほどに欲しい力だ。
今頃、参謀総長も私の声を聞いて驚いている頃だろう。
『───アリアステル様!?今のは一体なんですかっ!?』
言った傍から参謀総長から魔道具を通して私に連絡が入った。
「今から参謀総長の元に、同じ魔法を使うことが出来る、貴重な戦力が向かいますから受け取って下さいね」
『な、なんですと───!?』
「ではお願いしますね、ルルさん」
「うむ。ここからが正念場じゃ、お主も頑張るんじゃぞ、アリアステル」
「はい、ルルさんも頑張って下さい!」
ルルさんは、私と握手を交わしてからマルテミ城に向かって飛び去って行った。
私も出来る事をしなければ───!
「皆さん!私の声が───……!」




